Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 『その女』と鉢合わせたのは、まったくの偶然であり、不運であった。

 ……特に、この俺にとってだ。

 長い銀の髪を、豪快に結い上げ、黒を基調とした煌びやかなドレスに身を包んだ女……造形は悪くないはずなのに、巨大な宝石を、ところかまわずギラギラと輝かせているのが下品に見えるのだ。

 一目で身分の高い女とわかる風情のその女は、背後に一個師団を従える様子で俺たちと退治した。

「何者じゃッ!」

 厳しい誰何の声と共に近衛兵らが、ぐるりと彼女を取り巻く。

「……セフィロス、あの人」

 げっそりとした心持ちで俺はつぶやいた。敵と目される連中に囲まれたからではない。

 どうみても、彼女の姿形は……

「どうみても悪役って雰囲気だな。ツラはおまえにそっくりだし」

 ズバリとセフィロスが言ってくれた。目の前に立ちはだかった女性……服装その他から王妃だと思われる彼女は、なんとこの俺にそっくりだったのだ。

「……言わないでよ」

 俺は低く言い返した。その間にも、警備兵がじりじりと間合いを詰めてくる。

 こういった連中の相手はお手の物だが、この場では兵隊の相手をするより、悪玉である王妃を押さえるべきだろう。白雪姫を幽閉した当人なのだから。

「うおぉぉッ!」

「でりゃあぁぁ!」

 勇ましい掛け声と共に、衛兵たちが斬りかかってきた。

 俺とセフィロスはすいと身を躱し、彼らの手から武器を叩き落とす。俺たちは使い慣れたいつもの武器を持っているわけではないので、セフィロスはそこらで入手した長剣、俺は体術で応戦したのだ。

 俺も剣を使えればよいのだが、カダや兄さんたちほど上手くは扱えない。それゆえ短刀のみを忍ばせ、拳闘で闘うことにした。

 三人四人と、次々襲いかかる輩を倒して行く。それなりに訓練を受けた兵士たちなのだろうが、俺とセフィロスの敵ではない。

 しかし、そう考えて気を緩めた俺の、一瞬の隙をついて右腕をからめ取られた。

 しなやかな革の鞭が、自由を奪っていたのだ。ちょうど斬りかかってきた輩を、セフィロスが倒してくれていなかったら、太刀傷の一つも負っていたことだろう。

 鞭を操っていたのは、黒衣の女……見た目は俺とそっくりの王妃さまであった。

『下がれ、無礼者!』

 と居丈高に宣う様も、性に合っているといった感じだ。

「SM女王って奴だな。さすがテメーと同じツラなだけはある」

 言葉を飾らないセフィロスが、彼女にも聞こえるような声でそう言った。

「ちょっとぉ、そういうこと言わないでよ、偶然でしょ。それよりこれ斬ってよ」

 鞭の絡みついた右腕を、セフィロスに差し出すが、

「腕ごとぶった切ってやろうか」

 などと物騒なことを言ってくれる。

「……あのね。今ここで味方を失ったら、あなたのほうが困るんじゃない?」

「ケッ」

 と、悪態を吐くと、彼は軽く腕を振り上げ、あっさりと革の鞭を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

「さぁて……」

 と大きく吐息して、俺とそっくりの人物を見上げる。ああ、やっぱり似ている……うんざりするほど。

「……あのさ、女王さま。あなたが連れ去った白雪姫、返してもらえない?」

 直球で告げると、彼女は一瞬、顔をこわばらせた。

「俺たちとしては、別に戦いたいわけじゃないんだよね。ただ彼女の身柄を取り戻しさえすればそれでいいんだから」

「…………」

「まぁ、そうだな。女相手に手荒な真似はしたくねェ。兵隊どももこのざまだ。さっさとその女の居場所へ連れて行け」

 セフィロスが凄みを帯びた声音で迫るが、悪の女王(?)は怯える素振りすら見せなかった。同じ顔同士、肝が据わっているのはお互い様といったところか。

「……悪いけど、時間稼ぎのつもりならあきらめてね。俺もセフィロスもそう気が長い方じゃないからさ」

 そう告げた瞬間であった。

 ガクンと足場が揺れた。

「うおッ!」

「ああッ!」

石造りの廊下……その中央が割れ、俺とセフィロスはそのまま真下に落下したのであった。

 バッシャーンと盛大に水しぶきが上がる。

「うわっ……ぷっ! なに、ここ……水?」

「……やってくれるな、あの女。余裕かましてると思いきやこんな罠を仕掛けてあるとはな」

「……水牢?」

「……らしいな」

 フンとセフィロスが鼻を鳴らす。あからさまに動揺する人ではないが、さすがのセフィロスもしてやられたといった風情だ。

 俺たちはふたりそろって、みごと地下の水牢に囚われてしまったのだ。

「……どうも、まいったね、セフィロス」

 濡れた髪を掻き上げ、俺は低くつぶやいた。

 女王の高笑いが頭の上から響いてくる。

 ……さすが、俺似の女王様。

 一筋縄でいく相手ではなさそうだった。