Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 
 クラウド
 

 

 

 

「あー、ヴィンセント、ヴィンセント」

 うろうろと歩きながら、俺は大切な人の名前を繰り返す。

 俺的には、白雪姫だのジェネシス王子だのはどうでもいいんだけど、このミッションを成功させなければ、いつまで経っても俺たちの家に戻ることは出来ない。

 ヴィンセントはこの上なく、コスタ・デル・ソルのあの家を愛している。ジェネシス王子の存在もウザイし、何が何でも海の見えるあの家に戻らなくちゃ。

「ヴィンセント〜、ヴィンセント〜。早く一緒にコスタ・デル・ソルに帰ろう〜」

 窓辺に座り、暮れてゆく空を眺める。

 そういえば、初めてヴィンセントと出逢ったのも、こんな夕暮れの時間帯だった。

 神羅屋敷の向こう側に、夕陽が沈んで、今みたいな気の早い星が天空を彩っていた。ロストナンバーを倒した後、ふいに転がり落ちた鍵…… それが運命の鍵だった。

 ずっと開かなかった小部屋の鍵…… 俺の大切な人が眠っていた部屋の鍵だ。

 俺よりもずっと前に、ジェネシスがヴィンセントを見つけていたというのはショックだったけど、でもヴィンセントは俺の呼びかけに答えてくれたのだ。ジェネシスではなく俺の呼びかけに。

 そこで俺はぐっと拳を握りしめた。ガッツポーズだ。

 

 ……そりゃ、ジェネシスがかっこいいのは認める。一応。同じ男の目から見ても、優れた人だと素直に思える。

 セフィロスと同じソルジャークラス1stで、神羅の英雄と呼ばれた人物だ。そういった意味では、俺より上……なんだろうな、きっと。

 ああ、いや、人間性は……ええと……人間性だって、悪くはない。

 修習生だった頃から、セフィロスの側に居るようになった俺に、悪心をむき出しにする輩は多かった。副社長の座に就いていたルーファウスなど、その筆頭のような人物で、ことあるごとに俺をカンパニーから追い出そうとやっきになっていた。

 セフィロスは……そう、彼の名誉のためにも言い置くが、その当時のセフィロスは、俺のことをとても可愛がってくれたし、恋人として大切に守ってくれた。

 しかし、当時はよくわからなかったが、セフィロスはいわゆる機微に長けた人ではなかったのだ。他人の気持ちや思惑を深読みするタイプではない。それは今も同じだ。

 だから、ルーファウスやその取り巻きの仕掛けてくる、陰湿ないじめから俺を救ってくれたのは、今思えばジェネシスだったのだろうと感じる。

 もちろん、彼は俺にべったりとくっついてガードしてくれていたわけではない。でも、要所要所でさりげなく手助けをしてくれたし、窮地に追いこまれた俺を、いつの間にか言葉巧みに救い出してくれたのはジェネシスだった。

 ……だから、彼はいい人なのだろうし、感謝する気持ちもあるのだが……

「……あるけど、ヴィンセントにちょっかい出すヤツは許せないからな」

 と、結論づけて、夜空を見上げた。

 ジェネシス王子は、ムカツクけど、少なくとも現時点では彼の側が一番安全な場所だ。

 俺はそう自分を納得させ、行動開始の頃合いを待った。

 

 

 

 

 

 

「……広い……」

 わかっていたことだった。

 わかりきっていたことだったのだ。この城に忍び込む前には図面を見ていたのだし、外から見ても『居城』と呼ぶにふさわしい作りであったのだから。

 俺の担当は左塔。

 奥まったこの場所までやってくれば、もはや無骨な出で立ちの警備兵はいない。

 鬱陶しい軍服だの兜だのを脱ぎ捨て、動きやすい格好に戻った。ジェネシス王子に借りてきた剣だけを携え、俺は人通りのない廊下を進んで行く。

 『電灯』というものがまだ発明されていないこの世界では、灯りを取るのは蝋燭とランプの炎だけだ。

 廊下に長い影が揺らめき、びくっと背を震わせ、おっかなびっくり振り返るが、なんのことはない。俺自身を照らし出す蝋燭の明かりが、長い影を壁に刻んだのであった。

「……ビビッたぜ……」

 ひとりごちる。

 正直、俺はホラーテイストは苦手なのだ。怖い話を聞いてしまうと、夜寝付けなくなってしまう。子供の頃はついうっかりお化け話を耳にして、一晩中灯りを点けておいたり、神羅に入った後は、同室のザックスの布団に潜り込んだりして凌いでいた。

 まさか、この不思議の世界で、こんな窮地に立たされるとは……

 闇色に染まったオレンジの灯火の中、慎重に慎重に歩みを進める。壁に映る影が怖いから、なるべく周囲を見ないで足下を眺めてゆくことにした。

 セフィが居たら叱られるだろうけど、今のところ城の住人とすれ違う心配はなさそうだ。

 彼らが居るとしたら、もっと奧……こんな石造りの廊下を、そのままむき出しにしているような場所ではなく、居住に向いたデコレーションが為されていると思う。

 俺は自身を励まし、ゆっくりとだが着実に城の内部へと侵入した。