〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<36>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 ……今、思い返してみると、そのせいだろうか。

 

 涙の乾かぬ頬に口づけたのはごくあたりまえの流れだった。以前、クラウドを宥めるときには、よくそうしてやっていたから。

 金色の前髪を退けて、もう一度額へ……

 クラウドは、ごく自然に顎を持ち上げ、唇への接吻をねだった。

 促されるままに、重ね合わせたそこは、思った通りのやわらかな感触で……そして温かくて、数年分のしこりが融け出すように感じた。

「……セフィ」

 クラウドの手が、いつもより近くにあるオレの頬を滑った。オレは腰をかがめていたし、彼は少し背を伸ばしていたから。

「セフィ…… 好き」

 懐かしい言葉。昔は日に一度は耳にした睦言だ。

 クラウドは、チュッチュッと小鳥がさえずるような音をたてて、オレの口唇にキスを繰り返す。ついばむような甘えた口づけは、この子の大好きなボディコミュニケーションのひとつであった。

 オレの胸元あたりの生地を、キュッと握りしめていた両手が、ふわりと持ち上げられる。「バンザイ」のように上に伸ばされるのではなく、脇を空けるように肩の高さまで引き上げられるのだ。

 よく幼児がこの体勢を取る。身の回りに、そのくらいの年齢の子が居る者などは、見慣れているだろう。

 これもクラウドのくせのひとつだ。

 幼い頃からの……というわけではなく、オレと懇意になってからなのだろう。ねだられると、よく抱き上げ、肩に乗せてやったりした。そのときの名残があるのだ。

 

 口に出して、「抱っこ」とはいわないが、オレはいつものように……そう、かつてごく自然にそうしてやっていたように、クラウドの両脇に手を差し込んで、持ち上げた。肩に乗せるには育ちすぎているので、「高い高い」をしてやるような格好になる。

 オレの目線よりも高くなったクラウドは、ちょっとだけ照れくさそうに……だが、嬉しそうに笑った。

 その位置からも、赤ん坊が母親の体温を求めるように、手を伸ばし首筋にしがみつこうとする。

 幼い頃に父親を亡くし、ひとりっこで、母に育てられたせいなのだろうか。

 ごく普通の友人づきあい程度のヤツには、自分から積極的に甘えはしない。むしろそういう姿を、第三者に見られることに、強い抵抗があったようなのだ。

 対照的に、一歩踏み込んだ仲になると……例えば、ヴィンセントや、かつて付き合っていた頃のオレ相手には、それこそ子犬が母親の乳房を求めるように密着し、そのぬくもりを求め続ける。

 

 ……クラウド相手は久しぶりだった……からかもしれない。

 オレがあの子の側に居たときから、早数年は経っているのだから。

 いや……そんなセンチなおハナシではなく、ここのところ、時間がなくて、アレの家に泊まることもなかったせいか…… ご無沙汰だったのだ。

 今のクラウドは、23才現在のクラウドだと忘れていたのかと問われれば、そうでないと答えるだろう。

 実際、オレはきちんと腕の中のチョコボっ子が、昔のあの子ではないと認識していた。抱き心地も子供の頃とは違うし、当然重さも異なる。

 『やり直し』行為のせいで、昔のあの子が『出てきている』のだと、ちゃんとわかっていたのだが……                                  

 オレは抱き上げたクラウドを、寝台に下ろした。

 そのまま、身体を重ね、桃色の頬に……尖った鼻先に口づける。昔のクラウドは、額や頬のキスを、「子供にしてるみたいでヤダ!」とふくれていたが、行為の前座としての触れ合いなら、悦んで受け入れる。

 自ら腕を伸ばし、オレの首まわりを絡め取り、引き寄せようとした。

 クラウドは、行為に非常に積極的だ。

 言葉そのままに「気持ちいいこと」が好きなのだろう。だが、この子を純情だと思うのは、オレと違って行為の相手が誰でもいいというわけではなく、今現在、自分の最も愛する相手との行為……にたいそう熱心なのである。

 

 ……なんというか、比べるべきではないのだろうが、コイツの現在の恋人、ヴィンセントを過去たった一度だけ相手にしたことがあった。念のために、事情があった故と申し添えておこう。

 あの弱々しげな奥手男は、最後の最後まで強情に逃げ回り、いざとなっても「忍耐」の二文字で声を殺し続けた。そんなつもりではなかったのだが、少々意地にもなっていたオレは、両手を縛りあげて成し遂げたのだ。閨事であそこまで手こずらされたのは正直初めてだった。

 

 ……クラウドとヴィンセント。ある意味、こいつらはすべてにおいて、まったく対極に位置するふたりなのかもしれない。だが、そんな彼らが強い絆で結ばれている様を見るのは、不思議でもあり、またなぜか感慨深くもあった。

 

「……セフィ?」 

 他に気をやっていることに、不満を感じたのか、まな板の鯉ならぬ、ベッドの上のチョコボは、自分のほうから、オレのローブの合わせ目に手を忍ばせてきた。腰元で結わえてある帯に指を掛け、解こうとする。

「……まぁ、いいか」

「……セフィ? なに……?もう……」

 クラウドが意識していなくとも、このシチュエーションだ。充分可能だろうとは思っていたが、むしろ、オレよりこの子のほうが積極的らしい。

 本来なら、魂だけが『過去のクラウド』であり、本体は当然23才現在のクラウドだ。そう……ヴィンセントの恋人であるクラウド。

 ……だが、残念ながら、オレはそれほど理性に囚われた男ではない。

 アホチョコボほど、本能剥き出しだとは思わないが、欲求を完遂しても差しさわりないと判断した後は、モラルで縛られることはない。

 その結果が『まぁ、いいか』なのである。

 身体の下になったクラウドが、腕を伸ばしてキュッと髪を引っ張ってきた。

 続きを急かしているのだ。

「まぁ、いいよな」 

 と一人ごちてから、オレは久々に触れる肉体と対面した。