〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 

 今から思い返すと、やはりどこかおかしいと感じたのは、あの日記を見つけてから2、3日経ったころだったと思う。

 不思議なことに、日記を読んだその日から、よく神羅時代の夢を見るようになった。

 たぶん、懐かしい代物だったので、とても印象が深く、そのせいだろうと思っていた。

 

 その日は仕事から帰って、いつものように風呂を済ませ、ヴィンセントの心づくしの夕食を食べた。

 本当にいつも通りで、まったくなんの変哲もない平日である。

 メニューは海の幸満載の鍋料理にホッと一息つき、十分満腹になった。身体が温まったせいだろう。仕事での軽い疲労も心地よく、そのままベッドに潜り込んだのだ。

 サイドデスクにはここのところ、少しずつ読み進めていくのが日課になっている、昔の日記帳。

 今日も続きを読もうと、ベッドの中に引き寄せ、ページを手繰ったが寝不足が祟ったせいだろうか。

 ほんの数ページも読まぬ間に、俺は深い眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

「ザックス! ねぇ、頼むよ……ッ おれ……心配で……」

「落ち着け、クラウド。検査の結果が出るまでは待つしかないんだ」

「その間に、もしものことがあったら!? 結果がよくなかったらどうすればいいんだよ…ッ」

「だから……! 怪我自体はたいしたことはないんだ。今は薬が効いて眠っている」

「だったら……!」

「言っているだろう! あそこはLEVEL4の危険地帯なんだ。セフィロスが戦ったのはそこの主のようなモンスターだ。触手で傷つけられた部位からの感染らしい」

「………………」

「それを調べているんだ。万一空気感染や……その、もし、セフィロス自身が感染源になってしまっていたとしたら……」

「それでもかまわないッ! セフィに感染されるんなら、おれ……」

「バカなことをいうな! 今、メディカルセンターで治療と毒物の解析がなされている。セフィロスを信じて待つんだ!」

「……ザックス……!」

 ザックスがおれの肩を抱きしめ、必死に宥めようとしてくれている。

 でも、おれはセフィロスの容態が心配で心配で……ようやく見習い兵に昇格したばかりのおれにできることなど何もないのに。

 せめて彼の側についていたいと願っても、それさえも許される状況ではないのだ。

 

 セフィロスをはじめとするソルジャー1st数名と、一般兵数十名が派遣された地域は、レベル4に認定されている危険な地域だった。

 そこの地質調査と、魔晄エネルギーの測定、そして生物の調査であった。

 セフィロスはトップソルジャーだから……どうしても危険な任務が多くなる。激戦区へ狩り出されることもあったが、今回みたいな……未知の場所への探索調査みたいな任務もあるのだ。

 地質調査、魔晄エネルギーの測定までは無事に終えたところ、一行はモンスターに遭遇したらしい。生物の調査といえば、聞こえはいいかもしれないが、ようはモンスターの生態を調べることが目的である。

 なぜなら豊富な魔晄エネルギーがあっても、それを利用するためには施設を建設し職員を配置しなければならない。有害なモンスターが生息しているとその妨げになるのだ。

 ソルジャーといえども、データのない未知のモンスターとの戦闘は危険が多い。セフィロスのことだから、めったなことでは負傷することも無かろうが、彼だとて人間なのだ。 モンスターの有する毒に侵されては、為す術もないだろう。

「クラウド、心配なのはわかるが、今は待つしかないんだ」

 本当の兄さんのように、やさしくザックスが言った。彼はおれとセフィロスの関係を知っているから……情けなくも取り乱す、おれの気持ちを理解してくれる。

「な? クラウド」

「ザックス……」

「セフィロスのことだ。きっと大丈夫だ! とにかく毒の成分分析が終われば、解毒剤は作れるはずだからな」

「ザックス……他の人たちは……? 他にも任務に同行した人たちがいるでしょう……?」

「あ、ああ」

 尚も言いつのるおれに、ザックスは困惑しながらも頷いた。

「ねぇ……他の人たちは大丈夫だったの? 毒にやられたのってセフィだけで……?」

 ザックスがおれから目を反らす。

「クラウド……」

「ねぇってば、ザックス!」

 ザックスは嘘をつくのが下手なんだ。やさしくて思いやりがあるから、おれを不安にさせないよう、一生懸命言葉を探している。

 でも、そうされればそうされるほど、おれは事態の深刻さを思い知らされるだけで……だって吐きたくもないウソをそうやって捜しているんだろう? 

「クラウド…… それは……」

「……みんなは? ソルジャーだけじゃなくて、一般兵も同行したんでしょ!? 他の人たちはみんな無事に……?」

「……その……」

「いいから言ってよ! よ、よけいに……不安になるよ……」

 叫びに嗚咽が混じってしまう。

 ああ、バカなおれ!! ザックスを責めてもどうにもならないのに。彼はおれを気づかって、言葉を選んでくれているのに!!

「危険な任務だったんだ……それはよくわかっていた。負傷者18名……死者3名だ」

「死者3名……」

「……セフィロスに同行したソルジャー2nd、3人だ。毒がどうのという前に、傷が深すぎた。すぐに止血をしたが間に合わなかったんだ」

「…………ッ」

「あの場所……レベル4地帯のモンスターと直接戦って、帰還したのはセフィロスだけなんだ」

 おれの両肩を掴み、噛んで含めるように、ザックスは言った。

「セフィロスは巨大モンスターの体躯の一部を斬り取って持ち帰った。そこから必ず解毒剤ができる! 時間の問題なんだ。セフィロスの体力さえ保てば……必ず助かる……!」

「だったら、側に居させて…ッ! 他のことも……仕事もちゃんとやるからッ! 夜だけでも……セフィロスの側に……」

「クラウド……ッ だから言っているだろう!?」

 ザックスが軽い苛立ちを込めて、言葉を繰り返した。いつしか押し問答は最初に戻ってしまうのだ。一体何度目だろうか。

「だから…ッ! セフィロスの体内には未解析の毒が入り込んでるんだよッ! ヤツ自体が感染源になっている可能性もあるんだッ! だから、今は……」

「うッ……うっうっうっ……えッ……えッ……」

「クラウド……」

 目の奥が熱い。喉がカラカラに干上がって言葉が出なくなる。

 際限なく流れ落ちる涙と嗚咽を堪えきれなくなり、ザックスにしがみついたまま、ずるずると座り込んでしまう、おれ……

 無力で役立たずの、おれ……