〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 ピッピッ ピッピッ

『セキュリティ、解除致します』

 ピッ……ピピーッ…………

 手袋をした長い指がなめらかにプレートの上を滑る。

 セキュリティルームの一番奥に到着すると、彼はあっさりと禁断の扉を開けてしまった。

 

 ここから奥は、メディカル関係者や特殊職員以外の立ち入りを、厳重に禁止している場所のはずだ。

「あ、あの……」

 思わず、おれは前をゆく長身の人に声を掛けていた。

 あんなにセフィロスの側に行きたい、顔をみたいと欲していたのに、特別区域の空気に呑まれてしまったのだ。

「どうした?」

「あ……あの……ここ……入っちゃいけないんじゃ……」

 辿々しい物言いに、またもや口元だけで笑うと、ジェネシスはふいと顔を背けて前を向いた。

「セフィロスに会いたいのだろう?」

「そ、そうだけど……」

「…………」

「で、でも、おれ……見習い兵で……こんなところまで来ちゃって……」

「……ならば戻ればいい」

 という、素っ気ない一言。

 用済みとばかりに、おれを置いてさっさと歩き出してしまう。

 どうしよう、せっかく連れてきてくれたのに、怒っちゃったのかな? ここで置いてけぼりにされたまま、医療関係者に見つかったら、ただじゃすまない。

 それに、セフィロス…… やっぱりセフィロスの側に行きたい……ちゃんと大丈夫なんだって確認しなきゃ……!!

「あ…… お、おれ……」

 タッと駆け出し、ジェネシスの後を追う。

「い、行く……行きたい……一緒に……!」

「……泣くことはないだろう」

 呆れた彼の口調で、おれはまたもや涙腺が緩んでしまったことに気がついた。

 慌てて頬を擦るおれを、黙ったまま眺めると、ジェネシスは、「早くしないか」とだけ声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 最後の……つきあたりの部屋。

 分厚いセキュリティドアをキー操作で呆気なく開くと、ジェネシスはどんどん中に入っていってしまう。

 扉の向こうはまるで実験室のような機械機器が立ち並び、その中央に巨大な寝台が設置されていた。ベッドの周囲は十分にスペースが取られているものの、仕切ひとつ隔てると精密機械のオンパレードで、そこから延びたさまざまな管が、寝台に横たわる人物につながっていた。

 おそらくそれらは、おれなど想像もつかない最先端の治療検査器具なのだろう。

 

「セフィ……? セフィ……ッ!!」

 彼の横たわる大きな寝台は、さらに巨大な真空管のようなもので覆われていた。彼の肉体が外気に触れるのを避けるためなのだろう。

「セフィ……ッ!!」

 ジェネシスが一緒だということも忘れ、おれは部屋の中央の真空管に駆け寄り、彼の名を繰り返し呼んだ。

「セフィ……ッ! しっかりして……ッ! お願い……目を開けてよ……」

 彼の入ったカプセルは、外部の物音も遮断するのか、セフィロス自身が深い眠りに落ちているせいなのか、必死に呼びかけるおれの声に反応することはなかった。

「セフィ……! セフィロス……ッ!!」

「……薬が効いて眠っているだけだ」

 あまりにも静かな声音に、おれはハッと頭を上げた。ジェネシスは腕組みしたまま、背後の壁にもたれていた。冷たく整った顔には、なんの感情も浮かんでいなかった。

 そう……セフィロスへの心配も、取り乱すおれへの同情や軽蔑すらも、何もなかった。

「セ、セフィは……セフィは……」

「さきほど、まもなく毒素の解析が済むという報告を受けた。早ければ明日にもワクチンを投与することができるだろう」

「え……?」

「さぁ、時間までは知らない。俺はメディカルセンターの人間じゃないから」

 抑揚のない口調でジェネシスは言った。

「あ、あの……」

「この男の体力が明日まで保てば、何の問題もないだろう」

「じゃあ……セフィロスは……?」

「モンスターの一部を切除して持ち帰ることができたから。医療研究スタッフもやりやすかったんじゃないか」

 涙と鼻水を垂らしたまま、おれはカプセルの中のセフィロスを見た。

 白くて綺麗な顔が、微動だにせず眠っている。強い光を帯びた湖のような双眸が閉じ合わされていると、なんだかすごく……そう、セフィじゃないみたいに、不思議な美しさで……

 いや、セフィ自身は本当に綺麗なんだけど、いつもの綺麗さとは異なる、どこか神秘的で不思議な雰囲気をかもしだしていた。

 

「……気が済んだか?」

 そう言われて、おれは慌てて目線をジェネシスに戻した。

「はい」

 と小さく応える。

 おれは彼に、わざわざこんな場所へ同行し、セフィロスに会わせてくれたことに、礼を述べることさえ忘れていた。

 こんなに長く<G>と一緒に居るのは初めてだけど……なんだかよくわからない人だ。何を考えているのか全然読み取れない。

 どうして、おれをここへ連れてきてくれたのだろう?

 彼にとっては何の得にもならないのに。それどころか、このことが外部に知られれば、ジェネシス自身が咎められる可能性もある。にもかかわらず、どうしてただの見習い兵のおれを、わざわざ……?

 ザックスなどは彼のことを「苦手だ」といっていたけど、なんとなくその気持ちがわかる。

 言葉を掛けて慰めてくれるわけでもない。セフィロスのことを心配している素振りも見せない。この上なくどうでもよさそうな態度で、見ず知らずの見習い兵のためにこんなことまでしてくれる……

「……戻るぞ。後は彼の快復を待て」

 そう言っておれを促し、横たわるセフィロスには、一瞥もくれずに元来た道を戻った。

 ソルジャーの私室があるフロアまで行き着くと、「じゃあ」とだけ言い残し、さっさと歩き出してしまう。

 情けなくもこの段になって、ようやく高ぶっていた気が落ち着いてきた。

 慌てて彼を追いかけ、頭が膝に付くほど深くお辞儀をし礼を述べる。だが、ジェネシスはそれさえもどうでもよさそうにいなすと、さっさと自分の部屋へ引っ込んでしまったのだ……

 

 おれは閉ざされた扉に向かって、もう一度深く深く頭を下げた。

 その後、大急ぎで一般寮に走り戻る。人に気付かれないよう足音に注意しながら。

 

 ザックスがまだ戻っていないようにと祈りつつ……