Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
 
 クラウド
 

 

 

 しかし、まずいことになった。

 あの黒衣の王妃が言ってたのは、十中八九、セフィロスとヤズーのことだ。

 地下の水牢って言ってたけど、どうやって潜り込めるのだろう。いや、それより白雪ちゃん連れで、あのふたりを助けに行くのは無謀と言われても致し方がない。

 しばらく彼女を安全な場所に隠しておいて、ひとりで動くか…… ああ、いや、それでは元も子もないではないか。俺たちは彼女をこの城から救い出しにきたのだから。

「水牢って言ってたよな……地下の……」

 心配そうに俺の顔を覗き込んでくる白雪ちゃん。彼女のことは絶対に俺が守るが、ここに至っては、腹をくくってもらわねばならない。

「白雪ちゃん。アンタのことは俺が命がけで守るから」

 彼女はコクンと頷いてくれる。

「……だから、俺のこと信じて。さっきの話、一緒に城に忍び込んだ仲間が捕まっちゃったらしいんだ。地下の水牢って場所わかる?」

「…………」

 彼女は綺麗な唇に指先を当て、少し考え込むような表情をした。しばらくしてそっと立ち上がると、俺が持っていた手書きの略地図に指を滑らせた。

『中央廊下からそのまま右塔へ移動し、物見を通って、いったん城の外壁へ抜ける。そのまま下っていくと、罪人達を閉じ込めた地下につながる廊下の入り口に出る』

「……なるほど。でも、水牢っていうのが穏やかじゃないよな」

 思わずつぶやいた声に、白雪ちゃんが困惑したふうな表情になった。

「ああ、大丈夫、捕まってるふたりって、すごく強いんだ。だから簡単に参ることはないだろうし、きっと今も脱出するために試行錯誤していると思う」

 彼女の気持ちをやわらげるために、俺は声を励ましてそう告げた。しかし、白雪ちゃんの表情は晴れない。

 わずかな逡巡の後、彼女は思いきったように口を開いた。

 

 

 

 

 

 

『水牢』というのは、罪人をそこに閉じ込めておくだけのものではなく、溺死させる目的で使われることが多いということ。

 王妃の逆鱗に触れたのだとしたら、まずその可能性が強いと……そう言われたのだ。

「そんな……」

 それじゃあ、ふたりはもう……?

 いや、まさか、あのセフィロスとヤズーだ。頭の回転の速いあのふたりが一緒なのだから、みすみす殺されることはないはず。

 だが、水責めにされたら、いかに腕力が強かろうと、機転が働こうと、どうしようもないではないか。人間は水中で呼吸することができないのだから。

「セフィ……ヤズー…… ど、どうしよう……俺……」

 思わず口に出してから、俺はハッと気付いた。

 これでは子どもの頃と変わらないではないか。

『どうしよう、セフィ。どうすればいいの?』

 革手袋の大きな手を、必死に引っ張って、ガキだった俺はそんな言葉をくり返していた。

 いつでも、どんなときでも、俺が本当に困ってさえいれば、すぐにセフィロスは助けに来てくれた。

『大丈夫だ、安心しろ、クラウド』

 って……

 

「……白雪ちゃん。アンタのことは必ず俺が守るから……その水牢への道、案内してくれる? 助けに来たのに本末転倒なんだけど、俺にとっては大事な人たちなんだ」

 ヴィンセントそっくりな彼女は、心根も似ているらしかった。

 そっと俺の手をとり、こっくりと頷いてくれた。

「ありがとう! じゃあ急ごう!」

 俺はそう言いながら彼女の手を握りしめた。真っ白な頬が、ポッと朱く染まる様が、なんだかすごく可愛らしく見えたのだった。

  

 ふたりで物置を漁り、ロープや短刀など、使えそうなものを手に入れる。

 問題はここからだ。俺たちの隠れた見張りの塔には、非常時用の縄ばしごがある。

 白雪ちゃんの話では、地下の水牢に向かうには、中央廊下を通らないのならば、この塔からはしごを使って下りなければならない。

 口で言うほどたやすいことではないのだ。

 なんせ、ここは物見塔。水牢への通路へは、目のくらむようなこの場所から、降りていかなければならない。しかも女の子連れで。

 だが、迷ってはいられなかった。

 白雪ちゃんの話からわかるように、水牢に閉じ込められたというのは、かなりヤバイ状況であるのだから。