Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 私が一階のリビングに降りたとき、すでにセフィロスの姿はなかった。

 

 この場所は立地がよいだけに日当たりも良好だ。きっと朝陽のまぶしさで起こされ、辟易して自室に引き取ったのだろう。

 

 ……昨夜は私の愚行のせいで、またもセフィロスに迷惑をかけてしまった。

 彼が、コスタデルソルにやってきて、しばらく経つわけだが、その間ずいぶんと私は助けられている。

 クラウドは彼を「敵だ、敵だ」と言うが、どうしても私にはそうは思えない。むしろ、かつて非力であった私が救えなかった彼女の代わりに目の前に現れ、つぐないの機会を与えてくれているかのようにさえ感じる。

 

 ……そんなことを考えているうちにヤズーが起きてきた。

 時計を見れば、もう八時だ。じきクラウドもやってくるだろう。

 

「……おはよ、ヴィンセント」

 ヤズーにしてはめずらしく眠たそうにつぶやく。

「ヤズー……大丈夫か? 昨夜は遅かったのだろう?」

「ん……」

「気にせずもう少し休んでいたほうが……」

「んー、大丈夫、大丈夫。みんなの朝食が済んだらもう一休みさせてもらうし」

「……だが」

 なおも言いつのる私に、いつもの艶やかな微笑で応えると、

「ヴィンセントは心配性だね。少し眠いだけだよ。全然平気だから」

 そう言う。

 

「……あの……ヤズー」

「んー? ええと、レタスレタスと……オニオンは? スライスすればいいかな?」

「え、あ、ああ……いや……あの……」

 別に詮索するつもりではないのだが、やはり深夜の外出は気にかかる。

 家がこんな状況だからこそ尚更だ。

 口火を切ろうとするのだが、なかなか上手くいかない。

 

「……おはよ、ヴィンセント、ヤズー」

 赤い目をしたクラウドが居間に入ってくる。

 それでもきちんとシャワーをすませたのだろう。頭からタオルを被り、ローブを羽織っていた。

 

「おはよう、兄さん」

「お、おはよう……クラウド……」

 ヤズーが皿を取りに引っ込んだ時を見はからって、私はクラウドに話しかけた。

 もちろん昨夜の件を謝罪するためである。

 

「クラウド、あの……」

「……ヴィンセント、昨夜はゴメン」

「え……あの……」

 出鼻をくじかれて続きが言えなくなってしまう。

「……ベッドの上で反省したんだけどさ。何か俺、自分のイライラをアンタにぶつけただけみたいだ」

「……クラウド」

「あいつらのことも、セフィロスのことも、結局は俺自身が答えを出して、アンタに了承を取ったことなのに」

「そんな……私は……」

「俺さ……」

 と、微かに笑みを浮かべ、言葉を探すようにしてクラウドが続ける。

 

「俺さ、たまにどうしようもなく不安になることがあるんだよね」

「え……?」

「ヴィンセント、俺と一緒にいるようになってから、前よりもよく笑ってくれるようになったし、他人とも話をするようになったじゃない?」

「それは……おまえのおかげで……クラウドが側にいてくれるから……」

 私は急き込むように、彼の声にかぶせて言いつのった。

 機転の利くヤズーが、気を利かせて少し離れたところで盛りつけを進めてくれている。

 

「ん……だからさ。まわりの連中がアンタの良さに気づき始めてる。いや、今までだってわかってるヤツは知っていたんだと思うけど、それ以上にたくさんの人がアンタを好きになると思う」

「…………」

「そうしたら……その……アンタが、誰か他のヤツんところに行っちゃうんじゃないかって……」

「そんな……」

「ほら、特にさ……ヤズーとかセフィロスとか、男の俺の目から見ても、強いし格好いいヤツらがアンタにかまってくるの見て……そんでちょっとシットしました。ゴメンなさい」

 最後、そんなふうにまとめると、クラウドはぺこりと頭を下げた。チョコボの尾羽根に似た金色の髪が一緒にひょこりと前倒しになる。

 

「え……あ……そんな、あやまらないでくれ。わ、わたしは……言葉が足りないのだと思う。クラウドのようにきちんと想いを伝えることができないから……いつも……その……」

「ヴィンセント、怒ってないんだ、よかった」

 クラウドはホッと息を吐き出した。

「なにを……私がおまえに怒るようなことなど何もない」

 私は言った。もちろん本心からの言葉だ。

「それ聞いて安心した。……そのヤズーのことは、俺もそれとなく注意しているから」

「あ、ああ……」

「ヴィンセントもなにか聞けるようだったら、さりげなく聞き出してみてくれる?」

「あ、ああ、もちろん」

「じゃ、俺、仕事行ってくるね」

 そういうと、クラウドはつま先立ちになって、私の頬に口づけると、遠慮がちに手を振って出て行った。もちろん、玄関まで送ってゆく。

 彼のバイクが見えなくなるまで、見送っている間に、つい安堵の吐息が口をつくのであった。

 

 ……時を経るごとに、クラウドのやさしさや気遣いを、あたりまえに思ってしまっていたのだろうか。年若い彼の感情を受け入れるより、頑なな私の在りように合わさせているのではなかろうか。

 

 私はいつでも失ってから後悔する愚か者だ。

 だが、クラウドだけはそうしたくない。

 彼の存在が、私にとっての唯一の希望であり、光の世界への道しるべなのだから。