Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 ヤズー
 

 

 

 城門の前に立つと、さすがの俺もやや緊張してきた。

 やはり勝手のわからない世界のことだし、これからの計画を考えれば、そう余裕があるわけではない。

 セフィロスだけでなく、カダやロッズも居るのだし、心強くはあるのだが、俺はけっこう心配性なのである。

 フルフェイスの兜を、しっかりと被った俺たちは、少なくとも外見上は違和感なく城の兵士に見えるだろう。フラフラとものめずらしげに歩いている兄さんとカダが気になるが。

「ああ、第五小隊戻ったか」 

 唐突に背後から声を掛けられ、一瞬すくみ上がった。セフィロスだけは平然と、槍を手にしたまま、ガシャッと音を立てて踵を返した。俺たちもすぐに彼に倣った。

「二名ほど、城門周辺の警護に就いてくれ。最近たちの悪い盗賊が出没しているからな。残りは城内警備に戻れ」

 隊長職にある人物なのだろう。手早く指示を出すと、彼は城内に戻っていった。

 二名ほど城門周辺に警護に就けといういのは、こちらとしてもありがたい申し出だ。脱出の際の段取りに、少なくともひとりは城外に置いておきたかったから。

 セフィロスが、カダージュとロッズに合図を送り、彼らふたりがこの場所に残ることになった。

 俺は彼らにひとつ目配せを送り、さっさと歩き出したセフィロスの後を追いかけた。

「う〜、緊張してきた」

 兄さんが低くつぶやいた。

「大丈夫だよ。俺たち、顔を見せてもいないんだし」

「ヤズー、うん……そうだよね。あぁ、ヴィンセントのことも気になるし……! 早くミッションクリアしたい」

「落ち着け、クソガキ。ヴィンセントは一番安全な場所に居るだろ。奴のことより、自分の心配をしろ」

 そう言ったのはセフィロスだ。彼ほどの長身と体格で、兵隊スタイルだとかなりの迫力がある。そのせいか、他の城内警備の連中はさりげなく遠巻きにしているようで、こちらとしては都合がよかった。

「適当にそこらを徘徊したら解散するぞ。それぞれ、振り分けた持ち場で待機だ」

「オッケー」

「わかってるよ。ちょっと不安だけど〜。ってゆーか、携帯無いのがツライ」

「兄さん、落ち着いて行動してよね。いくらメルヘン世界でも、剣で斬られれば死んじゃうんだから」

 俺はどうも頼りないクラウド兄さんに、一言そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 セフィロス、兄さんと別れ、俺は持ち場……図面上で振り分けた右奧の棟へ足を運んだ。

 途中で数名の『ご同僚』とすれ違うが、怪しまれる気配はない。

 ついくせで、「ハーイ」と声を掛けたくなるが、自重自重。

 俺は目的の棟に入り込むと、武具の置き場と思われる小部屋で、予定の時間を待つことにした。

 セフィロスは百戦錬磨のソルジャーだから問題ないだろう。兄さんのことはちょっと心配なんだけど、あの人だって元軍人だ。いざとなれば、きちんと動けるはずだ。

 ただ、今回はお目当ての人物が、ヴィンセントそっくりの女性というのがネックだ。動揺せずに対応できるとよいのだが。

 できることなら、俺かセフィロスが当たりであるとよいが、こればかりは運任せだ。

 俺はふぅとひとつ吐息すると、窓の外を眺める。

 夕暮れの日射しが、暖かな光を投げかけてくる。あまりにのどかな風景にふと緊張が緩む。

 ああ、暑さは違うけど、遮るもののない夕焼けは、コスタ・デル・ソルのそれと似ているのだ。

 ……思えば遠くへ来たものだ……じゃないけど、ほんの一年前から考えれば、今の俺たちは、信じがたい日々を送っている。

 俺が……いや、俺たちが生まれたのは、ほんの一年と少し前。

 セフィロスの思念体として、生誕した俺たちは、『こんなではなかった』。

 他人と馴れ合ったり、人助けをするなど、信じがたいことだ。いや、俺たち以外のだれかと生活を共にするなど考えたこともない。

 それがこの体たらくだ。

 『兄さん』と呼ぶ相手と、その恋人である人物と一緒に日々を過ごし、まるで家族のように…… 言葉面ではなく、本物の家族のように生活している。

 セフィロスの命令で無理やりということではない。俺たちは望んで彼らと共に居るのだ。

「……カダージュが一番変わったかな」

 思わずそうつぶやく。口元に笑みが浮かぶのは、彼の変化が嫌なものではなかったからだ。

 以前は今よりもずっと情緒が不安定だった。少しでも俺の姿が見えないと、睡眠どころか食事さえまともに取れないような子だった。

 俺やロッズ以外とは、普通の会話もできないあの子が……わずか一年足らずで、こんなにも変わるなんて。

「ちょっと……寂しいけどな」

 そんな言葉を漏らすおのれに自嘲した。

 夕陽はゆっくりと傾き、薄紫の空に、淡い星の輝きが映りだしてきた。

 それを眺めながら、俺はしばし追憶の時間を楽しんだ。