〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「ご、ごめん!ホントに心配しないで!! なんともないから。お、俺、ちょっと部屋で休んでる。ごめんね!」

 彼らの側に居ても、無意味に心配を掛けてしまうだけだろう。ヴィンセントのつらそうな眼差しが痛い。

 乱暴にならない動作で、急いで立ち上がると、居間から小走りに出ていった。後ろ手に扉を閉めたとき、残された三人がこそこそと話合うのが聞こえたが……

 

『なんだ、あのガキは。どうしたってんだ?』

『それがわからないから困るんじゃない。なにか心当たり無いの、ヴィンセント?』

『す、すまない……私には全くわからない…… もっとクラウドのことを気を付けていればよかったのだ。皆の中では年長だし、しっかりした子だと思っていたから……』

『あ、ちょっ……ヴィンセントってば、泣かないでよ。あなたが悪いわけじゃないでしょ』

『あー、アレじゃね?』

『なにさ、セフィロス』

『部屋掃除したとき、エロ本全部捨てさせたからなァ。それがショックで……』

 

 アホか、セフィロスーッ!!

 もう、ホント、アンタ、いいかげんにしてよッ!

 よりにもよって、心から心配してくれてるヴィンセントの前で、エ、エロ…… なんて話してんじゃねーよ! 無神経なのは昔からだな、コノヤロー!

 

『まさか……そのようなことで…… 欲しいのならまた買ってくればよいではないか。なんなら、私が今すぐに……』

  

 ちがッ! 違うから、ヴィンセントーッ!! 

 

『いくら兄さんでもそんなことで泣いたりしないでしょ。でも食事もしっかり取ってたし、デザートまで食べてたものね。身体の具合が悪いってわけではなさそうじゃない?』

『じゃあ、なんだ?』

『それがわかれば心配しないでしょ。どうしたのかなァ、本当に。知らない間に涙がこぼれてたってカンジだったよね、ヴィンセント』

『あ、ああ……彼自身も、自分の頬に触れて愕いていたくらいだから……』

『でも、無意識に涙って出るモンなの? やっぱ理由があるでしょ?』

『……夢見でも悪かったのだろうか……? 今朝も起こしに行ったとき、ひどい寝汗をかいていたから……』

 ヴィンセントが不安そうにつぶやいた。

 小さくて低い声だから、部屋を出たとき、完全に居間のドアを閉めてしまっていたら聞こえなかっただろう。

『夢……ねぇ。確かに、悪夢にうなされて涙を流すっていうのはあるかもしれないけどさ。ちゃんと起きだして、シャワーも浴びたようだったし、御飯も食べてたでしょ。寝ぼけてるってことはありえないじゃない』

『……クラウドは無理をしていただけなのかも……私たちに心配をかけぬよう……』

『ああ、もう、ヴィンセントってば、悪く考えないでよ』

『ベッドから落っこちて頭でも打ったんじゃねーのか? ああ、でも、あいつの頭が悪いのはもともとか』

 おい……ちょっ……!!

 セフィ、アンタ、ケンカ売ってんの!?

 くそっ!やっぱ居間に戻って、怒鳴りつけてやろうか。

 

『身体の具合が悪いわけではない……それなのにあんなふうに涙が……』

『そうだねェ。なんか「泣いてる」ってカンジじゃなかったもんね。しゃくりあげてもいないし。ただフツーに座っていただけなのに、勝手で出て来ちゃったみたいな……』

『……ここのところクラウドの睡眠が浅いようで……それも心配なのだが』

 

 

 

 

 

 

 う〜う〜、まずいなァ。

 自分でも心当たりがないんだけど、ヴィンセントたちが不安に思っているような、患っているという自覚はまったくないんだ。

 ゴハンも美味しいし、フツーに動けるし、熱が出ているわけでもないし。

 身体のどこかが痛いとか、不調の自覚症状は皆無だ。

 

 敢えて言うなら、ここのところ熱帯夜が続いているから、多少寝苦しいというくらいで。

 ただ、ヴィンセントが言っていたように、内容は忘れてしまったとはいうものの、夢のせいで、寝起きにひどい汗を掻き、いつの間にか頬に涙が伝わっていた……というのは事実だと思う。

  

 これ以上立ち聞きしても、致し方ないと考え、俺は足音を忍ばせて自室に戻った。

 親身になって心配してくれてるヴィンセントには、申し訳ないけど、俺自身にも心あたりがないのだ。

 となると、あの場に戻って説明しても、きっと彼らの納得のいく理由を話すことはできまい。

 ならば、心配の元凶たる俺は、ひとまず場を辞すのが、よいと思ったのだ。

 

 自室の扉を開け、やることもないから、ころんとベッドに横になる。

 眠くなったなら寝ちゃえばいい。もし何か用事があれば、ヤズーあたりが起こしてくれるだろう。

 

 俺はクリーム色の天井を眺めつつ、ぼんやりと涙の心当たりをさがした……

 そしていつの間にか、心地よい眠りに取り込まれたのである……