Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 結局、俺たちはヤズーの勧めどおり、別荘の大幅改築に踏み切ることにした。

 依頼先は、フィガロ照会だ。

 

 陽気なふたりの兄弟に、ヤズーが注文したのは以下のとおりだ。

 

『タイフーンの時期でも特別な備えをしなくても、大丈夫なように造作をしっかりしてほしい』

『ついでに、キッチンを最新式のものに。ディスポーザーもつけてくれ』

『乾期に急に冷え込むことがあるかもしれないから、広間に床暖房を』

『工期は20日以内で』

 

 俺は、任せてくれという言葉に、しぶしぶながらも頷いてしまった手前、後ろであわあわと慌てふためきつつ、ヤズーと大工のやり取りを見守るしかなかった。

                                     

 さっそく今日から、準備にとりかかるというフィガロ兄弟に、俺たちはとりあえず身の回りのものだけとりまとめて、観光客用のコンドミニアムに移った。

 このコンドミニアムは、いわゆる観光客でも、金持ちの新婚旅行や、イベント事などに使われるような高級な施設であり、宿泊代もかなりかかる。

 おまけに20日ともなれば、それだけで出費も甚大だ。

 難色を示した俺に、ホテルはどうしても避けたいとヤズーは言うのだった。

 

「ごめんね、兄さん、ホテルは……ちょっとまずいんだよ」

「どうしてだよ、改築の間だけなんだから、安いホテルでいいだろ」

「……カダをね、あまり人目にさらしたくないんだよ」

 ヤズーにしては、めずらしくためらいがちにそう言う。

「…………」

「まだ、人慣れしていない子だし……勝手がわからない場所だと、何をするか心配だからね」

「……そ、そっか……」

「コンドミニアムなら、みんなで別の家に移動するようなものだから、大丈夫だと思うんだけど……ごめんね、兄さん」

 困惑したような笑みを浮かべてヤズーがつぶやく。

「……宿泊費は心配しないで。ここは後払いみたいだし、それくらいの手持ちはあるから」

「心配するなって……ここ、コンドミニアムとは言ってもかなり高級だぞ? 一流ホテルと変わらないだろ」

「うん。でも、バカ高いわけじゃないからね。カダのためなら仕方ないよ」

「……ヤズー」

「そんな顔しないで、心配しないでよ。兄さんはいつもどおり、仕事、がんばって。後のことはとにかく俺にまかせてよ」

 

「……なんで、そこまでしてくれるんだよ」

 俺はつい、そんなことを訊ねてしまった。

「ん?」

「だ、だからさ。その……なんで、そんなにいろいろしてくれるんだよ……別荘の改築とか……宿泊費まで……」

「何言ってるの、兄さん。あたりまえじゃない。勝手に世話になっているのは俺たちなんだよ。兄さんとヴィンセントは、俺たちのわがままを受け入れてくれたんだから」

「……一方的にじゃないぞ。ヴィンセントは……いや、俺だって、おまえたちと一緒にいるの、楽しいし」

 年下とはいえ、余裕たっぷりの艶やかな微笑を前に、俺はしどろもどろになってしまった。

「ふふふ、そんなふうに言ってくれるんなら、なおさらお役に立たないとね」

「ヤズー……」

「さ、おしゃべりはおしまい。とりあえず荷物片して落ち着こう」

 そういうとヤズーはさっさとバッグをもって部屋に引っ込んでしまった。

 

 コンドミニアムは知ってのとおり、ベッドルーム、リビング、ダイニング、キッチンから成るユニットが使える。そのためホテルより居住スペースが広く、食事を作ったり、ゆったり過ごすことができるのだ。

 その代わりホテルのように各種サービスが充実しているわけではないので、基本的に自分のことは自分ですることになる。もっとも洗濯や掃除は頼めるが、ヴィンセントは必要ないと言っていた。

 一戸建て仕様のコンドミニアムは、南国風の庭園にたたずみ、背の高い樹や色あざやかな花に囲まれている。なるほどカップル向けの一等地といわれるだけのシチュエーションだ。

 

「フン、もとのウチよりずいぶんと華やかな場所だな」

 着替えをすませたセフィロスが言った。

「悪かったね、地味な別荘で」

「ほらほら、兄さん、セフィロス、お茶が入ったよ」

 最近、俺とセフィロスの仲裁にも慣れたのか、至極いいタイミングで声をかけてくるヤズー。

 

「ねぇねぇ、兄さん!ヤズー!ヴィンセント!  プールがあるよ! 泳いでもいい?」

 ドタバタとお子さま組が駆け寄ってきてそう言う。

 まったく悩みが無くてうらやましい。

「そうだな。プールなら、痛くならないだろうし。あまり日焼けしないように気をつけるんだぞ」

「うんっ! 行こうぜ、ロッズ!」

「おう!」

 

「やれやれ……」

 俺はフゥっと溜め息をついた。ヴィンセントに心配はかけたくないから、彼の目の前で頼りない姿をさらすわけにはいかない。

 それに今日は午後からでも、配達の仕事をすませてしまわなければならない。昨日、午前中はなんとか回っていたのが、午後になるととてもじゃないがバイクに乗っていられる天候じゃなくなった。

 

「さてと、そろそろ仕事、行ってこようかな」

「お疲れさま。兄さん、無理しないでね。とにかく今度の一件は俺にまかせて、ね?」

「う、うん……あれ? ヴィンセントは?」

「ああ、何か街に用事があるって言ってたよ」

 机を拭きながらヤズーが答えた。

「なんだろ……仕事行く前はいつも居てくれるのに……」

「フン、財政難の折り、身売りでもしてるんじゃないか?」

 ひどいことを言うセフィロス。

「ちょっ……アンタなぁ! 言っていいことと悪いことがあんだろッ!」

「あながち冗談でもないだろう。昨夜の家計の話は、ずいぶんとショックだったようだぞ」

「……え……」

「いつものあの暗い顔つきで、『クラウドには迷惑ばかり……』とかつぶやいていたしな」

 クククと意地の悪い笑いを浮かべて、ソファに寝そべったままそんなことをささやく。

「なんだよ、それ……もう、迷惑なんて、全然思ってないのに!」

「落ち着いて、兄さん。いくら家のことが心配でも、ヴィンセントがそんなことするはずないだろう?」

「……う、うん、そうだよな……」

「そうだよ。セフィロスもひどいことばかり言うもんじゃないよ」

 眉を顰めるヤズー。

 でも、心配だ。気になる。

 生真面目で繊細な彼だからこそ……突拍子もない手段を選ぶのではないかと。

 ヴィンセントが、昨日、家計の状況について、ひどくショックを受けていたのは知っている。でも、俺から見れば、たいして深刻な状況などではなく、彼が思い詰める必要はまったくないと思うのだが。

 

「兄さん、ほら、そろそろ行かないといけないんでしょ?」

「あ、ああ……うん……」

「大丈夫だったら」

「うん……わかってるけど……」

「わかってるってカンジじゃないな。心配で心配でたまらないってツラだ、クラウド」

 フフンと鼻で笑ってセフィロスが言った。

「……セフィがよけいなこと言うからだろ」

「それにいちいち動揺するな、ホンットにガキだな、おまえは」

「セフィが来るまではちゃんとしてたもん、俺……」

「フン、ならば、まだおまえはまだ半人前ということだ。人ひとり支えるのは荷が重いのだろう」

「そんなことない! ヴィンセントとなら……」

「守る側に回るのは、おまえはまだ早過ぎる」

「…………」

「ちょっと、セフィロス、言い過ぎ」

 黙り込んだ俺をかばうように、ヤズーが口を挟んだ。

 フンという調子で、雑誌に目を戻すセフィロス。

 

「大丈夫だよ、兄さん。何なら、俺たちがヴィンセントの様子、見ておくから」

「……ヤズー」

「ほら、仕事に行くんでしょ? 気をつけていってらっしゃい」

「う、うん……じゃ、俺……行ってくる」

 俺は言葉にしにくい苦いものを噛み締めたまま、コンドミニアムを出た。

 胸が苦しいということは、セフィロスに指摘されたことが、図星をさしているということだ。

 

「俺……もっとしっかりしなきゃ……」

 口に出してそう自分自身にそう言い聞かせる。

 思い悩んで落ち込んでいる時期は、もう卒業したはずだ。

 今は、前を見てしっかり生きて行かなきゃならない。それが例え、どんな人生だろうとも。

「……あ、でも、どんな人生でも、ヴィンセントと一緒じゃなきゃヤダな……」

 思わずこぼれ落ちた言葉に、ぼりぼりと頭を掻いて、俺はバイクに飛び乗った。