〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<34>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「クラウド。……なぜおまえはオレを許した。どうしてこの家にオレを受け入れたんだ?」

 肩にそっと手を置いて、低く訊ねた。

「……だって……」

 そう言った後、ずずずと涙を啜る音が続いた。

「だって…… わかる……もん。セフィがどれほど苦しんだか……ショックだったか…… 傷ついたか……!! オレ、セフィの一番近くに居たんだよ……? 俺……セフィのこと、誰よりも好きだった」

 ゲホッゲホッと、クラウドは大きく咳き込んだ。

 肩に触れている腕をそっと背に回し、宥めるように撫でてやる。

「好きな人のことなんだから…… わかるよ。神羅の英雄って言われてたセフィが…… もうなにもかも信じられないほど、絶望したんだって…… だって……だって、俺……もし、俺がセフィと同じ立場だったら……」

「…………」

「セフィと同じ立場だったら……きっと狂っていたと思う。生きることを自分から放棄したかもしれない…… でも、セフィはそんなことしない人で……だったら、その絶望と憎悪をぶつける対象がどうしても必要で……」

 そう……弱かったオレは、信じがたい事実とそれに伴う恐怖と絶望を、自己昇華するだけの余裕がなかった。

 DG事件のとき、宝条相手に言い放ったように、「オレはオレだ!」と考えられるほど、強く成り切れていなかった。だからクラウドをここまで傷つけたのだ。

 弁解させてもらえるなら……やはり、それまで一応「人」として、ある意味ごく普通に生きてきた甘ったれのオレには、おぞましい真実を受け入れるための時間が必要だった。

 闇色の絶望と紅蓮の憎悪を昇華させるには、せめて数年という時の流れが欲しかったのだ。

 

 腕の中のクラウドは、そんなオレの心情に気付いているのだろう。

 だからさきほどから、「わかっている」と繰り返している。

「……クラウド」

 嗚咽を落ち着けるよう撫でていた腕に、力を込めた。

 こうしてクラウドを抱きしめるのは、本当に何年ぶりだろう。オレが間抜けにもそんな感慨に浸っていると、腕の中のクラウドが毅然と顔を上げた。

 そう……普通でない状況なのに、『毅然と』という表現が最も似つかわしい面もちで。

 夢見心地で半分惚けているはずの双眸にも、深い光が宿っている。

「セフィ……!! 違うんだ、オレはセフィがしたことを責めたいんじゃない」

「…………」

「だって、それは無理もない、仕方がないって、そう思える。何もかも神羅に関わるものはぶち壊してやりたいって……セフィの立場なら、わかる。……違うんだ。オレが聞きたいのは、セフィがしたことじゃない……ッ」

 きつい口調でそこまで言い切ると、言葉の前に堰を切ったといわんばかりに、両目からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちた。いっそ潔いほどに、大きな水の球が桜色の頬を伝わり、細い顎からしとど流れ落ち、オレは多少なりとも困惑した。

 

 

 

 

 

 

「……クラウド……?」

「どうして……? どうして、俺に何も言ってくれなかったのッ!?」

 嗚咽に押しつぶされる喉で、クラウドが絶叫した。

「俺、セフィのことが好きなのに……ッ! ザックスより……誰より、セフィロスのことが大切だったのに……ッ!! 愛していたのに……ッ!!」

 食ってかかるように、彼の両腕が俺の胸元に延びた。がっしとばかりにそこを掴みしめ、強く揺する。オレはクラウドに為されるままに、ただその行為に身を委ねていた。

「どうしてだよ……ッ! セフィ、俺のこと、ちゃんと好きだって……愛してるって……俺だけだって……!! ずっと一緒に居よう……って!! そう言っていたじゃないッ!!」

 

 ああ……これか……

 これが、この子の『やり直したいこと』なのか。

「セフィ…… セフィが俺に言ってくれたんだよね。好きだって……側に居ろって…… 俺がどれほど嬉しかったかわかる……? そしてずっと不安だったか……? 本当にセフィロスは俺を好きだったの……? 一緒に居た数年はウソだったの……?」

「違う。……好きだ、クラウド」

「なら、どうして……!? どうして、俺に一言いってくれなかったんだよッ!? そんなに苦しいならどうして……? なんで、つらいこと……半分わけて、俺にも背負わせてくれないの……ッ!!」

 

 それは……

 それはオレが、おまえのガーディアンで居続けたかったから…… 絶望に打ちひしがれる、みじめな姿を見せるわけにはいかなかったから。

 その考え方が間違っていると気付く余裕さえ、あのときのオレにはなかったから……だ。

「俺が好きなら…… 俺のことを恋人だと思っているなら……!! 言ってくれたはずなんだ。俺ならちゃんとセフィに話したよッ! どうしよう、苦しいよって……セフィに話したよッ!」

 胸元を掴み上げていた腕は、いつしか縋るようにつかまっているだけで、彼は顔を伏せたまま怒鳴りつけた。熱い涙が止めどなく流れ落ち、オレのローブを濡らす。

「……クラウド」

「ちゃんと俺を信頼しているなら……俺を特別な存在だって、本当に想ってくれていたならば……セフィのつらいこと、話してくれるはずだもの!! あんなことする前に……ッ あんな形で戦ったりする前に、俺に言ってくれるはずだもの……ッ!」

 クラウドは怒っているのだ。

 数年前のやり場のない憤怒を爆発されている。

 それは、懐かしい町を破壊された怒りではなく、親しい人間を手に掛けられた悲しみでもなく、ただ恋人だと信じていたオレに、真実を語ってもらえなかったことを……

 オレの痛みを、クラウドに知らせなかった……ただその事実を。

「セフィはウソついてたんだッ! ホントは俺のことなんて、好きでもなんでもなかったんだッ! ただ側に置物みたいに飾っていただけで……俺のことなんて、ちゃんとした対等の恋人だなんて、これっぽっちも……」

「違うッ! 違うッ! 黙れッ、クラウド!!」 

 泣きじゃくる彼の肩を強く掴み、顔を上げさせる。

 ぐしゃぐしゃに泣き濡れた白い顔は、幼い頃のクラウドそのものに見えた。