Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 

 居間に戻ると、セフィロスがやってきた。

 豪快にアクビをする。

 

「お、おはよう、セフィロス」

 未だに彼に話しかけるときは緊張してしまう。

 

「……ああ」

「すぐ、食事にできるが?」

「ああ……もらおう。……おまえ、ずいぶんとすっきりしたツラをしているな」

 フンと鼻で笑い、氷のような蒼い瞳が私を見る。

 眠そうにしていても、セフィロスの怜悧に整った面差しは、冷ややかで美しくて、じっと見つめられると、心臓をわしづかみにされるような感覚に陥る。

 

「あ、あ……いや……その……」

「なんだ、あのガキと話をしたのか?」

「あ、ああ、今朝……クラウドの機嫌がよかったようなので……その、ありがとう、セフィロス」

「ハァ?」

 迷惑そうに眉をひそめるセフィロス。

 私が礼を言っても、いつも彼は素直に頷いてはくれない。

                                                                   

「……心配掛けてすまなかった」

「やれやれ、勝手にしろ」

 お手上げと言わんばかりに吐き捨て、私の目の前をズカズカと通り過ぎると食卓につく。ヤズーが私たちのどうしようもないやり取りを、微笑を浮かべつつ、困ったように眺めているのもいつものことだ。

 

「オイ、イロケムシ。昨夜はずいぶんと遅くまでお楽しみだったようだな」

 いきなりそんなことを言い出す。

 ……直球のセフィロスであった。

 さりげなく聞き出すという、私とクラウドの計画は呆気なく消え去った。

 

「なぁに、その言い方。失礼しちゃうなぁ」

「まァ、ヤリたい盛りのガキだろーからな。変な病気もらってくるんじゃないぞ」

 言葉を選ばないセフィロスであった。となりで聞いている私のほうがドキドキしてしまう。

「ちょっと、アナタねぇ。さかりのついたネコみたいな言い方しないでくれる?兄さんじゃあるまいし」

 さりげなくヒドイことを口にするヤズー。だがそれを否定している余裕はなかった。

 

「フフン」

 含み笑いをするセフィロス。

「変な笑い方しないでよ。決まってんでしょ。おシゴトだよ、お仕事。そろそろ兄さんとヴィンセントに恩返ししておかないとね」

 そういうと、こちらに向かって、パチンと目をつむって……もといウインクしてみせた。女性のように美しいヤズーがそんな洒落たことをしてみせると、とてもサマになっていて、私などはつい赤面してしまう。

 だが、セフィロスはヤズーの返答に、形良い眉をひょいと持ち上げ、いかにもわざとらしく、嘆かわしいというジェスチャーをしてみせた。

 

「シゴトねぇ……真夜中にいったいどんなシゴトをしているのか……はぁ、ヤレヤレ……これだからケツの青いガキは……」

「ちょっ……ひどいなぁ、セフィロス。俺は別に……」

「まぁ、貴様は見てくれがいいからな。さぞかし高い値が付くのだろう」

 私は顔にカッと血が上った。

「ヤ……ヤヤヤヤヤ、ヤズー!」

 自分でもわかるほどの動揺が声に表れていたと思う。

 私の滑稽なほどうわずった声音に、ヤズーが驚いたようにこちらを見た。

 

「ヴィンセント?」

「そ、そんな……一体どんな仕事をしているというんだ? ま、まさか……おまえの身体を汚すような……」

「ちょっとォ、やだなァ、ヴィンセント。女の子じゃあるまいし」

 手振りを加えて、そう言うヤズー。

「そ、それでもダメなものはダメだ! おまえはまだ若いのだし、お金のためにそんなこと……」

「い、いやいやいや、落ち着いてよ、ヴィンセント」

 そんなやり取りの中、セフィロスがいきなり吹き出した。

 

「ブハーッ!ハッハッハッ! ああ、可笑しいッ! 貴様はまったく思ったとおりの反応をしてくれるなッ!」

 堪えられないといった様子で腹を抱える。

「ハーッ ハハハハハ! ああ、なんて可愛いんだろうな、オマエはッ!」

「セフィロス、茶化すのよしなさいよ。本気で心配してくれてるヴィンセントに悪いでしょう」

 めずらしくもキビシイ口調で、セフィロスをいさめるヤズー。

 木偶の坊のように立ちつくす私に、すまなそうに声をかける。

 

「心配掛けてゴメンね、ヴィンセント」

「ヤズー……?」

「セフィロスが言うようなことは全くないから。ただ必要以上に気にされちゃうと困るからさ。詳しく言わなかっただけなんだよ」

「……本当に?」

 不安げな私をなだめるヤズー。

「ホラ、夜の仕事だからさ。ヴィンセントみたいな真面目な人からすると、きっとそれだけで不安に感じるんじゃないかなと思って」

「まァ、貴様のそのツラと外見で、シノギのいい仕事といったら客商売だろうな」

 ごく当然というようにセフィロスが言う。最初からわかっていたと言わんばかりの彼の態度に、予想さえできなかった私は軽い自己嫌悪に陥りそうになる。

 

「そう、ホストさん。お嬢さんや奥様たちに、つかの間の癒しを与えて差し上げるおシゴトだよ、ふふふ」

 にっこりと微笑んでヤズーが言った。

「フン、物は言い様だな」

「ってなわけでヴィンセント。お酒とおしゃべりの相手をしているだけだから、そんなに心配しないで。仕事も毎日入れているわけじゃないしね」

「……ヤズー」

「フフ、それにね……」

 ひどく楽しいことを思い出したようにヤズーは続けた。

「わりといいお店なんだよ。そこそこの高級店なんだけどさ。任され店長さんが、あなたに似ているんだよ」

「……え?」

「ふふ、同じ黒髪でも彼は短いんだけど。口数が少なくて大人しい人でさ。なんとなくいつも少し困ったような不安そうな顔しててね。俺、力になって上げたいんだよねェ」

 フフフ……とまるでセフィロスのような意味ありげな微笑を浮かべる。ヤズーはセフィロスの思念体なのだ。こうして含み笑いをした時など、本当によく似ていると感じられる。

 

「ま、そんなわけだから。あんまり心配しないで。俺が気になっているのは、カダがぐずらないかってコトくらいだよ」

「……でも……その……ヤズーひとりにばかり、そんな苦労をかけるのは……」

 尚も言いつのる私に、彼は困惑したような微笑を浮かべた。

「いやだなァ、そんなふうに考えないでよ、ヴィンセント。実際、けっこう楽しんでやってるんだし。それとカダとロッズの分も含めてね。俺にできることなら、させてもらいたいだけだから」

 ニヤニヤと笑っているセフィロスを横目に、ヤズーはやさしくそう言うのであった。