〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<37>
18禁注意
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

「……セフィ…… したくないの? おれのこと……もう飽きちゃったの?」

 そんなことはないと、確認したばかりのはずなのに、閨房の睦言には、どんなセリフでも、効果があると思うことは口にする。

 クラウドはひどく奔放なところと、小動物のように繊細な部分とのギャップが激しい。平時、オレとともに居るだけのことを、周囲の目を気にして息を潜めていたようなところもあるのだから。

「セフィ……」

「いや、すまん。……おまえの身体を傷つけないようにと考えていただけだ」

 呈のいい繕い文句も、クラウドはあっさりと信用してしまうのだ。

「ね、じゃ、おれ、してあげる」

 オレの腕に手を掛けて、さっさと起き上がると、いたずらっぽく微笑むクラウド。

 ……さっき泣いた鴉が……ではないが、彼の中のわだかまりは、拍子抜けするほどにあっさりと消え去ったようであった。

 オレがクラウドにした仕打ちの数々……それらを、たった一度の懺悔で打ち消してくれた事実は、この子のオレに対する信頼の裏打ちのようで、微かに胸が痛んだ。

 

 わだかまり解けた結果、昔からの愛情が惜しみなく溢れるのだろう。

 寝台で邪気無く微笑むクラウドは、昔と同じように、恋人との行為を積極的に楽しもうと期待している少年そのものであった。

 

 見れば、あのころより、一回りも大きくはなっただろうか。

 それでも平均よりやや小柄の、白い背がシーツの上に這う。形良く筋肉の着いた綺麗な足が放り出され、そこだけ別の生き物のように勝手気ままに蠢いている。

 邪魔そうな前髪を、鬱陶しげに持ち上げると、クラウドは何の躊躇もなくオレの足の間に身を伏せた。

 温かい舌が、興奮し掛けたソレにねっとりとからみつき、オレは一瞬息を詰めた。不意にわき上がった快感を制御したのだ。

「ん……」

 鼻から抜けるような呻きが漏れ、それがいっそう情欲に火を付ける。

 夢の続きのこの子にしてみれば、オレと恋仲であったのは、比較的最近のことであったのかもしれない。だが、こちらにしてみれば久々の躰だ。

 

 

 

 

 

 

「クラウド、もういい」

 膨らんだ頬に手を添え、そっと引き離す。

 わずかに不満げに眉を顰めたが、オレが上になることで意図を読んでくれたようであった。

「ん……くすぐったいよ、セフィ」

 なめらかな肌をオレの髪が滑る。長すぎて鬱陶しいのだが、この子の気に入りの髪なのだ。その感触がこそばゆいのだろう。桜色に息づいた肢体が、密着した身体の下で蠢いた。

 唇へのキスを済ませてから、安心させるために、額へ軽く口づけ、頬へ、そして喉元へ……

 綺麗に線の張った首筋に軽く歯を立てると、敏感な身体は打ち上げられた魚のように、小刻みに震えた。

 彼の肌は相変わらず白い……いや、ただの白ではなく、健康的に淡く色づいた白さだ。

 そう……色白というのなら、ヴィンセントなどはその筆頭として名があげられるだろうが、まったく質が異なる。

 ヴィンセントの肌色が、無機質で透きとおるような寒色系のホワイトなら、クラウドの『色白』は暖かみのある色合いの白さなのだ。こうして興奮すると、さらにそれは顕著になる。肉体の喜びを、体現するかのように、耳朶、頬……そして伸ばした腕さえもうす桃色に息づいてくるのだ。

 

 ゆるやかな唇と舌での愛撫が、胸元あたりに差し掛かると、それまでは大人しく仰臥していたクラウドが焦れたように、髪の中に指を差し込んできた。

「ん……ぁ……」

 鼻に掛かった呻きが、猛った下肢に直接響いてくるようだ。

 クラウドとこうするのが、あまりに久しぶりだったせいか、オレもあまり長くは保たせられそうもなかった。

 腕や肩……そして腹から下肢にかけて……たくましくなったとは言っても、昔のこの子よりは成長したという程度で、まだまだ脆く幼く感じる。

 やはりオレとは大分体格差があるせいだろう。

 それについては昔からひどくコンプレックスを抱いていたようだ。

 ただ、それは側にいた者が、オレやザックスなど、比較的体格に恵まれていた者が多かっただけのことで、クラウドが極端に劣っていたわけではないと思う。

 今だとて、ほぼ平均値程度なのだろう。

 ……だが未だ肉体へのコンプレックスは健在のようで……おそらくヴィンセントが、この子よりずっと長身なのが気になるのだろう。体格はともかく、身長についての劣等感を露わにするのは、そのあたりが関係しているのだと思う。

「セフィ……はやく……」

 肩に置かれた指先に力が入る。弾む吐息と、眦の涙。

 もう少し時間をかけて料理してやるつもりだったが、致し方ない。

 オレはねだられるままに身体を重ねた。

 

 ……そう、このとき、もう少しオレが考え深ければ……

 いや、感慨に浸っている場合ではなく、もっと現在の状況に見合った思考をするべきだったのだ。

 半分眠ったような雰囲気で部屋にやってきたクラウド。23才の肉体の中に、過去の魂が宿っているクラウド……

 こうして、かつてのごとく、オレの腕の中で、夢見心地に悶えているのは、あくまでも『昔の魂』のほうであったのだ。もし身も心も今現在のクラウドなら、絶対にオレとはこういうことにはなるまい。なんといっても、この家には最愛の人、ヴィンセントが居るのだから。

 ……無駄な感慨に浸らず、そこまで考えを及ぼすべきだったのだ。

 性急に、最期まで行き着く前に。