〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<27>
 
 セフィロス
 

 

 

「オレが個人的に医者と話をしたのは事実だ。実際、くわしく訊きたいことがあったからな」

 そんなふうに切り出した。

 いよいよあの子の病気(?)の話になったと感じ、ヴィンセントはそっと身構えた。

「…………」

「さすがに当事者のクラウドの前で突っ込んだことまで訊きにくかったし、おまえはひどく心配性だろう。たいしたことでもないのに、悪い方へ悪い方へ考える」

 少し笑ってそう言ってやる。

「あ……」

 思い当たることがあるのだろう。ヴィンセントは図星を指されたように頬を染めた。

「だから、オレひとりのほうが、医者と話をするには都合がよかっただけだ。おまえたちを先に帰したのはオレの考えだ。おまえが恐縮したり、自分を責める理由にはならない」

「セフィロス…… あ、ありがとう……」

「ついでにいうなら、礼を言われるようなことでもないな」

「で、でも…… その……君は本当に気配りのできる人なんだな。ただやさしいだけでなくて…… 私のほうがずっと年長なのに、君には教えられることが、とても多い……」

 真顔でそんなことを言い出すヴィンセント。

 本当にズレた野郎なのだ。

「まぁ、そんなところだ。おまえは何も心配する必要はない」

「セフィロス…… その……差し支えなければ訊ねてもよいだろうか?」

「なんだ?」

「……医師と何を話したのか。クラウドのことなら、なるべく知っておきたいし、あの子はまだ幼いところが多分にある。私が気を使ってやらないと……」

「おまえの気遣いは、すでに十分過ぎるほどだろ」

 そういなしておいて、ヴィンセントをちらりと眺めるが、やはりここで引くつもりはなさそうであった。

 こいつがクラウドを心配するのは、恋人という立場上、ごく当然のことなのだから。

「おまえはクラウドの症状について、どの程度知っている?」

「え…… あ、そ、それは、朝方に魘されていたり、この前のように何でもないときに、いきなり涙を流したり……」

「なるほどな。……一昨々日なのだが、真夜中にあの子がオレの部屋にやってきた」

「え……?」

「その時の様子が、寝ぼけているにしてはあまりにもおかしかったのでな。いささか気になった」

「そ、そんなことが……」

「ああ。話せばおまえが深刻になると思って、敢えて口にしなかった」

 ヴィンセントはオレから目を反らすと、唇を震える指先で押さえた。不安なときに見せる無意識の仕草らしい。

「そのときにひとつ気付いたことがある。だからそれを医者に話してみたんだ」

「気付いたこと……?」

「あの子のしゃべり方、そして話の内容……どれも、今現在のクラウドではない」

 一瞬理解できなかったのだろう。ヴィンセントは不思議そうに切れ長の双眸を見開くと、細い首を僅かに傾げた。

「ど、どういう意味なのだろうか?」

 口調に不安が混じる。

「外見は当然、クラウド本人だが、中身は異なっていた。いや、同じクラウドなのだが、行動のすべてが、オレと一緒に居た子供の頃を彷彿とさせる印象だった。……それが気になったんだ」

「……つまり、中身だけ昔のあの子になっていたと……そういうことなのか?」

「そのとおりだ。夜中、部屋に来たとき、あの子は任務に赴くオレの身の心配をしていた。ひとりで残されたくないと訴えていた。どう考えても、あの物言いは神羅時代、側に居たクラウドそのものだった」

「……ど、どうして? 何故、今さらそんなことが……? い、いや、それより、あの子に身体や精神に、何か良くない影響が……」

「落ち着け、ヴィンセント」

 一旦、話を区切り、深刻になるヴィンセントを宥める。

 まったく、この男は、自身に関しては、呆れるほどに無頓着なのだが、家族のこととなると異常に神経を尖らせるのだ。

 もちろん、それは日頃の彼の言動から、どれほどこの家に居る者たちを大切に思っているのかわかっているので、今さら言及することではないのだが。 

「セ、セフィロス…… どうかあの子のことで隠し事はしないで欲しい。聞かせてもらえないと、よけいに悪いことを考えてしまう……」

 今にも泣き出しそうな情けない口調で、彼は訴えた。

「アホか。秘密にしておくつもりなら、最初からおまえに医者との話をバラすはずがないだろ」

「あ、ああ…… そう……思うが」

 半信半疑といった表情で頷くヴィンセント。こういった内容になると、ひどく警戒心を強める。普段はボケッとしているくせに。

「やれやれ。ったくおまえは、クラウドのこととなると、異常なほど神経質になるな」

「……当然だ。だが、クラウドだけではない。仮に君に、もし何かあれば、平静ではいられない。家の者たちは、かけがえのない大切な人たちなんだ……」

「あー、わかったわかった。だが、今回のことはそれほど深刻な話ではなさそうだぞ。医者が言うんだから、一応ホントのことだろ」

「だ、だが……先ほどの話では、クラウドが少年期の頃のような言動をと……」

「そのとおりだ。ヤマダーは『やり直し』行為と言っていたな」

 耳慣れない言葉だったのだろう。ヴィンセントも、オレが初めてその言葉を耳にしたときのように、

「『やり直し』行為……?」

 と繰り返した。未だに表情は不安げだ。

「言葉通りだ。あのガキは無意識のうちに昔のやり直しをしたがっているようだ。多分、きっかけは、部屋掃除の時に出てきた日記帳あたりだろ」

「え……あ、ああ、そういえば……君がゴキブリに投げつけた……」

 おかしな憶え方をしているヴィンセントである。

「だが、セフィロス、その……『やり直し』というのは? 神羅時代って……もはや過去のことではないか? 何故、今になって……?」

「ヤマダーの受け売りだが、ガキの頃、悲惨な目にあったり、耐え難いつらい経験をすると、幸福になってから、持て余した痛みを無くそうとするらしい。だから『やり直し』と言うんだろう」

「悲惨な目に遭ったり……? つらい経験……?」

「まぁ、おまえがクラウドと会ったのは、ここ数年のことだから、昔のあの子を知らないのはあたりまえだ」

「あ、ああ」

「あいつが『やり直し』をしたいのは、オレとの関係に対してだろう。理不尽にあの子の信頼を裏切り、恋人という関係から、一挙に仇になったその過程を、頭では理解していても、アレの心が納得していない」

「だ、だが……君の事情は、クラウドだってきちんと理解している。た、確かに敵対関係にあったのも事実だが、『セフィロスが、何もかも壊したくなった気持ちもよくわかる』と言っていた。……本当だ。一緒に旅をしている間に話したことなのだから。よく憶えている」

 ヴィンセントは必死の面もちで言葉を重ねた。

 クラウドの身を案じているのは当然だが、今はオレの気持ちを慮っているのだ。