Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

「……いくらなんでも、さっきのはちょっとヒドイんじゃないの?」

 案の定、ふたりきりになってから、長髪のイロケムシがオレに抗議してきた。

「フフン、他人の言葉に動じるヤツが悪い」

「……『動じる』ってわかっててやってるんだね、セフィロスは」

「あたりまえだろう。あのガキは落ち込んだ顔や泣き顔のほうが可愛らしいんだ。たまに見たくなる」

「……あなたねぇ……ホントに意地悪なんだね」

「誉め言葉ととっておこうか」

 オレは口唇だけ歪めて笑ってやった。

 この男……ヤズーとの会話は、テンポがよく、あまりイラつくことがない。ヴィンセントとは対照的だ。

 洞察力にも優れているのだろう。オレがなにを考えているのか読み取って、一歩先のことを口にする。

 

「じゃ、悪いんだけど、セフィロス。ヴィンセント、捜しに行ってくれる?」

 唐突にそんなことを言われて、オレは手にしていた雑誌を取り落としてしまった。

「……ハァ? なんでこのオレが……」

「頼むよ。まだ内のほう、片づいてないし。カダとロッズもいるからさ」

「ガキどもふたりに留守番させておけばいいだろう」

「だって、あなたとカダージュ、すぐケンカするじゃない」

「ケンカじゃない。あのガキが勝手に絡んでくるんだ」

「はいはい、わかってますよ。でも、お願い。兄さんにああ言った手前、ヴィンセントを放って置くわけにもいかないし……別にあなたが言ったとおりのことを心配しているわけじゃないんだけど……」

 めずらしくも殊勝な物言いをするイロケムシ。

 たいてい、こいつが口を開くと、弟かヴィンセントのこと、それに俺やクラウドへの説教ばかりだ。

「あの人……生真面目で不器用だからさ。なんだかよけいな気遣いをしていそうで気になるんだよ」

「フン……まァ、貴様に恩を売っておくのも悪くないか」

 俺はそうつぶやいて起きあがった。

 ちょうど退屈していたところだし、ガキどもとここにいるより、気分転換に街に行くのも悪くはない。

「ありがとう、セフィロス」

「まぁ、期待せずに待ってろ」

 オレはそう言い残すと、着の身着のままでコンドミニアムを後にした。

 

 外に出てみると、コンドミニアムの立地条件の良さが伺える。

 クラウドの別荘から、そう遠く離れていないはずなのに、右手を見れば紺碧の海……蒼い空……左手には、この都市唯一の、高級歓楽街がある。そのくせ、喧噪からは適度に遠く、夜になれば美しいネオンが瞬くだろう。

 

 オレはヴィンセントが立ち寄りそうなところ……今日は買い物ではないだろうから、青物市場は素通りする。

 市街地はイースト、ウエスト、サウス、ノースと四つエリアわけされており、クラウドの別荘はイーストエリアの東端に位置する。コンドミニアムがイーストとノースのちょうど境目で、歓楽街はノースエリアを中心に栄えているのだ。

 

「こんなときに、わざわざ遠くまで足を伸ばすこともないだろう」

 ひとりごちると、イーストの繁華街を歩いていく。

 繁華街とはいっても、こちらはかわいいもので、庶民のための食堂や居酒屋、服飾店、そしてタウンホール(要は市役所のようなものだ)などがある。

 

 小市民的な連中が、オレを振り返って見る。

 この穏やかな、そして小さな町にふさわしい人間ではないと感じるのだろう。昔から他人の好奇の目にさらされるのは慣れているが、ここの奴らは悪意がないせいか不快には思わない。

 

 オレはほどなくして尋ね人を見つけた。

 『エンプロイメント・オフィス』……いわゆる職業安定所だ。

 

 ヴィンセントは、内面は複雑怪奇なくせに、行動がひどく短絡的なヤツだ。

 

 建物の中に入る勇気はなかったらしく、掲示板の張り紙を思い詰めた表情で見つめている。

 

「ほぅ……コンパニオンにホストか……おまえは女の相手はできるのか」

「セ、セ、セフィロス……ッ」

 本当に驚いたのだろう。オレの目線よりわずかに下から俺を見上げ、サッと蒼ざめる。

「ち、違うんだッ……あ、あの……そ、その……」

「まぁ、おまえじゃ、土方や力仕事全般は無理だろうしな」

「セ、セフィロス……こっち……こっちへ……!」

 そういうと、泣き出しそうな顔になって、オレの手をぐいぐいと引っ張る。

 

 ヤツはオレの手をつかんだまま、湾岸公園まで引っ張っていった。

「はぁッ……はぁッ……はぁ……」

「おい、自分で走り出したくせに息を切らせるな、軟弱者が。ったく貴様の行動は可笑しいほどに単純だな」

「あ、あの……セフィロス……その……私は……」

「クラウドに言ってやったら、相当落ち込むだろうな」

 怯えた表情のコイツを見ていると、ついつい泣き出すまで虐めたくなってくる。

 オレは十分酷いことを言っていると自覚しつつも、冷ややかにそう言ってやった。

 

「セフィロス……ッ! 違うんだ……別に……すぐにどうこうということではなくて……その……私にも何かできることがあればと……」

 縋り付かんばかりの勢いで言い募るヴィンセント。

「そうだな」

 オレはひとつ頷いて言葉を続けた。

「クラウドは頼りないからな。おまえが心配になるのもわかる」

「セフィロス……ッ!」

「あいつがおまえにどう言ったのかは知らんが、頼り続けるのはさぞかし不安だろう」

「そ、そうじゃない……ただ……私は彼に迷惑ばかりかけていて……いつも……足手まといで……なにもしてあげられないから……」

 ボソボソとヴィンセントがつぶやいた。

 独り言のような声が、苦しげに揺れる。

 

「フフフ、また泣き顔か。呆気ないな、おまえは」

「……セフィロスにはわからない。君のように優れた人には……」

「ああ、わからないな。ま、そんなクソ情けない貴様は、あのガキを信じて、家に居てやれ」

「……え……?」

「おまえのおかげで、あのガキなりに成長したんだろ。オレの側に居たころよりも遙かにな」

 オレはひょいと両手をあげて、そう言ってやった。

「セフィロス……」

 ヴィンセントが驚いたように目を瞠る。

「それに長髪のイロケムシが、何やら考えているようだったからな。あいつの顔を立てて、大人しくしていろ」

「…………」

「居候なりに気を使ってるんだろ。それにオレは貴様のメシが食えなくなるのは困る」

「……セフィロス」

 オレを見つめる血の色の瞳。

 

 神羅のエリート部隊、元タークスの男……背後の鳥を撃ち落とす、神技のガンマン……

 到底目の前の細い男を評した言葉とは思えない。

 コイツに会って、オレは「人は見かけに寄らない」という言葉を、本当の意味で理解したような気がする。

 

「……帰るぞ。おまえの姿が見えないとガキどもが心配する」

「……ああ」

 素直に頷くと、オレの後について歩き出す。

 こんなところは遙かにクラウドよりも、ものわかりがいい。

 

「おい、並んで歩け」

「……あ、ああ……あの……」

「…………」

「あ、あの……セフィロス……」

「なんだ、早く言え」

「あ、ありがとう……その、いつも……いつも……」

「相変わらず、わけのわからんヤツだな、貴様は」

 そう言い返すと、ヴィンセントはおとなしくなった。

 

 オレの冷ややかな口調に、萎縮して口を噤んでいるのかと思ったが、そんな様子でもなさそうだった。

 紅い瞳は、常と変わらず、夢見るように穏やかであった。