〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「あー、もう、凄まんでくれよ、コレ。チミはただでさえ、デカくて怖いのだからしてね」

 などと言いつつも、別にオレを怖がっているようにも見えない。案外肝っ玉の座ったジジイなのだ。

「あ〜、クラウドくんの行動がワシの考えたとおりだったとして…… さっきも言うたように、今の生活が幸福で、心の平安が保たれているからこそ、安心して『やり直し』をしようとするんじゃよ。だから放って置いてもいいんじゃね?コレ」

「適当なことほざいてんじゃないだろうな、ヤブ医者」

「ヘェヘェ、やぶやぶやぶやぶのヤブ医者ですからの〜。別にワシのいうことなんぞね〜コレ、聞かなくたってェ、死にゃあしませんよ、ソレ」

 ぶつぶつ文句を垂れながら、支配人には猫撫で声で「もう一杯」などとねだっている。

 

「あー、まぁ、アレね、セピロスくんね、あの子には軽めの安定剤も出しておいたし、しばらく様子を見てみたらどうかね」

「……ああ、そうだな」

「あー、それでね、もし、また似たような症状が起こるようだったら、適当になだめて、相手の話を否定しないでやればいいよ、コレ。ようは『やり直し』行為なのだからね、ソレ。かえってムキになって反論したり否定すると、同じコトを何度も繰り返しちゃうからね」

「……なるほど。『やり直し』なのだから、『やり直せた』と納得させるわけだな」

「まぁ、そうね。チミ、頭の巡りは早いようだね、コレ」

「一言よけいだ。……だが、参考になった」

 ふと、壁掛けのアンティークな時計を見上げると、すでに0時近くだ。そういえば、フロアのほうも照明が落とされ、ダンスは一段落している。

 残っているのはなじみの客がほとんどのようであった。

「ああ、こんな時間か。おい、そろそろ行くぞ」

「………………」

「おい、ジジイ、聞いてんのか?」

 上着をとってもらい、ふりむくとヤブ医者はカウンターに突っ伏していた。

「ぐお〜くお〜」と豪快にいびきまで掻いている。

「チッ! ったくなんだ、こいつは!! おい、こんなところで寝るな! 帰るぞ!!」

 乱暴に胸ぐらを引き上げようとしたオレの腕を止めたのは、なじみの支配人だった。

「いけませんよ、セフィロス。乱暴は」

「仕方ねーだろ。こんなところで寝られても困る」

「相手はご年輩の方なのですよ。側に付いていたなら、過ごさないよう、視ていて差し上げませんと」

 静かな声で注意される。

「チッ、また、オレ様が悪者か!!」

「そうは言っていません」

 少し呆れたようにたしなめられ、支配人はすぐに車を手配してくれた。

 きっと、あらかじめ、タイミングを計っていたのだろう。すぐに車付けが明るくなり、支配人はボケ老人を起こすのを手伝ってくれた。

「セフィロス、大丈夫ですか? 貴方だと背が高すぎてちょっと……」

「言っておくがこんなヤツを背負うのは嫌だぞ。肩を貸すだけでも迷惑なのに!」

「……大人げないことをおっしゃらないでください。さ、行きましょう」

 外見はヴィンセントそっくりで、物腰も物言いも本物と違わずやわらかな男だが、言葉の内容はけっこうキツイ。……というか、ハッキリと口に出すヤツなのだ。ただ、言い方がやわらかいから、辛辣な印象を受けるわけではないが。

 オレとしてはコイツの、こういうところがかなり気に入っているのだ。

「チッ……今日は泊まっていこうと思ったのに」

 オレは頭一つ下に在る、彼を眺めるとそうつぶやいた。爆睡しているヤマダーに聞かれることはないだろう。もっとも、別に知られたとしても、オレはまったくかまわないのだが。

「……そうですね、私も残念です」

 そんなふうに答えるところは、正直に可愛いと思う。普段、まったく甘えたことを言わないヤツだから。

 結局車付けまで、一緒に歩くことになった。ボケ医者はぶん殴っても目を覚まさないほど、グデグデに酔っぱらったらしいのだ。

 ……まぁ、それなりに有用な対処法を引き出せたので、今日の所はよしとしよう。

「おやすみなさい、セフィロス。お家の方々によろしく」

「……ああ、すまんな。近い内にまた寄る」

 今夜はちゃんと唇にキスをして別れる。

 車の中のヤマダーは、平和にグーグーといびきを掻いていた。

 結局、どうにもこうにも致し方がないので、車の中からヤズー宛てに電話を入れた。

 案の定、まだ起きていたイロケムシは、泥酔したヤマダーを適当に介抱してくれ、今夜はウチのサンルームに泊めることにしたのだ。

 何気なく、先に帰したクソガキとヴィンセントのことを訊ねると、

「ああ、なんか、夕方、兄さんから電話があってさ。今夜はヴィンセントと一緒に、セントラルホテルに泊まるって」

 と言う。

 

 ……あんのクソガキ〜〜っ!!

 ヴィンセントから誘うわけはないから、間違いなくアホチョコボが駄々を捏ねたのだ。

 「ヴィンセントと一緒に泊まりたい! ふたりっきりで居られたらビョーキも治るかも!」とか言って。

 体調不良を理由に医者に行った帰りだ。多少のわがままなら、ヴィンセントも素直に受け入れるだろう。

 姑息なガキめ! 知恵をつけやがって!! きっと、そういったところまで読み、ヴィンセントを無理やり誘ったに違いない。

 このオレ様が、わざわざ、ヤマダーの機嫌を取って、酒を奢ってまで、色々と対処法を考察していたのに…… そう、あのガキのためにだ!!

「なに怒ってるのよ?」

 などとのんきに訊ねてくるイロケムシを無視し、はらわたが煮えくり返る気持ちで、ゲストルームの風呂に飛び込んだ。

 クッソーッ! いつもなら、アレの店へ行った後は、一緒にマンションへ行って、アレコレアレコレ、思う存分楽しめるのに!! こうしてシャワーを浴びるのは、欲求の満たされた気怠い疲労の中でであるはずなのに……!!

 何が悲しくて、貧相な医者を抱えた肩こりを、独り寂しくほぐさにゃならんのだ!!

 イライラと不満で、ソロ活動でも……と考えたが、それは侘びしさを増すだけだと悟り、その夜はさっさとベッドに潜り込んだ。

 ……不本意だ!! あまりにも!!