〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 翌朝、目覚めてみると、すでにヤマダーはいなかった。

 ヤズーの話だと、わりと早い時間に目覚め、礼だか文句だかわからんことをつぶやき、帰っていったという。

「うん、車で送るって言ったんだけど、歩いた方がさっぱりするって。昨夜はずいぶんひどそうだなと思ったけど、酔いが醒めるのは早い人なのかもね」

「……フン」

 ふあぁ〜と大きくあくびをする。

 シャワーを浴びたが、昨夜は怒りのあまり、なかなか寝付けなかったのだ。太陽はすでに真上に来ており、起きて居間に顔を出したのは昼近くになってからであった。

 

「お、おはよう、セフィロス。そ、その……昨夜は戻らなくてすまなかった」

 オレの声が聞こえたせいだろう。

 ヴィンセントは早足でキッチンから出てくると、すぐにそう詫びてきた。

「別に。オレには関係ない」

「あ……あの…… でも……」

「おまえが誰とどこに行こうが泊まろうが、赤の他人のオレには無関係だろ。わざわざ言い訳する必要はない」

 自分でもわかっている。ただの八つ当たりだ。

 だいたい八つ当たりもなにも、ヴィンセントとクラウドのすることに文句をつけるいわれなど、オレにはないのだから。

 ただ、ヤマダーに詳細を訊ねに行った手前、のんびりとデートを楽しんできた奴らに不快感を憶えただけだ。ああ、いや、「奴ら」ではない。クラウドひとりに、だ。

 ヴィンセントには、何ひとつ罪はない。

 きっとひどいしかめツラをしていたのだろう。それでも、ヴィンセントは気になるようで、おずおずと立ちつくし、台所に戻ろうとはしなかった。

 

「あの……セフィロス……」

「なんだ。まだ何かあるのか?」

「……あ……あの…… すまなかった…… 昨夜、ヤズーに私たちのことをたずねていたと聞いたから……」

「他意はない。ただ何となく口に出ただけだろ」

「あ……そう……そうだな。つい…… 君が気に掛けてくれていたのかと思うと、嬉しくって……」

 ボソボソとヴィンセントが低くつぶやいた。気の毒に耳まで真っ赤になって俯いてしまう。

「ちょっと、何、八つ当たりしてるのよ、セフィロス。相変わらず根性サイアクだね」

 ツケツケとしたキツイ物言いはイロケムシだ。

 オレの分の朝食を準備するために奥に引っ込んでいたのだが、タイミング良く戻ってきてしまったらしい。

「あ、い、いいんだ、ヤズー。セフィロスは悪くないのだから」

「よくないでしょ? ほら、ヴィンセント」

 ポケットのハンカチを取り出して渡す。

 ボロボロと泣き出しはしなかったが、泣き虫男の双眸には、たっぷりとした水たまりが揺らめいていた。

「だいたい、セフィロスは素直じゃないんだよねェ。おおかた山田先生とふたりきりで飲みにいったのも、兄さんの件をもっとくわしく訊こうとしたんじゃないの?」

「セ、セフィロス…… そ、そうなのか……?」

 と、ヴィンセント。

「違う。おまえらには関係ない」

 オレも寝起きで惚けていたのだろうか。こんなふうに、即座に否定しては認めたようなものだ。しゃべるのが面倒くさくて、端的に答えていたらこうなってしまった。

「まぁ、そりゃ、医者との、ふたりきりほど患者の秘密を聞き出すベストシチュエーションはないよねェ。当事者の兄さんが居たんじゃ聞き難いこともあるだろうし、ヴィンセントが心配性なのは、家族の誰もが知っているんだし」

「うるせェ、黙ってろ! イロケムシ!!」

「あなたがヴィンセントに、そういう態度をとらなきゃ、気ィきかせて黙っているつもりだったけどね。今みたいに『関係ない』なんて、素っ気ない態度をいきなりとられたら、ヴィンセントのほうが気に病んで病気になっちゃうでしょ」

「……ケッ、ったく不快な野郎だ! どけ、メシを食う」

 ヴィンセントのとなりに立っていたヤズーを押しのけ、さっさと席に座った。大げさに溜め息を吐きつつも、イロケムシは茶の用意をしてくれる。

 

「あ、あの……ありがとう、セフィロス」

「何がだ! 相変わらずおかしなヤツだな、おまえは! あ〜、イラつく!」

 ハムエッグを天敵のようにフォークで突き刺し、ガツガツと食う。

 不機嫌極まりない態度は見りゃわかるのに、ヴィンセントはまだ半泣きベソ顔のまま、オレの側から離れようとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「おはよぉ〜、ヴィンセント〜。なんだァ、結局ずっと起きてたの? 一眠りすればよかったのにィ〜」

 デレデレと、嬉しそうなのを隠しもせずに居間にやってきたのは、クラウドのクソガキ。まったくタイミングの悪いヤツだ。

 ヴィンセントもそう感じたのだろう。気配を読むよう目配せをしても、一晩ヴィンセントとふたりきりで過ごしてきた後の、幸せ一杯目一杯状態のクラウドには通じやしないだろう。

「セフィも午前様かァ。ったくどこほっつき歩いてたんだよ、居候のくせに〜」

「なんだと? この……」

「どうせ、支配人さんちだろ。ヤラシーなァ」

 寝ぼけ眼で起きてきやがったと思ったら、その言いぐさか!

 ったく誰のせいで、貧相なクソ医者とツーショットなんぞ……

「ク、クラウド! ほ、ほら、早く顔を洗ってきなさい。夜着のままで起きだしてきてはいけない」

「ヴィンセントも一緒にお風呂入ろうよ〜。昨日みたいにィ〜。えへえへ」

「ク、クラウド……ッ!!」

 まるでガキが母親のエプロンに追いすがるようにくっつくクラウド。

 際限なく甘えるチョコボ小僧に、困惑するヴィンセントである。だが、厳しく突き放すこともできないのが、この男なのだ。

 ……しかし、どうやら、ふたりの様子を見ると、おかしな病気は顔を出さなかったようだ。昨夜はオレが側にいなかったわけだし、シチュエーションがいつもと異なったせいなのだろう。

 ヴィンセントとふたりきりのときにパニックに陥ることがなく、それだけはよかったと言える。

 一応、現段階で、医者に対処法を聞いているのはオレだけなのだから。