LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<32>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

「さて先生。俺が手伝いますから。……セフィロス、彼の服脱がすの手伝ってよ」

 手を洗い、一応消毒薬で滅菌してから声を掛けた。

「チッ、めんどくせェな。シャツははさみで切っちまえ」

 と、セフィロス。

 したたり落ちた血で真っ赤に染まったシャツ。上着にまで滲み出しているのだから、麻のシャツは血で肌に張り付いたようになってしまっていた。

「あー、仕方ないねェ、コレ。……こいつは銃傷だねェ……二発か。貫通しているのが不幸中の幸い…… む?」

 ヤマダーの診察の邪魔にならないよう、湯で傷口をぬぐい患部を清拭する。

「なに?先生」

「ひとつ……残っておるね、コレ。骨のところで止まっている」

「うそ? ホント?」

「ふむ……一発はチミがいうように貫通しておるよ。じゃが、ひとつ残っとる。こいつは除去せんとね、コレ」

 物言いは素っ気ないが、医者らしく繊細な手つきで、山田医師は傷口を丁寧にしらべた。もちろんその間にも出血が止まらず、先生の手が紅く染まった。

「銃弾が……残っているんですか? か、彼の腕は?まさか動かなくなるなんてことは……」

 真っ青な面持ちで、椅子から立ち上がったのはヴィンセントだった。兄さんが慌てて彼を背後から支える。

 その時であった……

 

 

 

 

 

 

「う……ッ」

 という低いうめきが診察台の主からこぼれ落ちた。俺たちは弾かれたように、寝台の上の彼を見た。

「あ、あれ…… ここ……」

「ジェネシス! ジェネシス……!」

 ヴィンセントは今度こそ、兄さんの手を振り払ってジェネシスの枕元に走った。

「ここは……?」

 貧血状態から目覚めたのだ。頭がはっきりしなくても致し方ないだろう。

「ジェネシス、目が覚めたのだな。よかった……ずっと不安で……ああ、よかった」

「め、女神……? あれ……さっきまで夢の中で会っていたはずなのに、ずいぶん久しぶりに君の顔を見た気がしたよ」

「ジェネシス……」

「アホか、空気を読め、エセ詩人。怪我人はおとなしく寝ていろ」

 突っ慳貪なセフィロスのセリフに、ジェネシスが苦笑した。途中から痛みでつらそうな笑い声になったが。

「セフィロス、すまなかったね。……おまえにも……そして女神にもいろいろと懺悔をしなきゃならなそうだ」

「てめェに懺悔されても一文の得にもならんがな」

「セ、セフィロス……そんな言い方……」

「いいんだよ、女神。セフィロスなりに心配してくれているんだから」

「勝手なことを言うな! おい、ヤマダー!麻酔でも何でもぶち込んで、このアホ男をもう一度気絶させてやれ!」

 不快そうに怒鳴りつけるセフィロスに、山田医師が眉をひそめる。

「おいおい、チミ、セピロスくん。怪我人にはもうちっとやさしくね。あー、それではそこのチミ……」

「ジェネシスという。申し訳ない、手間を掛ける」

 ジェネシスは殊勝にも目礼した。セフィロスよりは良識を心得ているといえるだろう。

「そんじゃね、局部麻酔を打つからね、コレ。チミのかたっぽの腕にね、銃弾が残っているからね、ソレ」

「ああ、そうなのかァ。きっと骨のところで止まっちゃったんですね」

 ジェネシスののんきなセリフに、ヴィンセントが覆い被せるように言い聞かせた。

「大丈夫。きちんと摘出手術をすれば、元通りになるから。しばらくは不便でも必ず治るからな。安心して医師に任せればいい」

「ありがとう、女神。すまないが施術中は手を握っていてくれないか? 情けないけど少し怖いんだ」

「ケッ、よく言うぜ」

 鼻で笑うセフィロス。

 神羅のソルジャー時代からのつきあいの彼だ。きっとこの程度で「怖い」などと抜かすキャラではないことを知っているだろう。敢えて、ヴィンセントに甘える素振りをしているのだ。

 そうすることで、ヴィンセントには「役割」ができ、ただ見ているだけよりも、遙かに気持ちが楽になるはずだから。

 

「セ、セフィロス、そんな物言いはないだろう? 君の大切な友人ではないか」

「かつて同僚だったが友人だったことはない」

 フンと顔を背けるセフィロスを、適当にいなして、ヴィンセントは望み通りジェネシスの手を取った。

「ジェネシス、すぐに済むから……私がずっとこうしているから安心してくれ」

 ぎゅっと両手で彼の手を包み込み、やさしくささやきかけるのであった。

「ごめんよ、ヴィンセント。甘えてしまって」

「何を……そんなこと。好きなだけ甘えてくれればいい。終わるまで側に付いているから」

「おい、ちょっ…… ジェネシス、アンタね〜。ヴィンセントは俺の……」

 兄さんが苦言を呈すが、あっさりと当のヴィンセントに遮られてしまった。

「クラウド、意地の悪いことを言わないでくれ。彼は私の命の恩人なのだから」

 母性本能(?)爆裂中のヴィンセントに、兄さんなどが敵いっこなかった。

「あー、では、いいかね〜。始めますよ、チミたち」

 山田医師の指示で、俺は煮沸消毒した注射器を彼に手渡した。

 

 ……結果、手術は至極順調に行われ、無事終了したのであった。