〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<19>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

「俺のこと心配してくれてるのは、ヴィンセントだけじゃん。セフィなんてただバカにして遊んでるだけだもん!」

「皆、態度に表さないだけなのだ…… な、クラウド……?」

「だって……俺……」

「私も同行するから…… な? ほら、山田医師なら、おまえもなじみだし……」

「注射されたらどうすんの……?」

 さすがに呆れたのか、ヴィンセントが目を丸くして(そう、あの切れ長の、愁いを含んだ血の色の瞳を、だ)、マジマジとアホチョコボを見つめた。いや、『凝視してしまった』と言ったほうが近いだろう。

「クラウド……そんなこと……」

「とにかく、医者はイヤなの! 放っておいて!」

 ブチッと、頭の中で、何かがキレた。

 

「やれやれ、面倒くせェ! おらァ!」

 オレは勢いよく立ち上がると、ワガママなクソガキを引っ張り寄せた。間髪入れずに持ち上げる。

「ぎあぁぁぁぁ!」

 聞き分けのないアホチョコボを肩に担ぎ上げ、ヴィンセントに顎をしゃくった。

「オラ、さっさと行くぞ、ヴィンセント!」

「セ、セフィロス……! 手荒な真似は……!」

 ヴィンセントが、おろおろと取りなしの言葉を口にする。オレがこのクソガキをぶん投げるとでも思っているのだろうか。

「お、怒らないでやってくれ……! クラウドは本当に病気なのかもしれないし……ただ医者が苦手だと……」

「ああ、そうだな! ただのワガママ病だ! ついてこい、ヴィンセント!」

「え……あ……」

「きあぁぁぁ! やだぁぁぁぁ! やだやだーッ!」

 オレはぎゃんぎゃんと暴れる豆柴のようなクソガキをそのまま担いで行く。車に押し込んじまえばこっちのモンだ。

「セフィロス! セフィロス……? あ、あの……私は……」

「ボケッとするな、ヴィンセント! キーを忘れるなよ!」

「え、あ? あの……?」

「ほら、ヴィンセント、車のキー」

 察しの悪いヴィンセントに、バチンとウィンクして、イロケムシが車の鍵を投げ渡した。

「ご苦労だけど、兄さんをよろしくね、セフィロス、ヴィンセント」

「あ、ああ、す、すまない。では行ってくるから……皆は心配せずに、待っていてもらえれば……」

「いつまでやってやがる、ヴィンセント! さっさとしろ、グズグズするな、ボケッ!」

 他の家族にご丁寧な口上を述べる、鈍くさいヤツを一喝する。

「あ、い、今…… で、では……」

 ヴィンセントはあたふたとしていたが転ぶこともなく、ヤツにしては速い動きでオレの後を追ってきた。

 

「何だよ、放せよ、セフィッ! 俺、なんともないもん! 医者なんか行かないッ!」

「いいかげんにしろ、往生際の悪いヤツだ!」

「うっさい! おろせ、おろせよ!!」

「昔は『だっこ』とか言って、よじ登ろうとしたくせに」

「子供のころの話はすんなッ!」

 クラウドがわめく。

 他の奴らが居るならばともかく、オレと一緒のときは、ついつい地のガキくささが表にあらわれるのだろう。

「そうか……クラウドは君に甘えていたのだな…… 微笑ましいことだ」

「って、ヴィンセント側に居るじゃん! 放してよ、セフィ!おろせー! カッコわりぃ〜!」

「今さらだろーが。いいかげん観念しろ。世話を焼かせるな」

「だってヤなんだもん! 行きたくないッ! 俺は何ともないッ!!」

「バカ野郎! このクソガキがッ!」

 肩口で暴れる金髪チョコボを怒鳴りつける。本当にまだまだガキそのものだ。

「医者に診せて、なんともなきゃそれで周囲が安心すんだろーが! てめェのためだけに言ってんじゃねェ! おまえを心配している連中を安心させてやれっつってんだ、成長しろ、クソガキ!」

「うッ……」

「セフィロス……君は……」

 小走りに後をついてくるヴィンセント。

 案の定、オレの適当な口上に感激している様子だ。

 ……ったくどいつもこいつも面倒くさい者どもめ……

 

 勢いよく車のドアを開けると、クラウドを後部座席に叩きつけた。

「おい、ヴィンセント、目ェうるうるさせてるな! おまえは、クラウドと一緒に後ろに乗れ! ガキの手を放すなよ!」

 叱りつけるようにそういうと、ヴィンセントは真剣な面持ちでギュッとクラウドの手を取った。まんざらでもなさそうなクソガキのツラがムカついた。

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして、車は見慣れた診療所に着いた。

 いや、正確にはこの場所に来たことがあるのは、オレとイロケムシだけだが。

 イーストエリアの南東端。そう、ちょうど、家から海岸沿いにまっすぐ南に下った町外れに、そのボロい診療所はある。

「おーい! ヤブ医者!!」

「セ、セフィロス!」

 車から降りると、畑で一服くゆらせているヤブ医者に声を掛けた。慌ててオレを諫めるのはもちろんヴィンセントである。

 セントラルには総合病院があるが、オレらはもっぱらヤマダーのオンボロ診療所に世話になっているのだ。

 

 ヤマダー……山田とかいう、貧相な医者とは不思議な縁で知り合った。

 初めの出会いは、シーウォームとの戦闘で、ショック症状に陥ったヴィンセントのために、薬を分けてもらったことから始まった。何のことはない。たまたま近くに居たらしいこの医者を、おせっかいな住民が連れてきてくれたのだ。

 そして、DG事件で大怪我を負った、オレとヴィンセントを手当してくれたのもコイツ……別の世界に居るもうひとりのオレ……負傷した『セフィロス』の手術を請け負ったのもこの男だった。

 一切何の詮索もしない、無愛想でつまらなさそうなこの町医者を、オレはわりと気に入っていた。

 コイツはツラも悪いし、やる気もないが、腕は悪くないのだ。

 ヤツは、オレの姿を見留めると、あからさまに迷惑そうなツラをしやがった。

「げげげ。なんだね、チミはセピロスくんかね、コレ。」

「『セフィロス』だっつってんだろ、この老いぼれ。おい、急患だ。診てくれ」

「急患ってチミねェ〜。本日の診察は午前中までなんだけどね、コレ」

 面倒くさがりのこのジジイは、フルタイムで診察をしないのだ。ようはやる気がないのである。

 そんな態度では、お世辞にも綺麗とは言い難い、ちっぽけな診療所が流行るわけはなかった。

「どうせヒマなんだろ。カタイこというな」

「ヒマってチミねェ〜……」

「セ、セフィロス! き、君は下がっていてくれたまえ」

 横柄なオレの物言いが気になるのか、めずらしくも自分から前へ進んでヴィンセントが声を掛けた。

「あ、あの……先生、お久しぶりです。連絡一つ差し上げず、唐突に申し訳ありません。ですが、どうしても……」

「またチミかね〜、ヴィンセントくん。相変わらず細っこいねェ、コレ。」

「あ、い、いえ、あの……」

「ゴルアァァ!ヴィンセントにシツレーなコト言うなッ! ヴィンセントが華奢なのはチャームポイントなのッ!」

 さっきまでふて腐れてたくせに、ヴィンセントがらみの発言には、しっかりとツッコミを入れるクラウドであった。

「あ〜……アレ、チョコボっぽい子……チミはアレ、なんだ? ええっと……いやいや、最近、人の名前が出てこなくてねェ〜。困ったもんだよ、コレ」

「俺はクラウドだ! っつーか、俺が戸主で、セフィは居候なんだからッ!」

「クラウド…… 静かに」

 病身と思いこんでいるのか、興奮するクラウドを諫めるヴィンセントである。

「休診中にすみません、先生。ですが……」

「やれやれ、あ〜、致し方ないねェ、ヴィンセントくん。すまんけど、看護師は帰してしまっておるからね、コレ。あー、じゃあ、病院のドア開けてくれるかねェ」

「てめェは無人の診療所の鍵も掛けておらんのか。不用心だな、ヤブ医者!」

「ここは常夏の国、コスタ・デル・ソルの田舎町だよ、チミ〜。怖い物取りなんぞ居らんがね」

「そういう思考が甘めーんだよ。やはりジジイはダメだな」

「いやいや、ここで一番怖いのはチミだよね、セピロスくんね。チミは乱暴だし、声が大きいし、態度も大きいよねェ、いやだねェ、コレ」

「あまり誉めるな。それよりさっさと歩け。まだるっこしい」

 オレはどことなく宝条に似た、痩せぎすの……だが、宝条よりはずっとまともな魂の輝きをもつ、老いぼれ医者を促した。