〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<26>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 オレが背後から声を掛けると、案の定、その男は飛び上がらんばかりに驚いたようだった。

「あ、セ、セフィロス…… ノ、ノックをしたのだが、返事がなかったので……」

 遅めの夕食後のひととき、めいめいが好きなように過ごしているのんびりとした時間帯だ。もちろん、早寝のガキ共はさっさとベッドに潜り込んだかもしれないが、ヴィンセントやヤズーが起きていても、まったく不思議はない時間だった。

「あの……」

「ちょっと外に出ていた。夜は涼しくて考え事をするには都合がいい」

 そう言いながら、自室の扉を開ける。自然、ヴィンセントを追い越す形になるが、ヤツはそこに突っ立ったまま、動こうとしない。

「どうした? オレに用事があったんじゃないのか?」

「あ……い、いいだろうか? 約束をしてもいないのに……」

「別にひとつ屋根の下に居るんだから、約束もクソもないだろ」

「……あ、ああ……ありがとう。あの……訊きたいことがあるんだ」

 そりゃそうだろう。

 昼間のやり取りから、オレがさらに詳しい話を医者から聞き出したということはバレてしまっている。当然、クラウドの恋人という立場のヴィンセントならば、話を聞きたいと言い出しても不思議はない。

 というよりもむしろ、その権利があるというべきか。

 

「……入れ。夜は冷える」

「あ、ありがとう」

 脇に退いて、ヴィンセントに入室をすすめると、彼はいつもの警戒心もどこそこで、あっさりと部屋に入った。

「で? 何が訊きたいって?」

 ドサリとソファに身体を放り投げ、さっさと口火を切る。こいつに任せておくと、いったいいつまでグズグズしているかわかったものではないから。

 

「あ、ああ。だが……その前に、まずは君に謝らねばならない」

「……は?」

「昨日……医者に行ったときのことだ。君は私とクラウドを先に帰しただろう? そのときに、すぐさま君の意図に気づくべきだった」

「…………」

「うかつにも、さきほどのヤズーの話を聞かなければ、考えもしなかっただろう。……申し訳ない」

 そういうと、バカ丁寧に、頭を下げる。

「私は……その……てっきり、君が単独行動をしたいだけで…… あの……つ、つまり、私たちがいると、行きにくいのかな……と思って……」

 ボソボソと小声で弁解する。

 ああ、なるほど。

 つまり、ヴィンセントは、あの後、オレがさっさと例の店にでもしけこむつもりなのだろうと勘ぐったのだ。まぁ、結果的に支配人の店に飲みに行ったわけだから、半分は当たっているわけなのだが。

 

「そう考えると、なんだかひどく寂しい気分になってしまって……」

「……はぁ」

 オレは間抜けた相づちを打った。

「あ、いや、き、君が恋人のところに行きたいと考えるのは、至極当然のことで、私などが口出しすべきではないと……そう理解しているのだが……」

 慌てて手振りを加え弁解するヴィンセント。

「あ、頭ではわかっているのだが…… 胸が痛くなってしまって……」

 ……今どき、どこぞの女学生でも「胸が痛くなって」などと言わんぞ、ヴィンセント。いったいおまえのその時代錯誤性別錯誤の乙女チックはどこから発露しているのだろう。

「だ、だからというわけではないのだが、クラウドがあまりにもねだるから、一緒に外泊を……」

「いや、別にそれはどうでも……」

「け、今朝、家に帰って初めて君の意図に気付いたんだ。山田先生が居られたから…… ヤズーの話からも、よく理解できたし……」

 オレの言葉を遮るようにして、ヴィンセントが言った。きちんと揃えられたヒザの上で、ギュッと手を握りしめて……

 また泣きだしたんじゃないかと、顔を覗き込んでみた。思い詰めた風ではあったが、頬は濡れていなかった。

 ほぅと低く溜め息をつくと、きちんと顔を上げて、厳しい眼差しでオレを見た。

「……本来なら、クラウドと君を帰してから、私がきちんと医師に話を聞くべきだったのだ。わ、私が家のことをしているのだし、皆よりずっと年長なのだし……家族の健康管理だとて、大切な……」

「おいおい、義務のような言い方をすると、それこそあのクソガキが泣くぞ」

「え……あ、い、いや、そんなつもりでは……」

 やれやれと、ヤツに負けないくらい大きく吐息すると、めでたいまでに自己否定しているヴィンセントに向かって頭で考えたとおりのことを言った。

 わざわざ隠すことでもないし、オレが医者と話したという事実を知ったなら、今さらよけいな心配をさせるでもないだろう。