〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<33>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 ……ああ、やってきたな、と思ったのは、ヴィンセントと話をしてから、一週間ほどが経った頃だったと思う。

 それまでも、二度ほどおかしな状態のクラウドに遭遇したが、以前と同様に、一方的にしゃべった後、深い眠りに落ちてしまい、まだ肝心の『やり直し』はできていないように思えた。

『セフィが無事でよかった』

『おれを置いていかないで』

『今度の休みはセフィと一日一緒に居たい』

 などという、昔よく耳にしたセリフを口にする、クラウド。

 半分微睡んだままのとろりととろけそうな邪気のない笑顔。それが23才になっている今現在のクラウドだとわかってはいても、子供の頃のこの子を思いだし、僅かながらも胸が痛んだ。

 

 

 その日は……そう、たまたま休日で、皆で一緒に朝食をとり、なんの変哲もない穏やかな一日だった。

 クラウドはいつものように、ヴィンセントに甘え、ヴィンセントもまた常よりもいっそう彼のワガママに寛容だったように感じた。

 

 『それ』が起こったのは、その日の夜……いや、もう日付の上では翌日になっていたのかもしれない。

 時計の短針が、沖天を回った深夜であった。

 

 キィィィ……

 

 と鈍い音を立てて、扉が開く。

 このところ、クラウドの一件が気になっているせいか、妙に感覚がするどくなっている。

 のどかで退屈なこの場所……コスタ・デル・ソルにやってきてから、我ながらひどく無防備に……危機意識が無くなったと感じる。特に夜などは、ぐっすり眠り込んでいるのが常になっていたが、ここ数日は感覚が軍人のころに戻っていた。

 わずかな物音や気配で、すわ!とばかりに反応してしまう。

 今夜もまた、きちんと眠りについたにも関わらず、床のきしむ音でごく自然に目が開いた。

 クラウドはいつもどおり、パジャマ一枚で、ふらふらとやってきていた。

 「おや?」と思ったのは、眠気半分の夢遊病状態の中にも、何かしら確固たる意思のようなものを感じさせられたからだ。

 

 

 

 

 

 

「……クラウド……?」

「セフィ…… どうして…… なぜ……」

 絞り出される苦しげな声。

 彼は寝台の側近くに立っていたオレの側へ、ゆっくりと歩を進めてきた。

「なんでだよ…… どうして、こんなこと……ッ この町の人がセフィに何かしたっていうの……? ティファや母さんを……どうして……ッ?」

 『この町の人』『ティファや母さん』

 ……ニブルヘルムでの出来事を指しているのだと、すぐに気付いた。

「クラウド……オレは……」

「ううん、違うッ!! 違うんだ……ッ そんなの……そんなのわかってる……わかってるんだから……ッ!」

 ギュッとオレのローブを両手で握りしめた。夏向きの麻でできたそれは、クラウドが掴んだ場所に深いシワが刻まれた。

「わかってる…… セフィがどうしようもなく絶望したのは当然なんだよ…… それを責めたいんじゃないんだから……!」

 自らを叱りつけるように、クラウドはつぶやいた。

 まるでそれが彼の苦悩の深さを表しているようで……憎いはずの相手に、関節が白くなるほど強い力でしがみつくこの子が哀れに感じた。

 

 それほどオレがしたことは罪深いこと……ジェノバだの神羅のプロジェクトだのという話ではない。互いに信頼を確認し合った人間に対して、あるまじき裏切り行為なのだと思い知らされた。

「クラウド……」

 オレは小刻みに震える肩をそっと抱いた。

 あの頃よりもずっとたくましくなってはいたが、やはりまだまだオレには及ばない。

 もともと小柄だったこの子は、いくつになっても『幼いクラウド』という印象が抜けなかった。

「わかってるんだよ…… そうだよね…… 魔晄炉で人工的に作り出されたモンスター見せられた後に…… 神羅屋敷の書庫で…… そこにはセフィの知らなかった真実が隠されていたんでしょう……? おかしくならないほうが普通じゃないよ……」

 クラウドの潜在意識が言わせているのだろうが、これまでよりもずっとはっきりした物言いであった。

 しかし、話の内容が、当時のオレが知った真実に言及していることが気になる。

 なぜなら、あの燃えさかるニブルヘルムで、一般兵として随行していたこの子がそんな事実を知るはずはないから。母親を殺害し、町に火を放ったオレを憎みこそすれ、オレの苦悩を理解できるはずはないのだから。

 ……あのときのクラウドであるのならば。

 

 クラウドがオレの狂気の理由を知るとしたら、当然あの事件の後、なんらかの形で詳細を知り得た……そう考えるべきだ。

 だが……それはいい。今は、クラウドがオレの事情を知った時期が問題ではないのだから。