Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 
 クラウド
 

 

 

『きゃ……ッ』

 という小さな悲鳴が耳に飛び込んでくる。

 ものすごく間近で聞こえるのは、俺が白雪ちゃんを背負っているからだ。

「大丈夫? 目瞑って、下見ないほうがいいよ」

 塔から垂らした縄ばしごは、ぬるい夜風にさえゆらゆらと揺れる。なんせ、物見塔のてっぺんから、頼りないはしご一つで降りているのだ。女の人にとってはたまらないだろう。

 ……正直、この俺だって怖いくらいなんだから。

「ぜったい落っことしたりしないから、安心して」

 何度も声を掛け、励ましながら降りてゆく。

 しかし、この段になってさえ、無事に水牢に到着したら、どうやって救出するかということは考えてはいなかった。いや、考えようがなかったのだ。

 この時代、『水牢』というものの作りがどうなっているのかなどは、想像するくらいしかできないし、今、セフィやヤズーがどういう状況になっているのかさえわからない。

 とにかく放っておくことができなくて、閉じこめられている場所へ駆けつけようとしているのだ。

 きっと、セフィが側にいたら、ひどく叱られることだろう。無策に動き回るなというのは、軍人の鉄則だから。

 セフィロスはああいう人だから、現役時代にはずいぶん無茶なことをしていたらしい。ジェネシスやソルジャーの統括の人に、説教されていたのを何度か目撃している。

 それでも彼は身体を張って危地に突っ込んでゆく。一見、無謀と思われるような状態であってさえもだ。

 しかし、セフィロスの場合は、おのれの力に自信があるから無茶を押し通すのだ。いかなる悪状況であっても、くぐり抜ける自信と覚悟ゆえ。

 それが今の俺にあるのかと言われれば、正直……『ある』と言い切ることはできないのかもしれない。現にたった今、こうして塔を降りているのだって恐ろしくてたまらないし、どうやってセフィロスたちを救出すればよいのか見当もついていない。

 素人の女の子ひとり連れて、単独行動しているのが、怖くて仕方がないのだ。

 ……でも、それでもやっぱり俺だけがヴィンセントのところに帰るわけにはいかないのだ。

(何故って聞かれても困るけどね……やっぱ見捨てて逃げるのってカッコ悪いし)

 夜風に吹かれながら、俺はぼそりとつぶやいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ギイギイと音を立てる縄ばしご。

 ようやく俺は足が付く場所まで下ってこられた。

「よっと!」

 軽く反動を付け、はしごから飛び降りると、白雪ちゃんが小さく悲鳴をあげた。

「ごめんごめん。もう大丈夫だよ。下についたからね」

 目を瞑っていた彼女に声を掛ける。

 夜空を仰いでも、塔のてっぺんを見ることはできない。それだけ高い場所から降りてきたのだ。今になってガクガクと足が震え、白雪ちゃんに不思議そうな面持ちで見られてしまった。

「この扉が牢への入り口でいいんだよね?」

 そう訊ねると、彼女は慎重に頷いた。

 この通路を通り抜けて、さらに地下に降りて行かねば水牢にはたどり着けない。

 俺は彼女に絶対に背後から出るなと言い聞かせ、慎重に扉に手を掛けた。

 

 ギィィィ……と重苦しい音を立て、重厚な木と鉄で作られたドアが開く。

 最小限の光しかない廊下は、鉄格子の牢の中に、果たして罪人が捕らわれているのかどうかさえ確認することは難しかった。

 だが、ときおり聞こえるうめき声や、息づかいで、牢の向こう側には幾人かの人間が生息しているのだということだけはわかった。

 お世辞にも衛生的とは言い難い場所だ。ドアを空けた瞬間から、異臭が鼻を突く。俺の後ろで白雪ちゃんが、息をつめている様子にも気づいていた。

 俺はよろけそうになる彼女の手をとった。

「こっからは手、繋いでいこう! 大丈夫、俺が一緒にいるんだからね」

 声を励まして、彼女に言った。俺がビビッてどうする。

 気味の悪い声の響く、牢の廊下を壁伝いに足早に走り抜けると、中腹あたりに潜り戸のような小さな出入り口を見つけた。俺は気づかないで通り過ぎるところだったのだが、白雪ちゃんが教えてくれたのだ。

 鍵のかかっている様子はなく、取っ手を横に引っ張ると、それは容易に開かれた。

 まるで終わりのない洞窟のように見えるが、迷っている時間はない。俺たちは覚悟を決めると、その穴をくぐり抜けて進んだ。