〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリ……

「………………」

 ジリリリリ……ジリリリリ……

(うるさいなァ……)

 ジリリリリ……ジリリリリ……

(何なんだよ……これから、セフィと出掛けるのに……)

  ジリリリリ……ジリリリリ……

「…………ん……」

 ジリリリリン! ジリリリリン!

「ん……あ、ヤベッ!」

 

 俺はベッドの上から飛び上がるようなイキオイで跳ね起きると、いい加減うんざりとした表情で鐘を鳴らしてくれているアナログ時計を止めてやった。

 もともとはずっとデジタルを使っていたのだが、それだとヌルくて目覚めることができなかったからだ。

「……あ、あれ……?」

 寝ぼけ眼で、あたりを見回す。

 見慣れたベッドにスチールの棚……デスクの上の写真立て……

 コスタ・デル・ソルの俺の部屋だ。掃除してあるから、いつもより綺麗だけど……

「……夢か…… ヘンな夢……」

 もぞもぞと下半身の様子を伺い、苦々しげにつぶやいた。

 ……なんであんな昔の夢で興奮してんだよ、俺は! もちろん夢精するほど、ヤバかったわけじゃないけど、朝シャワーのときに抜いた方がいい程度ではあった。

「あ、そ、そうだ……仕事……」

 敢えて、するべきことを口にしてみて、目をしっかりと覚まそうとするのだが……

 俺は、ぶるぶると強く頭を振ってみた。

 変な夢をみたせいだろうか。なんだかあまり疲れが取れていない気がする。

 ちょっとボ〜ッとするような……いや、別に具合が悪いとかそんな大げさな雰囲気ではないのだが。

 

 のんびりしていると、ヴィンセントが心配して覗きにくるだろう。

 昨日も、迷惑掛けちゃったのだから、今日はちゃんとして、イイトコ見せなきゃいけない。件のエロ本も持っていかれたもの以外は、全部ゴミ出ししたし……

 まだ、ちょびっとクラクラしていたが、えいやッ!と起き上がり、俺はバスルームに入った。

 熱いお湯を頭からぶっかけ、髪を洗い身体を流し、湯船に浸かって汗を流す頃になると、ずいぶんと気持ちがしゃっきりとしてきた。

 

 

 

 

 

 

「おはよ、ヴィンセント!」

 いつもどおり居間に顔を出すと、俺の最愛の人はとっくに起きていて、テーブルに朝食を並べてくれていた。

「おはよう……クラウド。昨夜はよく眠れたか……?」

 と低い声で訊ねてくれる。

 長い黒髪をひとつに括り、背の中頃でゆらりと揺れた。

「うん! でもちょっと綺麗過ぎて、なんだか落ち着かないカンジ〜」

「ふふふ、おまえは面白いことを言うのだな」

 冗談とも着かない口調で、そうささやくと、俺に席に着くよう促した。

 今日の朝食もとっても美味しそうだ。

 ここのところ和食が続いていたせいか、今日は洋食が並んでいる。

 チーズとベーコン、トマトにキュウリ、ハンバーグのホットプレスサンド。卵のココット、鱈のムニエル、レモンソース添え、サラダはアスパラガスとコーンをメインにたっぷりの生野菜が盛られている。

「クラウド……ドレッシングは……?」

「えーとね、サウザンアイランド!」

 ヴィンセントが丁寧にドレッシングを野菜にかけてくれる。

「あ、兄さん、おはよ〜。昨日のアップルパイ、まだ残ってるけどどうする?」

 ひょいとキッチンから顔を出したのは、弟のヤズーである。彼はヴィンセントと一緒に家事を担当してくれているのだ。

「あ、食う! 食後のデザートにする。飲み物、ミルクティーな!」

「ちょっとォ、しつこくなァい?」

「平気平気。甘いの好きだもん」

「はいはい」

 やれやれといった風な口調で了承すると、彼はすぐに元の作業に戻ってしまった。ソファで寝転がっているセフィロスは、すでに食事を終えているのだろうが、カダたちはまだだから。

 我が家の場合、大抵、一番最初に食べるのがセフィロスとヤズー、たまにヴィンセントらしい。その後、仕事のある日は俺が起き出してきて食事をし、ほんの少しの時間差でカダたちがやってくる。

 ヤズーとヴィンセントは、セフィロスと一緒に食べられそうなときはそうして、まだ食欲がないとか、忙しいときは、カダージュたちが終わってから、ふたりでのんびり食べるらしい。

 俺的にはヴィンセントと一緒に食べたいんですけどね〜。

 ヴィンセントは食が細いから、ちゃんと食べているか見てやらないと。

「……クラウド……?」

「ん、なに?」

 食後のアップルパイを、がしがしとかじりながら顔をあげる。

「あ、いや…… 目が少し紅いな。睡眠が足りなかったのではないか?」

「え? そう? んー、確かにちょっと夢見が悪かったけど〜……」

 ちらりとソファのセフィを盗み見るが、彼はまったく気付かず、ヴィンの相手をしながら新聞をめくっている。

「でも、平気だよ? もう、ちゃんと目、覚めてるし」

「……ならばよいが……」

 心配性のヴィンセントは、わざわざ俺の側までやってくると、軽く腰をかがめ、顔を覗き込んできた。細くて冷たい指が、母親のように前髪を掻き上げ、そのまま額に添えられる。

「ん……熱は無いようだな…… ここのところ、寒暖の差が激しいから……一枚羽織るものを持っていった方がいいかもしれないな……」

「ヤダなァ、大げさだよ、ヴィンセント。ホントにちょっと寝不足っぽいだけだから。具合なんて全然悪くないし」

「健康を過信してはいけないぞ、クラウド…… 若いからと言って無理を重ねては疲労を蓄積してしまう。休むときにはきちんと身体を……」

 すごく真面目な顔をしてさらに言葉を重ねるヴィンセント。

 こんなふうに親身になって心配してくれるのは、本当にとっても嬉しい。でも、だからこそ、俺は今までよりもずっとずっと強くなって、ヴィンセントの期待に応えなきゃと思ってしまう。

 尚のこと、昨夜の寝不足は、「セフィロスとHする夢みたせいです」なんざ、口が裂けても言えたもんじゃない。

 

「さて、ごちそーさま!」

 いつも以上に『元気』を装って、すっくと立ち上がる。

 お腹がいっぱいになったせいで、またもや眠気に囚われるが、そんな甘ったれたことを言っている場合ではない。

「それじゃ、ヴィンセント、行ってくるから。今日はそんなに遅くならないと思うよ」

「そうか……ん…… では、どうか気をつけて、クラウド」

「はいはい! じゃね、ヴィンセント。見送りはいいよ」

 そう言いながら、背伸びをしてチュッとヴィンセントの頬にキスをした。

 「行って参ります」のセレモニーだ。

「いってらっしゃい、兄さん、気をつけて」

「では……クラウド…… 気をつけて……早く帰ってきてくれ」

「うん! 行ってきます!」

 ザクザクと足音も勇敢に、居間を退出する。

 

 ……だが、部屋を出る瞬間、あくびをしていたセフィと、パッと目が合ってしまった。

「…………」

 セフィロスは何も言わない。

 そりゃそーだろう。あくびの最中だったんだから。

 でも、俺は何か言うべきだった。ごく普通に目線が合っただけだったんだから。

 ヴィンセントたちへと同じように、「行ってきます」でもいいし、「あくびしてんじゃねーよ」でもいい。

 とにかく何でもいいから、「いつもどおり」のことをしたかったのに。

 でも、何故か何も口にすることはできなくて、そのまま黙って廊下を抜け、玄関まで来てしまった。

 

 見送りはいいと言ったのに、ヴィンセントだけはちゃんと玄関まで来てくれる。

 俺の服を直し、あらためてやわらかな微笑みを浮かべ、「いってらっしゃい」と繰り返してくれた。

 もちろん、俺だって、居間でしたのと同じ事をくり返し……ええと、だから、「行ってきます」と告げ、もう一度、ヴィンセントにキスをした。この時は他にギャラリーがいなかったので、唇に。

 これだけでも、すごくいい気分ででかけられるはずなのに。

 いつもなら、鼻歌が出ちゃうような気分になれるのに……

 

 俺は釈然としない気分でバイクにまたがった。

 雲一つ無い青空が、なんだか恨めしく感じてしまう。

 

 ……神羅の頃の夢は、ここ最近見ていなかったから……

 だからめずらしくて少し気になっているだけだろう。

 おまけに、セフィロスと……Hするなんて…… 妙に生々しい自分の喘ぎ声や、セフィの腕の感触……

 もっと言うのなら、あそこを開かれ、侵入してくる熱のかたまりの感覚まで、まざまざと脳裏に焼き付いていて……

「うー、ヤダヤダ!」

 俺はぶるぶると頭を振った。

 今、俺は最愛の人と一緒に生活しているのに……あんな夢を見てしまうなんて!

 いや、別に夢なんだから……ホントにしたワケじゃないんだから、気にすることないのかもしれないけど……

 きっと、夜、昔の日記帳を読んでいたからだ。

 あれにはホントに色々なことを書いていたし……その中でも、やっぱりセフィロスのことは特別だったから……彼の名はたくさん出てきた。

 

「ゴメンね!ヴィンセント! 夢ですからね!ホント」

 だれも聞いていないのを確認し、口に出して最愛の恋人にあやまる。

 バイクに飛び乗り、目一杯アクセルを踏むと、真っ青な海の方向へ飛び出した。

 頬で風を切り、まわりの景色が吹っ飛ぶように流れてゆくと、徐々にいつもと変わらぬ気分になってくことができた……