Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 夕方。

 クラウドが仕事から戻ってくるのを待って、私はさっそく彼に切り出した。

 

「……というわけなんだ。ヤズーは心配しないで欲しいと言っているのだが……」

「ふーん、ホストねぇ。まァ、客商売なら上手くやりそうなヤツではあるよな」

 思いの外アッサリと頷くクラウド。絶対に反対すると思っていたのに。

 

 偏見といわれようとなんだろうと、どうしても私は夜の仕事に抵抗がある。

 どこか後ろ暗いような……なんといえばいいのだろうか。

 

 もちろん、女性の話し相手というだけなのだから、それほど神経質になる必要もないと思うし、本人も気楽に構えているようだ。

 

 だが……

 

「クラウド……ヤズーは大丈夫なのだろうか。彼が器用な人間だとはわかっているのだが……なんだか……気になってしまって……」

「まぁ、ヤツのやることだからさ。正直俺は、それほど不安に思っているわけじゃないよ。ただあまり金のことは心配するなと伝えてくれ」

 夕食を掻っ込みつつ、クラウドが言った。

 ヤズーは、カダージュたちと風呂に入っていて、この場にはいない。

 相変わらずセフィロスは、ソファに寝そべってのんびりとしている。

 

「……あの、クラウド……」

 私は再び口を開いた。

「んー?」

 もごもごと口を動かしつつ、彼が応える。

「その……おかしなコトを訊ねるが……」

 セフィロスに聞こえないよう声をひそめる。彼の耳に入れば、きっとまた世慣れしていない私のことをひどく笑うに違いないからだ。

「ん、何? あ、おかわり」

「あ、ああ」

 まずはクラウドの皿を取り替えてやる。

「ありがと。あ、何だっけ、ヴィンセント」

「ええと……その……具体的にホストの仕事というのはどういったことをするのだろうか? あ、いや、酒の相手ということくらいはわかるのだが、酌婦のようなものなのだろうか?」

「……『しゃくふ』……ね。またずいぶんと古くさい言い方っていうか……ヴィンセントらしいけどさ」

「あ、す、すまない」

「ふふ。でもだいたい合ってるんじゃないの? 酒の相手と気の利いた会話で客をもてなすんだろ。フツーのホストクラブなら、客は女性だから、まぁ、女の機嫌取りみたいなもんだな」

「そうか……苦痛ではないだろうか……」

「アイツの性格なら、けっこう楽しんでそうだけどな」

「そ、そうか……な」

 私はぎこちなく頷いた。

「さてと、ごちそーさま。風呂は入ったし、俺、今日は早めに寝るね」

 ふわぁと大きなアクビをひとつしてみせると、クラウドは立ち上がった。

  

 ふと昨夜の、セフィロスとの会話が脳裏を横切る。

「あ、ああ、あの……クラウド……」

「んー?」

「きょ、今日は疲れているか?」

「え?」

「あ、いや、そういうことではなくて……おかしな意味ではなくて……さ、最近、嵐のせいで、ずっとゴタゴタしていたし、クラウドも忙しそうだったから……あまり……その……ふたりで……その……」

「……ヴィンセント……」

 私の名をつぶやくと、なぜか感動したように瞳を潤ませるクラウド。

「あ、あの、クラウド? 私はただもう少し一緒に……話を……」

「ヴィンセントーッ!」

 まるで子犬がじゃれかかるように飛びついてくるクラウド。

 セフィロスの言葉を思い出し、さりげなく口にして見せただけなのだが、クラウドのリアクションは予想以上だった。

 ぎゅっとばかりに私の背に腕を回し、胸の辺りにぐりぐりと顔を押しつける。

「こ、こら……よさないか……子どもではないのだから……」

 案の定、ソファのセフィロスが身をかがめて笑いを堪えている。

 

「ヴィンセントの匂い好き、大好き! よかった、アンタが俺のこと忘れないでいてくれて」

「……? なにを……忘れることなどありえないではないか……一緒に住んでいるのだし……」

「違うよ、そーゆー意味じゃなくて」

「……? クラウド……?」

「セフィやカダたちがこっちに来てから、アンタずっと忙しそうで、あいつらばっかりにかまってるんだもん! 俺のこと後回しでさ……」

「い、いや……そんなつもりは……」

「いいよ、わかってるよ、ヴィンセントはやさしいもんね。でもやっぱり、俺には特別にかまって欲しいの、側に居て欲しいんだよ!」

「……クラウド……」

 幼い子どものようにぴったりとくっついてくるクラウド。

 ふわふわした金の髪を撫でる。ひどく心地よさそうに瞳を細める彼は、なんというかとても可愛らしくて、幼くて……今さらながら、彼が私よりもずっと年少なのだということを思い出す。

 こんなにも淋しい思いをさせていたのかと考えると、私の心はひどく痛んだ。

 

「……すまなかった。もう少し話をする時間が欲しいと思っている」

「うん、うん! 話だけじゃなくて、一緒にお風呂入ろうよ? 一緒に寝よう? ヴィンセントが嫌なら何もしないし」

「……え、あ、ああ……」

「ね? ヴィンセント!」

 ぐいぐいと服を引っ張られて困惑してしまう。

 どうしても私は……なんというか、世の恋人たちが交わすような睦言のたぐいを口にすることが出来ない。

 

「あ、ああ、そうだな……今日は話だけで……いいなら……」

「うんッ! じゃ、俺、部屋で待ってるから! ヴィンセントもすぐ来てね?」

「ああ……だがこれから風呂に……」

「上がるまで起きて待ってるからッ! 寝ないでいるからさ! 絶対来てね? ね?」

「わかった……わかったから、ほら、部屋に戻れ。そんな格好でフラフラしていると身体によくない」

 クラウドはいつもシャワーを済ませてから食事をとる。必然的に湯上がりは寝間着になってしまうのだ。

「じゃ、後でね、ヴィンセント!」

 チャッ!とばかりに顔の横にVサインを出すと、子どものようにタカタカと走っていってしまった。

 今夜は、ヤズーも家にいることだし、少しゆっくりとクラウドの話を聞こうと……そう思っている。