LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<33>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「あの、マジすいまっせん。ジェネシスさん的には、いつまでここに居られるつもりでしょーか?」

 金髪アホチョコボが、慇懃無礼にベッドのジェネシスに声をかける。ご丁寧にほうきに手ぬぐいを縛り付けたいでだちでだ。

 あの日から今日が三日目。

 オレ様の目から見ても、ジェネシスの銃傷はかなりひどいものであったが、そこはそれ。元ソルジャークラス1stだけのことはあり、快復力にはめざましいものがあった。

 

「そうだなァ、あまり迷惑かけるのも申し訳ないし、そろそろ……」

 心にも無いセリフをのんびりと言うジェネシス。だが間髪入れずに着替えを運んできたヴィンセントに遮られる。

「クラウド! つまらないことを訊くものではない。完治するまでに決まっているだろう? 彼は我々の友人なのだから」

「いや〜、あのですねェ、戸主といたしましてはね、コレ。経費もかかるわけですよ、アナタ」

「経費だなんて……そんなさもしいことをいうものではない。困ったときは互いに助け合うのが友としての在るべき姿ではないか」

 ヴィンセントにしてはやや強気で正論を述べた。

 『友』と呼べる人間ができたのが嬉しくて仕方がないらしい。もっとも、その『友』本人は恋人志願らしいが。

「それにジェネシスは私をかばって負傷したのだぞ。当然、私には彼の面倒を見る義務がある」

「まぁ、そりゃねェ。ヴィンセントをかばってくれたことについては感謝してるけどさ〜。友達とか言われてもね〜」

「クラウド!」

「まぁまぁ、兄さんもヴィンセントも。山田医師も言っていたけど、もうしばらくは無理でしょ。まだ抜糸も済ませていないんだし」

 割って入ったのはイロケムシだ。

「さぁさぁ、ああ兄さん、暇なら干し物手伝ってよ」

「いや、あのね、ヤズー、俺は戸主としてさぁ〜」

「そうよね。戸主としては、大事なヴィンセントを守ってくれた人には礼を尽くさなきゃね」

 いけしゃあしゃあと言ってのけるイロケムシ・ヤズー。

 察しのいいコイツのことだ。オレ様が気づいている程度のことは読んでいるだろう。だが、あくまでもジェネシスをヴィンセントの命の恩人という立場で通していた。

「早く、兄さん。今日はカダたちが配達に行ってるんだから、家のことを手伝って頂戴」

「ちぇっ、ハイハイ」

「あ、そうそう。ヴィンセント、さっき山田先生から電話があって、ジェネシスの薬作っておいたって。後で買い物に出るとき、受け取りに行こう」

「あ、ああ、いや、今すぐ行ってくる」

「どうせ、青物市場にも行くんでしょ。車出すから、必要なものを書き出しておいてよ。帰りがけに病院に寄ればいいじゃない」

「そ、そうだな。食料品も要るし……わかった。そうしよう」

「ヤズ〜、干し物って、これ全部〜?」

「そうだよ、頼んだからね!」

 手際よく……というかほとんど軍隊式に家事を割り振ると、イロケムシは『ジェネシスをよろしくね』と素っ気なくオレ様に言い残し、部屋を出て行った。

 

 あの野郎は、ヴィンセントと弟に対してだけは甘っちょろいが、クラウドとオレ様には当たりがキツイ悪魔のようなヤツだ。

「おいおい、セフィロス。そりゃあんまりじゃないのか。ヤズーはとても親切だと思うが」

「なんだ聞いてたのかテメェは。相変わらず鼻の効く野郎だ」

 チッと舌打ちすると、ジェネシスのヤツは苦笑しつつ言い返してきた。

 少し、真面目な口調で。

「今回、『鼻の効くヤツ』はおまえのほうだろう」

 色目使いで……いや、流し目調なのは生まれつきか。そんなまなざしで、じっとオレを見つめてきた。

「フン」

「セフィロス……」

「なんだ、言いたいことがあるならさっさといえ」

「ふふ。じゃあ、単刀直入に。おまえは……最初から気づいていたんだろう?」

「別に。ハナから疑ってかかっていたわけではない」

「…………」

「……だが、おまえの細胞劣化は神羅にいた頃目の当たりにしたからな。正直、生きているとは思えなかった」

「ああ、そうだよな。……本当ならば死んでいた」

 ジェネシスは自由になるほうの腕を軽く持ち上げ、手を広げて見せた。そう……その部分も、かつては鉛色に変色し朽ちかけていたのだ。

「……彼らに助けられた」

「らしいな」

「G計画とやららしい。ふざけているな」

 まったく可笑しくもなさそうにジェネシスは笑った。見たこともないような、疲れた笑いだった。

「ヴァイスもネロも被害者だ」

 オレがそう言ってやると、ジェネシスは

「そうだな」

 と低く同意を示した。

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、セフィロス」

 わずかな間隙の後、ふたたびジェネシスは口を開いた。

 サンルームから見える中庭では、アホチョコボがぶつぶつ文句をいいながら、乱暴に洗濯物を干している。

「なんだ?」

「おまえはいつからここへ?」

「……コスタ・デル・ソルへという意味か? それともこの家へということか?」

「両方だ」

「……ふん。一年にはなっていないか。半年くらいかな」

 無視してもよかったのだが、一応オレは答えを口にした。ジェネシスの話を耳にした以上、自分のことを敢えて隠し立てするのもフェアじゃないと感じたからだ。

「……なぜだ? セフィロス」

「…………」

「俺はずっと眠りについていたが、メテオ事件の話は聞いている。どうして、この場所にとどまる?」

 低くジェネシスがつぶやいた。クラウドに聞こえはしなかろうが、それなりに注意を払ってのことなのかも知れない。

「……あえて言うのならば、機が熟していないからだ。どうせ、その時を待つのなら退屈しない場所のほうがいい」

「ああ、そうか。おまえはチョコボの恋人だったね」

「昔、な」

 短い単語で返して、オレは氷の入ったグラスを取り上げた。ヴィンセントがジェネシスに持ってきた緑茶だ。

 変態詩人相手なら、本当は酒でも煽りたいところだったが、怪我人の寝床に酒瓶がおいてあるはずもなかった。

 

「……現在は? セフィロス」

「何がだ?」

「チョコボはヴィンセントにくっついているみたいだね」

「だから何だ?」

「おまえの今の想い人だよ」

 切れ長の双眸が、じっとオレを見つめた。

「……ケッ。くだらん」

「…………」

「今はそれどころじゃない。そんな話は目的を果たしてからだな」

「……そうかい。おまえらしいな」

 そういうと、ジェネシスは笑った。さっきのような微笑じゃなかった。

 昔の……神羅時代によく見た、なつかしい笑い顔だった。

「おまえの約束の地か……どんなところだろう」

 軽く伸びをし、腕の痛みに顔をしかめるジェネシス。さすがにベッドに横になってばかりでは身体も鈍るのだろう。

「せっかくだから俺も行ってみたいかなァ」

「アホか。てめェなんざ連れていかん」

「フフ、じゃあ、誰を連れて行くんだ? セフィロス」

「……思念体連中と……後はオレ様の気に入りだけだ」

 そう答えたところで、玄関口が騒がしくなった。