〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「ちょっと……何してんの、兄さんッ!」

 開口一番、ヤズーのヤツが、柳眉というに似つかわしい細い眉を、きりきりと吊り上げて怒鳴り散らしてきた。

 

 いや、あの……無理もないんだけどね。わかってるんだけどね、俺的には。

 あれから小一時間は経とうというのに、部屋の中はいっこうに整理されてはいないのだ。

 当然である。

 あの後、ついつい手にした昔の日記を読み続けてしまったのだから。

 きっとヤズーの目には、なにもせずに、空いてたベッドに転がって本を読んでました……といった風情に見えたのだろう。

 ……まさしくその通りだ!!

「う、うわっ! セフィ、ヤズー!」

 いきなり現実に戻されて、俺は大慌てで跳ね起きた。

 怒ったヤズーは、セフィロス顔負けに怖いのだ。

「全然進んでないじゃない! 今まで一体何してたんだよ!」

「い、いや、悪ィ…… あの、やろうとは思ってたんだけど」

「ああ、もぅもぅ! ちょっとちょっとちょっとォ〜! 兄さんもさっき見たでしょ!? あの黒々とした巨大なゴキ…… あー、ヤダ! 口に出すのも汚らわしいッ!」

 畳みかけるように叫ぶヤズー。よっぽどゴキブリのヤツが苦手らしい。もちろん、俺だって大嫌いだけど。

「ありゃ、南国仕様だったのか? ずいぶんデカイ、ゴキブリだったな」

 神経を逆撫でするセフィロスの言葉。

「わざわざ言わないでよ、セフィロス! そう、そいつが出現したんだよッ!? ここが片づかなきゃ、やつらの侵攻はますます……」

「やだなー、ヤズー、大げさだよ〜」

 言った後に、『しまった!』と思った。

 こういうのんびりとした無責任な発言が、ヤズーの神経を逆撫でしてしまうのだろう。 彼は、この俺でも信じられないと思うほど図太いところがあるけど、身の回りのことや、生活空間については神経質なほど几帳面で清潔好きなのである。

「大げさだって!? 何言ってるの!?」

 叱りつけられ、ヒャッと背筋を伸ばす。

「兄さんだって、ああいう虫の類は苦手なくせに!ネロの事件で地下に潜ったとき泣いてたじゃないッ」

「思い出させるなよ〜。わかってるってば、つい……」

「ついってねぇ、兄さんッ!」

「わかったわかった、今、やります、今ッ!」

 あたふたと本をデスクに戻し、慌てて雑誌の整理に取りかかる。

「ヴィンセント、居間で心配して待ってるよ」

 ヤズーが言った。

「心配して待ってんなら手伝ってくれても……」

「それじゃ、兄さんのためにならないでしょ!? 本当に人の気持ちの分からない人だね!」

「ちぇ〜……」

 まったく、どっちが『兄さん』だかわかりゃしない。

 どうやら俺は、末っ子気質なのだそうだ。子供のころ、セフィロスにそう言われたのを覚えている。

 神羅に入社したときも、兄貴分のザックスに守られ甘えてきたと言われれば認めざるを得ないし、セフィとそういう付き合いになってからは、皆の前ではきちんとしていたつもりだったが、ふたりで居るときは、すごく頼っていた。

 ……言い訳させてもらえるなら、セフィが、俺がそうやって甘えることを望み、悦んでくれたからだ。

 あー、なんだか頭がクラクラする。横になっていたのに、急に飛び起きたからだろうか。

 

 

 

 

 

 

「仕方ないなァ、じゃあ、俺が手伝うから。急いで済ませよう」

「ウソ!サンキュ、ヤズー!」

「言っておくけど、今回だけだからね、こうやって手伝うのは。次からはこんな事態になる前に、自分できちんと整理整頓するように!」

 きっぱりとそう告げてくれてから、ニヤニヤと成り行きを見守っているセフィロスを振り返った。

「……というわけでセフィロス、ヴィンセントによろしく言っておいてよ。さ、兄さん、夕食の仕度の時間までには目処をつけよう」

「オッケー……って、無理じゃね?」

「やる前からそういうことを言わないのッ!」

 そう言い放つと、ヤズーは持ち前のバイタリティで仕事に取り組みだした。

「とりあえず、服と本を分けて、いらないものは捨てよう。服は分別して、洗濯機のところへ持っていって!」

「はーい、はいはい」

「『はい』は一回ッ!」

「はいッ!」

 ふてくされて大声を出した俺を、セフィロスがいつもの呆れた眼差しで斜見した。

 セフィの部屋なんか、いっつもヴィンセントが綺麗にしてやってるのに!! そりゃ確かに、セフィロスは散らかしたりはしないけど、脱いだ服は脱ぎっぱなしだし、花瓶の水、自分で取り替えたことも無いし……

 どーせ、俺の部屋には花なんざ飾れませんよ、コノヤロー。

「あー、えーと……本、本…… うん、雑誌はまとめてゴミ出しだね、兄さん、ビニールひも取って」

「オッケー」

「っとォ、その前に」

 ひょいとセフィロスの長い腕が、俺の束ねていた雑誌を横取りした。

「なんだよ、セフィ」

「暇つぶしに、もらっておく」

「セフィ! ちょっ……アンタ!!」

 なんと、野郎は『SMス●イパー・特集号』数冊を、ざっくりとガメていきやがった!!

 そりゃ、捨てるつもりで束ねてたわけですからね? 別にいいんですよ、欲しけりゃ欲しいで。

 でも、ヴィンセントの居る前では一言も言わないで、俺のことバカにして、ちょっとズルイんじゃない!?

「あー、それじゃあ、俺もなんかもらっちゃおうかなァ。ねぇ、兄さん、人妻モノとかない? あ、この辺、好み〜」

 ヤズーまでもが、エロ本をキープしやがった。しかも人妻モノかよ、コルアァァァ!

「うーん、団地妻シリーズね、これももらいかな〜」

「なんだ、イロケムシ。おまえ、年増好みだったのか?」

「え〜、そういうわけじゃないんだけどさァ、なんか人のモノって萌えるじゃない? さ、じゃあ、兄さん、続きやろっかァ」

 そこで俺はプチッと切れた。

「ちょっとォォォ! アンタらァァァ!!」

「何してるんだよ、ビニールひも取ってって言ったでしょ」

 こっちを見もせずに面倒くさそうに言うヤズー。

「ビニールひもじゃねーだろッ! なんだよ、アンタら! ヴィンセントの居る前じゃ、エロ本なんて興味もないってツラして、俺のことバカにしやがって〜ッ!」

「別にバカにしてないでしょ。整理もせずにクローゼットに突っ込んでたのが悪いってだけで」

「セ、セフィ、俺のこと『十代のガキか!』とか言ったじゃん!」

「そりゃ、そのくらいの連中しか読まなさそうなレベルのヤツがあったからだろーが」

 といけしゃあしゃあと!!

 許せんッ!!

「アンタら、ちょっとズルくない!? ヴィンセントの前で清廉ケッパクぶってない!?」

「何の話よ、兄さん」

「オレがあの間抜けの前で清廉ぶっても意味ねーだろ」

「ある!! ふたりともヴィンセントに好かれたいんだっ! いい男だって思われたいんだッ! そんでヴィンセントの現・恋人の俺のポジションを……」

 尚も言いつのる俺に、セフィロスが冷ややかに割り込んだ。

「アホか。わざわざそんな手回しのいいことをしなくとも、誰が見てもクソガキのおまえより、オレのほうがずっといい男だろ」

「やだなぁ、兄さん、誤解だよォ。さっきはあんまりヒドイ状況で、しかも、ほら、ゴキ……とか出ちゃったからねェ」

「ふたりともっ! ちゃんと聞いてよッ! いい!? ヴィンセントの前では俺、いいカッコしときたいの! ヤらしいところとか見せたくないんだよ!! もっと、俺の立場わかってよッ!」

「あー、うるせーうるせー、ヒステリックなガキだなァ。オレは部屋へ行く」

 相手をしていられないというような素振りで、踵を返すと、セフィロスはさっさと部屋を出ていってしまった。

 誰よりもアンタに一番注意して欲しいことなんだけどね!!

「もう、兄さんとヴィンセントは恋人同士なんでしょ? 今さら格好つける必要なんてないじゃない」

「でもッ……」

「あー、もう時間がもったいない。さー、早く終わらせよう」

 日常会話は終わり、というように、未だ激昂する俺を曖昧にいなし、ヤズーは放置されていたビニールひもを取り上げた。

 しっかり、『人妻シリーズ』は別によけておいて、だ。

「もう、なんだかなァ! セフィももっと俺の気持ち考えてくれればいいのに!」

 この場所にいない彼に鬱屈をぶつけると、致し方なしに、俺も片付け作業に戻ったのであった……