Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<21>
 
 ヤズー
 

 

 

「おい、イロケムシ! そっちはどうだ?」

「ダメみたい。行き止まりになってる。……はぁ、参ったなぁ」

 さすがの俺たちも、この状況には閉口した。

 このメルヘンチックな世界を、心のどこかで甘く見ていたのかも知れない。 

 まさかこんな窮地に立たされるとは……

 すでに、三度目の鐘が鳴り終えて、ずいぶん経つ。そろそろジェネシス王子たちも、こちらの状況をいぶかしんでいる頃だろう。

 なにより兄さんに連絡が取れないのが痛い。

「……ねぇ、セフィロス」

 俺は周囲を確認している彼に、声を掛けた。どうしても慎重な声音になるのは致し方がないことであった。

「……なんだ」

「兄さん、白雪ちゃんを見つけられたかな」

「……さぁな。だが、俺たちが見つかる前の一騒動を考えると、その可能性は高いな」

「だよね。そのままふたりで城から脱出してくれるといいんだけど、たぶん俺たちと合流しようと思って、困っているところだと思う」

「……同感だ」

 セフィロスがため息混じりにつぶやいた。

「女連れなら無理はしないと思うのだが……」

「……兄さんの性格的に探しに来るだろうね。いずれ、俺たちがこの水牢に閉じこめられたことを知ると思う。そうしたら、必ず助けようと考えるね」

「……チッ」

 彼の舌打ちが聞こえた時だった。

 シンと静まりかえった地下水牢に、微かな風の流れを感じた。

 そして、サラサラと水の流れ込む音……

「……ッ!?」

「セフィロス、これ……!」

「城の裏手に滝があったろ。……この水牢の水位は、そいつで調整しているんだと思う」

 膝下までだった水が、徐々に嵩を増してきている。

 ゆっくりと……だが、確実に、この密閉された空間に水が流れ込んできていた。

 

 

 

 

 

 

「イロケムシ! とにかく片っ端から天井をぶったたけ! どこかに必ず出入り口があるはずだ!」

「……わかってる!」

 俺とセフィロスは、そこらで手に入れた錆びた鉄の棒で、内部を叩き回った。

 じわじわと滲みだしてきた水は、すでに俺たちの膝頭を埋めるほどになっていた。水牢の天井はそれほど高くはない。俺たちが落ちてきた中央廊下への道は、完全に閉ざされていて、その部分は低い板で覆われていた。

 だが、水牢…… 牢なのだから、当然罪人を放り込む入り口がある。それが中央廊下からの落とし穴だけであるはずがない。

 ジェネシス王子に見せてもらったあの図面では、もっと低い場所に出入り口があったはずだ。

 ザッ……ザァザァ……

 先ほどよりも水の流入が早くなってきている。このままでは身動きが取れなくなる。おまけに冷たい滝の水だ。心臓まで水に浸かり、体温を奪われたら、それこそ死……

「くそッ! ……あの図面、間違ってんじゃねーだろうな!」

 セフィロスが毒づく。もちろん、手は休めていないが、彼だとてこの世界では、ごく普通の人間なのだ。水に沈めば溺死するし、体温を奪われたなら衰弱する。

「セフィロス、水の流れが速くなってきた。いっそ、ダムの方へ移動した方が……」

「リスクがデカすぎるな。それこそそちら側には出入り口などなかろうし……外に繋がっているようならまだ可能性はあるが」

「だよね。滝の水には違いないんだけど」

 地下水牢は、城の裏手にある滝から水源を得ているはずだ。となれば、どういった仕組みかはともかく、外部に繋がってはいるはずなのだ。ただ、その出入り口を生身の身体一つでかいくぐるのは、あまりにも危険が大きすぎる。

「……そいつは、最後の手段だな。水が上半身を浸すまでは、出られる場所がないか探せ」

 じわじわと嵩を増す水流は、早くも股下まで迫っていた。