〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 その夜、昼間のエロ本&ゴキブリの一件が気になって、晩ご飯のときなど、チラチラとヴィンセントを盗み見したが、彼はいつもの居ずまいとまったく変わらず、終始やわらかで曖昧な笑みを浮かべ、皆の面倒を見ていた。

 ほっこりとお風呂で温まって、部屋に戻る。

 ドアを開けると、綺麗にメイクされたベッドが視界に飛び込む。

 いつもなら、部屋に入ってすぐ、足元にでも散らかっているTシャツかなんかを、着込んでそのまま眠ればよいのだが、いかんせん、床には何も落ちていない。

 夜だとちょっと冷たく感じるフローリングは、隅々まできっちりと雑巾掛けをしたおかげで、鏡みたいに光っている。

「いやー、不便ですなァ、パジャマを出しにいかないとねェ〜」

 誰も聞いている心配はないので、声に出してそういうと、ベッド下の引出からパジャマを取り出した。Tシャツじゃなくてパジャマだ。

 整理整頓された部屋は、自分の部屋だというのに、妙によそよそしいカンジがするんだ。

 なんというか……こう、他人行儀な。

「ちょっとくらい散らかっていたほうが、こう……親しみが持てると思うんですけどね〜」

 ブツブツと言えるはずのない文句を口にすると、俺はゴロリとベッドに転がった。あの後、ヴィンセントが枕カバーからシーツまで変えてくれたので、新しい布地の感触が心地よかった。

 窓に向けて設置してある、木製のデスクは、その気になれば勉強や調べモノさえできるほど綺麗に整理されている。

 その上に鎮座している本が一冊……

 深い緑色のカバーのついた日記帳。

 そう、昼間、読みかけてそのままになってしまった、過去の日記だ。

 さっきは、ヤズーとセフィに邪魔されたけど、この時間なら誰も入っては来ないだろう。

あのとき、慌てて放りだして飛び起きたから、どこまで読んだのページがわからなくなってしまった。

 ええと確か……

 

 俺はそいつをふたたび手に取ると、ゴソゴソとベッドにもぐりこんだ。なにも机に座って姿勢を正して読むものでもないし、ベッドならそのまま眠ってしまえるから都合がよいのだ。

「どこまで読んだんだっけ……」

 ページのあちこちに、油染みや粉のようなモノ(たぶん、スナック菓子とかの残骸だと思う)がくっついているのが、当時を思い出させ、よけいに懐かしくなってくる。

 その本が、10センチのゴキにトドメを刺したという事実は、さっきしっかりとウエットティッシュでもって拭い去ったつもりだ。

 

「ええと……ああ、ここ。ヤバ、ページ折り曲がっちゃった」

 俺は厚い日記帳の未だ大分前の方のページを丁寧に手繰り、折れ目の入ってしまった薄い紙を丁寧に糺した。

「2×××年 5月……」

 癖のあるやや右上がりの丸っこい文字を辿ってゆく……

     

 

 

     

 

 

「……フィ? セフィ……? セフィロス?」

 おれは、となりで眠る、背の高い人に声を掛けた。

 

 彼の名前は『セフィロス』。

 おれと同じ神羅の社員で……でも、立場は全然違くて。

 『セフィロス』は全世界に名の知れた、ソルジャークラス1stの軍人。VIP待遇のトップソルジャーだ。いや、大げさな話ではなく。

 それに引き替え、おれはまだ見習いの修習生。早く一緒に任務につきたいと願っているけど、そんな日は当分やって来そうにない。

 

「セフィロス……?」

 おれはもう一度彼の名を呼んだ。

 あ、そうだ。ええと……その、おれが彼のVIPルームで、一緒にキングサイズのベッドの中にいるのかという問題は……あの……まぁ、そういうことでそれ以上突っ込まないで欲しい。

 どうして、何もかも持っている彼が、おれみたいなつまらない子供を相手にしてくれているのか……というのは、付き合い始めた頃からずっと感じていたことなんだけど。

 なんだか怖くて面と向かって訊いたことはなかった。

 

「ん…… クラ……ウド……?」

 氷の張った冷たい湖のような双眸が、ゆっくりと光を帯びる。切れ長の瞳は睫毛がすごく長くて綺麗なのだ。

「……ああ、先に起きていたのか……」

 彼は長く息を吐くと、徐々に深い眠りから覚醒しつつあるようであった。

 セフィは疲れているんだ。昨日の夜遅く、任務から戻ってきたばかりなのだから。それにも関わらず、こうして……ええと……その、おれと一緒に寝室にいるわけだ。

 大抵、こうして夜を過ごした翌朝は、セフィのほうが早く目覚めてしまう。

 もともとおれはネボスケだったし、それにセフィは体力……すごいから。っていうか、その……精力も。

「なんだ……シャワーも浴びたのか……?」

 彼の長い指が、しめった髪をそっと梳いた。セフィロスの手はとっても大きくて……ただ大きいだけじゃなくて、男らしく骨が張っている。でも、指がすごく長いから、ゴツゴツした印象はなく、本当に綺麗でカッコイイ。

「……洗ってやろうと思ったのに」

 作った不満げな声音でつぶやき、彼の長い腕がおれを抱き込む。

 セフィロスより、ずっと小柄なおれは、すっぽりとふところにおさまってしまうのだ。

「……おはよう、セフィ。お疲れさま」

「ふふふ、そっちこそ、だろう?」

 おれの髪の中に、鼻先を埋めて、悪戯っぽくセフィロスがささやいた。

「ち、ちがうよ、そういう意味じゃなくて。昨日、任務から帰って来たんだから……疲れてるんじゃないかなって……」

 エッチな勘違いを慌てて糺すと、それがまた彼の琴線に触れたようで低い笑い声が、耳朶をくすぐった。そのままの体勢で顔を上げ、彼はおれの唇に『おはよう』のキスをしてくれた。

「……おはよう、クラウド」

「お、おはよ、セフィ」

 おれの方からも、チュッと返す。

 朝のセレモニーを終え、身体を起こそうとしたが彼の長い腕に阻まれてしまった。

「セフィ、もう、よしてよ……朝なんだから」

「……まだ早い……」

「もう、八時。朝ご飯、食べなきゃ」

「……おまえを喰ってからな」

 低い声で、耳元でささやかれると、そんなつもりなどこれっぽっちもなかったのに、瞬く間にゾクゾクと身体が反応する。

「セフィってば。……昨日の夜帰ってきたばかりだろ。どっか、怪我とかしてない?」

「何を言ってる…… ちゃんと見ただろが?」

 昨夜の行為を暗喩されて、頬がカッと熱くなった。

「そんなの……わかんないよ。部屋暗いし……そのときは夢中だもん」

 おずおずとそう応えると、体重を掛けないよう覆い被さっていたセフィロスがクスッと笑った。

 すると、何だか自分の口にした言葉が、ひどく卑猥なような気がしてきて、ますます恥ずかしくなってくる。

「ん……クラウド……」

 チュッ……と耳元に、音のするキスをされ、身体の奥がズクンと疼く。

 おれは男なのに……ううん、自分の性癖が異常だとか、そういうことを言いたいんじゃない。

 すでに15才になったおれは、世の中にはいろいろな価値観を持つ人たちが居ることを知っている。

 愛し合っていても、結婚という形を取らない人たち、健康でも子供を持たないと決めているカップル、生涯独身がいいと公言している友人、男とも女ともデキるし、可能なら両方と結婚したいなどと言っている先輩も居る。

 だったら、自分と同じ男の人を、本気で愛して、ずっと一緒に居たいと……そう願っている、おれのような人間が居てもおかしいことはないと思いたい。

 エッチ……だって、ちゃんと感じるし、女の子とするよりキモチイイ。最初は痛かったし、怖かったけど、たぶん、慣れの問題だと思うけど。

 おれは男はセフィしか知らないけど、きっとセフィロスはすごく上手なんだろうと思う。

 すごくモテるから、相手に不自由はしていなかっただろう。

 当然、男も女も……

 いやいや、ダメだ。それを考えると、いつも落ち込んじゃうんだ。

 いつかおれも、その中のひとりとして忘れられてしまうのではないかとか、過去の人たちがそうだったように、誰かにセフィロスを盗られてしまうのではないか……とか。

「どうした……何を考えている……?」

 首筋をついばむような口づけをしながら、彼が低く問いかけてきた。きっとおれは考えていることがすぐに顔に出てしまうのだろう。側に居るセフィロスにバレてしまうのもあたりまえだった。

「……セフィのことだよ。決まってるだろ」

 ウソではない。

 そう、おれの頭の中はいつだって、セフィのことでいっぱいなんだよ?

「ふふ……」

「やッ……くすぐったいったら」

 セフィの長い髪が、素肌の上を滑ってゆく。

 首筋や耳朶を弄ぶ、彼の舌の感覚に、おれの頼りない下半身はすぐに反応してしまった。

「せっかくシャワー、浴びたのに……」

「……後でもう一度……一緒に入ろう」

 そんなこんなで、結局朝っぱらから、美味しくいただかれてしまって、おれたちがようやく休日の活動を始めたのは、すでに時計の短針が10時を回ってからであった……