〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「あー、そう。そう」

 おかしな音程で、ヤマダーは頷きを繰り返した。

 きっと、オレのツラにさらに説明を求める、とでも書いてあったのだろう。野郎は、ちらりとこちらを眺めると、言葉を続けた。

「あ〜、まぁ、チミにもわかりやすく、かみ砕いて言うとだね、コレ……」

 鼻先からメガネを取ると、袖口でキュッキュと磨く。もったいつけた態度にいらいらと先を促した。

「エラソーに講釈を垂れるな、さっさと説明しろ」

「やれやれ、相変わらず口が悪いねェ。あー、なんだったっけ」

「ボケるな。クラウドの話だろう。『やり直し』というのはどういう意味だ」

「あー、そうそう、そんなんだったよね、コレ」

 クソッ!イライラする、このボケ爺がッ!!

「ええとねェ。そのクラウドくんがね、昔、大きなトラウマになるような事件に巻き込まれたことはなかったかね。大切な何かを不意に失ったとか、信じていたものに裏切られるとか……」

 心当たりがありすぎて困惑する。だが、もちろん表情には出さない。ヤツに話の続きを促した。

「そういう目に遇った子がねェ……そう、とてもひとりじゃ耐えられないような、痛みを抱えた子がねェ、そのまま大人になって、幸運にもその子が幸福になれたとしよう」

「……ああ」

「現在のその子は幸福なのだから何の問題もない。だが、昔の痛みが大きければ大きいほど、それを『やり直したい』『修正したい』と思うんじゃよ、コレ。納得のいかなかったこと……ぶつけられなかった思いを、幸福になって安心できる今だからこそ、表に出せる。当時はその子にそんな力も余裕もなかったわけだからね、コレ」

「…………」

「チミ、さっき、クラウドくんが、泣きながら昔の話をしたと言ってたでしょ、コレ」

「……ああ」

「そいつを聞いたときにね、ああ、もしかして、と思ったんじゃよ、コレ」

「…………」

「後は、まぁ、よく考えてみたまえよ。当時側に居たのなら、なにか心当たりがあるかもしれんじゃろ、コレ」

「……そうだな」

「あ〜、ワシは別に精神科医じゃないけどねェ、あ〜、コレ、優秀だからねェ〜。そういう事例に当てはまると気付いたんじゃよ、ソレ」

 痩せぎすの医師は鼻の頭に引っかけた、アナログなメガネをくいくいと押し上げた。

「どうじゃね、乱暴者のセピロスくん。ちょっとはわしをソンケーしたかね、コレ」

「ケッ、テメーで言ってるな。だが参考にはなった。……なるほどな、『やり直し』か」

「ヴィンセントくん、もう一杯!」

 真剣なオレを横目に、ほろ酔い加減で支配人に声を掛けるジジイ。もちろん、彼は嫌な顔一つせず、やれやれといった様子で新しい水割りを作ってくれた。

 

「ん〜、いいねェ、美味いねェ、ここの酒は!! 料理もいけるし、雰囲気がいいよ、コレ!!」

「おい、酔っぱらい。まだ話は終わっちゃいねーぞ。勝手にひとりでテンションあげるな」

 氷の溶けたグラスを、グッと一気に煽ると、オレは言葉を続けた。だいたい聞きたいことは終えたのだが……

 

「まだ、何かあるのかねェ、面倒くさいねェ、コレ」

「てめェ、それでも医者か! まぁいい。一応、確認しておきたいことがある」

「なんだねェ。あ〜、おつまみも美味いねェ〜、コレ。女給さん、オリーブをもうちょっとくれんかね、好物なんじゃよ、ソレ」

 通りがかったホステスのドレスを引っ張ってねだるヤマダー。

 普段はむっつりとしているくせに、酒が入ると陽気になるタイプらしい。

「おい! クソ医者! おごらねーぞ!」

「それは困るよね、チミねぇ。ったくこれだから、最近の若い者はねェ、コレ」

「うるせェ!肝心なのはこっからだろうが! それで、どうなんだ!? クラウドの行動が仮に、本当に貴様の言ったとおりだったとしたら? 今後、何か問題が起こるのか? 状況が悪化する可能性は?」

「そんなのわからんよ、コレ」

 という間抜けた答え。

「貴様、それでも医者かッ!!」

 つい襟首を掴み挙げそうになり、カクテルを作っていた支配人に「メッ」と止められる。そういえばガキの頃のクラウドが、こんなふうにオレを目線で制止することがよくあったっけ。

 ったく…… どいつもこいつも「メッ」じゃねーぞ、コラッ!