Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 
 ヴィンセント
 

 

 

「……ヴィンセント、どこに行くつもりだね?」

 そっと部屋を抜け出したものの、みごとに廊下でジェネシス王子と鉢合わせになってしまう、間抜けの私だ。

「あ……いや……その……」

「今宵は冷える。……部屋で暖かくしていたまえ」

 そう告げられ、私は手を取られた。そのまま、さきほどの客室に連れ戻されてしまう。

 もう夜も遅い時間だ。最後の鐘を鳴らせてから大分時間が経つ。打ち合わせ通りに事が運んでいるのなら、そろそろセフィロスらから合図があるはずなのに。

 私はすでにドレスを着替え、男性の格好に戻っている。ジェネシス王子には申し訳ないが、このままこっそり城を抜け出し、救出作戦に加わろうと考えていた。

「あの……王子」

「すまないが、ヴィンセント。君を行かせるわけにはいかない」

 先回りをされて、そうクギを刺された。

「で、でも、もう最後の鐘を鳴らしてから、大分時間が経過している。予定通りならば、合図はとうにあるはずだ」

「…………」

「きっと彼らの身になにかあったに違いない……!」

 私は掻き口説くように、そう告げた。ジェネシスによく似た面持ちの彼は、あくまでも冷静に私を見つめている。

「クラウドたちだけならともかく、あのセフィロスも同行しているのに、これは非常事態なんだ……!」

「君はずいぶんと、あの不躾な男を頼みにしているのだな」

 彼はぼそりとつぶやいた。不躾なと評したのに悪気はないのだろう。セフィロスの態度はお世辞にも礼儀正しいとはいえないし、それは王子という身分の彼相手にも同じであった。

「あ、ああ、セフィロスはとても強くて頭のいい人なんだ。君によく似たジェネシスという人物もそうなのだが…… 特にセフィロスとは一緒に住んでいるから、いつもいろいろ助けてもらっている」

「……一緒に」

「ああ、我々は、家族……だから」

 皆の居る前で口にすると、セフィロスが珍妙な顔をするのでなかなか言えない。だが、別世界の住人である王子の前でならば、まったく憚る必要がなかった。

 

 

 

 

 

 

「……確かに、遅いな。もうだいぶ、夜も更けてきた」

 ふと目線を逸らせ、王子はつぶやいた。私はそれに即座に頷き返す。

「そうなのだ。……なにかアクシデントがあったとしか思えない」

「それで君も後を追おうと?」 

 冷ややかな口調でそう言われて、私は言葉につまった。

「……わ、私だけ、安全な場所で守られているわけにはいかない。元の世界では一応軍人だったこともある。なにか手助けができるのではないかと思うのだ」

「勝手のわからないこの世界でもかね」

「そ、それは……」

「君の身柄を守るのは、私にとっても望むところであるし、彼らとも約束を交わした。ゆえに、君を行かせるわけにはいかない」

 そういうと、彼は客間にある、唯一の出入り口の前に立った。

「……退いてくれたまえ、たのむから」

「駄目だ」

 ……どうする?

 力尽くで突破するか?

 だが、彼は我々の恩人だ。城の見取り図を見せてくれたり、救出に向かった五人に武器を貸してもくれた。

 そんな王子相手に乱暴なことはしたくない。

 彼は私を侮っていようが、戦闘訓練を受けたことのない素人相手に負けることはない。それをわかっていながら腕尽くというのは……

 いや、王子に兵を呼ばれては万事休すだ。人海戦術を取られてはどうしようもなくなる。

「……顔色がよくない。それほどに彼らが心配か」

「当然だろう!」

 あたりまえのことを口にされ、私は強い口調で言い返した。

 彼はしばらく目を閉じ、その後、大きなため息を吐いた。

「ヴィンセント。……どうしても行くというのなら、致し方がない。どれほどの決意なのかは君の目を見ればわかる」

「…………」

 穏やかな物言いで告げられ、私は肩すかしを食ったような気分になった。

「……いいだろう。君の為すべき事をしたまえ。だが、ひとつ条件がある」

「条件……」

「決まっていよう。私も君に同行するのだよ」

 至極当然といった風情でそう言うと、彼は城の屋上に私を促した。