LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<31>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜……チッ、相変わらず、ウゼー連中! 俺的にはさっさと決着をつけたかったけどね。恨みいっぱいあるし。ヴィンセントのこと傷つけるし!」

 ぐいと額の汗をぬぐって兄さんがつぶやいた。よくよく考えてみると、ヴァイスと相対していたクラウド兄さんが、最も緊張を強いられたのかも知れない。

「まぁまぁ、兄さん。場所が悪いよ。丘のすぐ下は民家だからね」

「ふん、わかってるけどさ」

「さ、みんな、ぼやぼやしている暇はないよ! 兄さん、ふもとに車回して! セフィロス、一緒にジェネシスを運ぼう!」

 危機を脱した俺たちは、すぐさま次のすべきことへ動き出した。

「さ、ヴィンセント。もう大丈夫だから。後は任せて」

「ヤ、ヤズー……」

「すぐに医者に診せよう。彼はセフィロスと同じトップソルジャーだった人なんだから。すぐによくなるさ」

「あ、ああ、そ、そうだな……そうだな……」

 不安げにジェネシスを見守るヴィンセント。しばらく後、俺たちの背後からセフィロスの声が飛んできた。

「おい、車が来たようだ。あーあ、無茶しやがって」 

 セフィロスが呆れ顔で言うと、我が家の乗用車がガリガリと騒々しい音を立てて、無理やり丘をはい上がってきたところだった。

 兄さんは車から降りて、後部座席のドアを開けてくれた。

「よし、セフィロス、彼を運ぼう。そっちから支えてあげて」

「チッ、ったくめんどくせーな」

「あ……あの……セフィロス……わ、私が手伝うから」

 オドオドとヴィンセントが言うが、セフィロスはさもくだらないというように悪態をついた。

「いいからおまえは退いてろ。こいつはけっこう重いんだ」

「セフィロス……」

「いくぞ、イロケムシ」

 俺とセフィロスはタイミングを合わせて彼の肩を支えた。

 上着の袖を引きちぎって、応急処置の包帯にしておいたが、やはりそれでは追いつかないのだろう。

 俺たちが彼の身体を持ち上げると、縛り付けた左腕から新しい血が滲んできてしまった。

「さ、みんな早く乗って!」

 兄さんと協力してジェネシスを後部座席に押し込み、身体を揺らさないよう、俺とヴィンセントが両隣について支えた。

 運転席にはセフィロス、助手席に兄さん。後部座席はやや狭かったが三人乗りだ。

「おい、出すぞ。揺れるからな!」

 セフィロスがグゥンとアクセルを踏むと、キィィィと耳障りな音を立てて車は一挙に丘を駆け下りた。

 

 

 

 

 

 

「またチミたちかねェ〜、コレ」

 山田医師は相変わらず、やせこけた不機嫌ヅラで無愛想に俺たちを睨め付けた。

「仕方ねーだろ。さっさと治せ、コノヤロウ」

「ちょっとォ、セフィロス。あなたねェ〜」

 俺は肘で彼をつついて非礼を糾したが、謝るような男ではない。そんなやりとりを横目に、ヴィンセントが山田医師をかき口説いた。

「先生ッ、怪我人なんです!私を庇ってくれて…… 出血がひどいんです。もし万一のことがあったら……」

「ゴルアァァ! ヴィンセント泣かせるな、ヤマダー!」

「兄さんってば。ちょっとうるさいよ。先生、すみませんけど、診てもらえません? 一応止血はしたんですけど、止まらないんですよ。ほらァ、以前もうちの怪我人を診てくださったでしょう? 大事な友人だし、やっぱり腕のいい先生に任せたいですからねェ」

「むぅぅぅ。致し方がないねェ、コレ。あ、別に気をよくしたとかそーゆーんじゃないからね、ソレ。さ、とりあえず車からその人を運んできて頂戴ナ。診察台を準備しておくからね、コレ」

 なんとか口説き落とせたヤマダーの指示に従い、俺たちはジェネシスをヤマダーの病院へ運び込んだ。すでに診療時間は過ぎているとみて、すっかり明かりも消えていたし、ただ一人の看護婦さんもいなかった。

「あー、もう道具全部しまっちゃったんだよなァ、コレ。出すのめんどくさいわ、アレ」

「先生、私が手伝いますから」

 ここぞとばかりにヴィンセントが言う。だが、彼の手も服も、ジェネシスの出血で血まみれ……顔色は卒倒しそうに青白い。

「いやー、アレ、これね、ヴィンセントくん。チミ、そっちで手ェ洗ってらっしゃい。今にも倒れてしまいそうな顔色をしてるよ、チミ」

「で、でも……」

「いいから、ここはヤズーたちに任せておこうよ。俺、洗うの手伝ってやるから」

 ぐいぐいと兄さんがヴィンセントを手洗い場へ連れて行った。

 さすが腐っても病院といったところで、手洗い石けんだけでなく、消毒スプレーなども揃っていた。

 兄さんがヴィンセントに寄り添うようにして、彼の手からジェネシスの血を洗い流してやっていた。