〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「あ〜、美味しい!」

 ちょっと大げさなほど声をあげて、俺は健康体であることを誇示した。

「ほら、こんなに食欲もある。全然心配いらないよ、ヴィンセント」

「ん……ならばいいのだ。ゆっくり食べてくれ」

 そう、せっかく今日の配達はカダたちが代わってくれたんだ。ここは一日リフレッシュして、また明日からがんばろう!

 おれは朝っぱらから、三杯メシをかっ喰らうと、ようやく満腹になって、ごちそうさまをした。もちろん、ヴィンセントにせがんで朝食後のデザートもしっかりと食ってからだ。

「なんだか、カダたちに悪かったなァ」

 居間のテーブルに移って、食後のお茶を飲みながら、俺はヤズーに話しかけた。

「そんなことはないでしょ。配達に行くの楽しいみたいだよ。カダもずいぶん人慣れしてきて、女の子に人気があるみたい」

 眉一つ動かすことなく、微笑みながらささやくヤズー。

 

「ヤズーってさ、そーゆうの全然気になんないの?」

「え〜、何、それ。ヤキモチ焼くかってこと?」

 後かたづけの手は休めず、彼は笑いながら聞き返した。ヤキモチ……か。俺なんかすごいヤキモチ焼きだから。ヴィンセントが他の連中と仲良くしてると、間に割って入りたくなる。

 セフィと一緒に居た頃も……そう、彼がソルジャーの人と、親しく会話しているのを見て、胸を痛めたことは何度もあったはずだ。

 ……あ、いや、こりゃ、『ヤキモチ』とは違うのかな。

 

「そうねェ、女の子たち相手に、あんまりそういう気にはならないかな」

 のんびりとヤズーが言った。俺は目の前で寝転がっているセフィロスを、ぼんやりと眺めたまま相づちを打った。

「ふぅん……そうか。なんか余裕って感じだよね、ヤズーって」

「余裕って言うか……そうねェ、この家で一緒に暮らすようになってから、あの子、本当に強くなったし、ものを考えるようになってきたよ。だから今はつまんないことで嫉妬したりするんじゃなくて、彼の成長を喜びたいかなってカンジ」

 そういうと、彼は花が綻ぶようにやさしく笑った。

 なんだか、こいつには身長から何から、全部負けているようで、ちょっとムカツク。

 

 

 

 

 

 

「さてと、ほら、兄さん、せっかく今日はお休みになったんだから、好きなことしたら?」

「そうだなァ、今日もフツーに仕事行くつもりだったから、なんか肩すかし」

 セフィみたいに、暇さえありゃ寝ているというのはちょっとアレだしなァ。

「いいじゃない。たまにはそんな日があっても」

「うん……」

「行きたいところがあれば出掛けてもいいし、部屋でのんびりがいいならそうしてくれてもかまわな……」

 おかしな感じで、ヤズーの言いかけた言葉が途切れた。

「に、兄さん……?」

「え……?」

「ク、クラウド……?」

 タイミング良く、お茶のお代わりを注ぎに来たヴィンセントまで、俺を見て固まってしまう。

「クラウド……? どう……したのだ?」

 いかにも、おっかなびっくりといったふうなヴィンセントの問いかけ……いったい何だというんだ。今朝から。

 あらためて、何なの?と聞き返そうと、顔を持ち上げたとき、コットンパンツの膝にボツボツと熱いものが落ちた。

「え? な、なに……?」

 まったく自覚がなかった。

 ただ、ぼんやりとセフィとヴィンを眺めていただけなのに。いやセフィロスのことだって、意図的に見つめていたわけではない。

 ソファに座ったから、位置的に彼の寝転んでいる姿が視界に入るというだけなのだ。

 

 それなのに……

 膝にこぼれ落ちた水滴は、まぎれもなく俺の涙だった。頬を擦ると手が濡れた。

 そう……俺はまるきり自覚のないまま、涙をこぼしていたのであった。

「……? なんだ、どうした、クソガキ。何かおかしなものでも食ったんじゃねーだろうな?」

 さすがにおかしいと感じたのだろう。セフィロスはヴィンを片手ですくいあげ、床に置くと、自らも身を起こした。

 セフィの身体から、懐かしいコロンの香りがする。

「おい、クラウド?」

「……? わ、わかんない…… なんか勝手に…… あ、あれ?あれ?」

 そうしてしゃべっている間にも、ぼろぼろとこぼれ落ちてくるのだ。

「兄さん? やっぱり具合が悪いんじゃない?」

 ヤズーが差し出してくれたティッシュで、慌てて鼻を噛み、涙を拭う。

「う、ううん。全然そんなことないんだけど……」

「な、山田医師のところに行こうか……? 私も付き添うから」

「ち、ちがうんだよ、ヴィンセント。なんかそういう病気とかじゃなくて。だって頭も痛くないし、熱っぽいわけでもないもん。ただ、なんで涙が出るんだろう……?」

 ヴィンセントが、今にも泣き出しそうな面もちで俺を見つめる。彼は心配性で繊細な人だから、こんなふうに心に負担を与えてはいけないのに。

 だいたい俺が泣く理由なんて何もないじゃないか。フツーに朝ご飯食べて、ソファでお茶して、寝転がってるセフィを眺めていただけなのに……
 
 セフィを見て、涙がこぼれたって?
 
 そんな、子供の頃じゃあるまいし、バカバカしい。