LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「おっかえり〜、ヴィンセント! あ、荷物持つよ」

「俺に『お帰り』のキスは?兄さん。買い物袋重いんだけど」

「ヴィンセント優先」

「ク、クラウド、私の荷物は軽いから……」

「あ、そう。せっかく兄さんの好きなケーキ買ってきたのに。可愛くないねェ」

「ごめんごめんってば。あ、ケーキの箱、俺、持つ」

「クラウド、ジェネシスの具合はどうだろうか? 薬をもらってきたのだが……」

「知んない。見に行ってないもん」

「ク、クラウド……どうしてそんな……」

「まぁまぁ、ヴィンセント。さっきセフィロスが一緒に居たから、ふたりで昔話でもしてんじゃない?」

「そ、そうか……具合がよいのならばそれでいいんだが……」

 

「あーあー、一挙に騒々しくなったな」

 俺はにぎやかになった玄関方面を眺めつつ、ため息混じりにそう言った。

「ははは。それにしてもヤズーはすごいな。なんでもお見通しって感じだ」

「あいつは敵に回すと厄介だぞ。後二人のギンパツは単純なクソガキだがな」

 そういいながら、部屋を出ようとしたオレを、ジェネシスが呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

「……セフィロス」

「あん?」

「……ありがとう」

「なんだ、そりゃ。気持ち悪ィ」

 胸元を押さえるジェスチャー付きで、オレ様はそう応じた。

「ああいった形でネロたちと決着をつけさせてくれて。……おまえならわかっていたはずだ。最初は本当にあの人を……ヴァイスのために、ヴィンセントを連れて行くつもりだった」

 独り言のように、ジェネシスはつぶやいた。

 こいつは『懺悔』だ。

 ヴィンセントには言えない……絶対に言うことは出来ない、ジェネシスの『懺悔』だ。

「地下室の女神と再会して……変わらず自分の心があの人に在ることに気づいた。だがすべてはもう遅すぎるのだと……そう思っていた」

「バカじゃねーのか? テメェで勝手にそう考え込んでいただけだろ」

 オレは鼻で笑ってそう言ってやった。

「フフ、相変わらず言葉が悪いな、セフィロス。……そう、おまえは昔からそうだったよな。意にそぐわないことは絶対にしない…… どんな不利な状況でも、何一つ犠牲にする道を選ばない男だった」

「当然だろ。オレは最強の戦士だ」

「ああ、本当にな。おまえにはかなわないよ」

「今頃気づいたか、ボケナスが」

 そう言い放つと、ヤツはまた傷を庇いつつ笑った。

「……そう。おまえは最初から気づいていたんだ。それなのに、手を出そうとはしなかった。ヴィンセントの動向に気を配りつつも、俺に剣を向けはしなかった」

「…………」

「……もし、初めからそうされたら、俺は女神を傷つけ、おまえたちを敵に回し、ネロやヴァイスを巻き込んでこの場所をメチャクチャに壊していただろう」

 少しやせた長い指が、髪を静かにかき上げる。考え事をしているときのジェネシスのくせだ。

「……さぁな、どうだっただろうな」

「今、こうしていられるのは、おまえのおかげだ。逢えて……良かったよ」

「そいつはヴィンセントにでも言ってやれ」

「もちろん、女神にも。……そして親友のおまえにもだ、セフィロス」

「あー、ウゼー。さっきから気色悪ィんだよ!」

 叩き付けるように怒鳴りつけ、今度こそ出て行こうとしたオレは、退室まぎわに、ヤツに注意を促した。

「……おい、ジェネシス。言っておくが、ネロの野郎がこのまま大人しく引きこもっているかどうかはわからんのだからな。テメェもヘラヘラしてねェで、さっさと傷を治して敵襲に備えておけよ!」

「アハハハ。わかっているよ。……できれば、ネロもヴァイスも救ってやれればいいんだけどね」

「オシャカさまじゃねーんだぞ。そんなセリフはスラム街のボランティアででも言ってやれ!」

 

 ガチャッ!

 と、イキオイ任せに扉を開くと、そこには飲み物と薬の盆を携えたヴィンセント。その後ろに付き人のように着替えを携えたクラウドが突っ立っていた。

 

「ちょっと、セフィ。危ないじゃん! ヴィンセントにぶつかるところだったでしょ!」

「ク、クラウド! あ、す、すまない、セフィロス。話し中に邪魔をしてしまって……あの……彼に薬を……」

 相変わらずオドオドと、上目使いに謝罪するヴィンセント。

「ああ? 別に話なんざしてねェ。さっさと入れ」

 適当に受け答え、ヴィンセントの表情を読み取るが、先ほどの話を聞いたふうではなかった。

 オレはそのままドアを開け放ち、ヴィンセントとクラウドを通した。

 その後を、予備の包帯を抱えたヤズーが追いかけてくる。なんとなく流れにまかせ、オレは出口に一番近い椅子に座り直した。

 

 

 

 

 ヴィンセントをさらうつもりでやってきたジェネシスを、当の本人とこの家の連中が看病している。

 ……思えばおかしな情景だ。

 

「ジェネシス、昼食は何が食べたい? いろいろ買ってきたから、何でも言ってくれれば……」

「ああ、君の作ったものならいくらでも入りそうだよ、女神。ただこの腕だけが自由にならなくてね」

「あ、それはもちろん、私が食べさせて……」

「ああ、そう。そんじゃめんどくさいから、ピザとかでよくね、ヴィンセント?」

「クラウド! どうしておまえはそう……!」

「あー、はいはい。お昼の算段の前に包帯代えようね〜、ジェネシス」

「すまないね、ヤズー。動かさなければ、もうほとんど痛みはないんだが……」

「あっ、そう。そんならもう家に帰ってもいいんじゃね?」

「悪いねぇ、金髪チョコボ。まだまだ食事どころか、これじゃあ、ソロ活動もできないよ。溜まっちゃってね〜」

「あっはっはっ! 元気だなぁ、ジェネシス。ま、若いモンねェ」

「エロイんだよ、アンタは! ぬけぬけと!」

「ソロ活動? ああ、もし、仕事の手伝いなら、私が……」

「そう?女神に手伝ってもらえるんなら、あっという間に……」

「ジェネシス、死ねやァ!ゴルアァァァ!」

「あー、ほらほら、兄さん。怪我人の冗談に本気で殴りかからないでよ。あ、セフィロスぅ。悪いけど、兄さん連れ出して。邪魔になるから」

 イロケムシの包帯片手の訴えに、オレはやれやれと、アホチョコボをひっ担いで部屋を出た。

「セフィのバカーッ! なにジェネシスの味方してんだよーッ! 降ろせってば!」

「アホか。さっさと傷を治して、ヤツを追い出したいのはお互い様だろ」

 そう言ってやると、クラウドのアホガキは、一瞬黙り込み、妙に慎重な声でオレ様に、

「……よし、そんじゃ、紳士協定な、セフィ!」

 とか宣言してきやがった。担がれたままだ。

 やれやれ。

 相変わらず平和なチョコボ小僧が。

 

 ……今は、まぁ、ヴィンセントの、底抜けのお人好しに感謝しておけと……そういうことだ。 

 ジェネシスはオレに礼を言っていたが、ヴィンセントを守ったのはオレではない。

 ヴィンセント自身が、自分で自分を守ったのだ。底抜けの人の良さと誠実さで。

 命の恩人であり同胞でもあったネロを、ジェネシスがああいった形で裏切ったのも、ヴィンセントの力がそうさせたのだ。

 別にオレは何もしなかった。ただ事の成り行きを見ていただけだ。

 

 ジェネシス……か。

 この家にやってきてから、ひとつひとつ、オレに関わる因縁がほどけてゆく。

 ……宝条のこと……

 ……死んだ生みの母親……確かルクレツィアとかいう名だった、女科学者のこと……

 そして、かつての同僚……G計画とやらの犠牲者、ジェネシス。

 

 オレが行くべき星を見つけられるのは、すべてが片付いてからなのかもしれない。見るべきものをすべて見尽くし、知るべき事実を知った後……いや、正確にはそれを乗り越えた後……

 そのときこそ、オレは、自らが生きていくべき『約束の地』を見つけられるのかも知れない。

 

「……なんだよ、セフィ。何黙り込んでるの?」

 耳の近くでクラウドの声がした。そういえば、こいつを担ぎ上げたままだった。

 ハッと現実に戻る。

 クラウド……もうひとつのオレの運命。かつて愛した心の拠り所。

「フン、別に。おまえ、ちっとは重くなったな」

 そういいながら、オレは傍らのソファに、少しだけ大きくなった身体を放り出した。 

 

終わり