LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

 ……それにしても、めずらしいことだ……と思った。

 いや、ヴィンセントのことなのだが。

 彼はほとんどうわさ話などをしない人で、いつもなら、仮にジェネシスに水を向けられても、曖昧に微笑んで場を収めるだろうに。

 むしろ、ヴィンセントのほうから、積極的にクラウド兄さんとセフィロスの昔話を聞き出そうとしているように見える。

 ……特に、セフィロスの、だ。何か気になることでもあるのかと、様子を窺ってみても、わずかに頬を昂揚させて興味深げに聞いているだけ……つまりジェネシスの昔話を楽しんでいるということだ。

「やれやれ女神。ずいぶんとセフィロスが気になるようだね。チョコボのことは仕方がないけど、なんだかちょっと妬けるなァ」

「え? あ、いや……そんなことは……た、ただ、セフィロスと親しく話ができるようになったのは、ごく最近だし…… じ、事情があって、それ以前は、敵対していたような関係だったから……」

「君とセフィロスがかい?」

「い、いや……私が、というわけではないが、少なくともセフィロスから見れば、私だとて鬱陶しい敵として認識されていたと思う。だ、だが、彼はとても聡明で心優しい人だから…… い、今の家に来てくれてからは、とても親切に応対してくれて……」

(誰が親切だって? もう何の話ってカンジ)

(……まぁ、こればかりはちょっと兄さんと同感かな……)

(オメーらは人を見る目がないだけだ。ボケ)

 

「あ、で、でも、今はセフィロスには素敵な恋人がいるようだから…… 私が焼ける世話など、もうないのだろうが…… 私の気持ちに配慮してくれて、あの家に居続けてくれているんだ。本当に……感謝している」

「ん〜……なんだか激しい認識のずれを感じるけど…… あのさ、ヴィンセント」

「……? なんだろうか?」

「君にとってセフィロスってどんな存在なんだろう? ああ、失敬。ぶしつけな質問だとは思うけど、君の物言いを聞いているとつい気になってしまってね」

 ああ、さすがに明敏なジェネシスだ。

 やはり俺と同じ疑問を感じ取ったわけだ。今、彼が口にしたのとそっくり同じ問いかけを数ヶ月前、ヴィンセント本人にした。

 

 

 

 

 

 

「どんな存在……? ええと……それはもちろん大切な家人で……私にとってはかけがえのない……」

 ヴィンセントは一生懸命言葉を手繰るが要領を得ない。ジェネシスが欲しいのはそういった通り一遍の回答ではないだろう。

「えーとね、じゃあ、質問の仕方を変えよう。君はもしなれるとしたら、セフィロスの何になりたい? ああ、もちろん彼に言ったりはしないよ。君の答えにちょっと興味があってね」

「そ、それは……その……あの……」

 しばし言い淀み、その後、ポッと頬を紅く染めた。思わず、俺と兄さんは伸び上がるようにして彼の顔を凝視してしまった。

「ええと、ジェネシス……わ、笑わないだろうか……?」

「え? もちろんだよ」

「あ、あの、私は……」

 もともとすんなり言葉が出る人ではない。だが、ひどく動揺して言い淀む姿に、セフィロスも加わり、俺たち三人は引き込まれるように彼の言葉に注意を向けた。

「私は…… セフィロスの……その……」

「セフィロスの?」

「セフィロスの……あの……」

 その言葉を口にするのがひどく緊張するのか、はたまた恥ずかしいのか……ヴィンセントは手にしていたフォークをそっと皿に落ち着けると、思い切ったように口を開いた。

「私が……もしセフィロスの父親だったとしたら……! 彼が私の息子だったら……!」

「は……?」

 あっけにとられたようなジェネシスの声ともいえぬ『声音』。

「彼が……私の子供だったら……! ああ、どれほど心躍る日々を過ごしたことだろうか? 彼の成長を間近で見守って…… そうミルクをあげたり、だっこして寝かしつけたり…… 一緒に散歩をするときは、手をそっと引いてあげて……」 

 そこまで言うと、ヴィンセントはたまらなくなったように、胸元を片手でそっと押さえた。

「ああ、失敬…… つい熱が入ってしまって…… 胸がドキドキしている」

「あ、ああ」

「……? あの、ど、どうかしただろうか、ジェネシス? 何か……」

「え、あ、ああ、いや、さすがにちょっと……驚いてしまった」

 毒気を抜かれたようなジェネシスの言葉に、ついつい俺は吹き出しそうになってしまった。兄さんも死にそうな顔で笑いをこらえている。

 しかしまぁ……言うに事欠いて『息子』とは。

 傍らのセフィロスの顔を盗み見ると、2tの分銅を頭から落とされたような面持ちで沈んでいる。さすがのセフィロスも『息子』発言はショックだったのだろう。

 『恋人』とは言えなかろうが……せめてもうちょっと……

「あのさ、セフィロス……大丈夫?」

「……うるせェ、黙ってろ、イロケムシ」

「あ、ちょっと、ふたりとも!」

 鋭く兄さんに声を掛けられ、俺たちは注意を戻した。

 

 背後で席を立つ気配がする。

 ヴィンセントたちは食事を終えたようだ。

 俺たちは、彼らに気づかれないよう、間をおいて静かに立ち上がった。

 セフィロスの面持ちが、ここに向かっていたときと同様に、厳しい表情に戻っていた。先ほどの落ち込み顔でなくなっていたのが、なんとなく気になった。

「これから絵ェ見に行くとか言ってたよな?」

「そうだよ。絵画展。庭園美術館のほうだね」

 俺はセフィロスと兄さんを促した。たぶん、三人の中でこの場所に一番くわしいのは俺だったろうから。

「……よし。おまえら一緒にヴィンセントの後を追え」

「え? セフィロスはどうするのさ」

「クソデカイ男が三人並んで歩いてみろ。さっきのカフェみたいに仕切りがある場所じゃねーんだぞ」

 目線だけは、ヴィンセントたちを追い続けながら、セフィロスは早口にそう言った。

「確かにそうかもね。じゃ、とりあえず別行動?」

「ああ」

 返事をするのももどかしげに、短い言葉を返すセフィロス。

 ……なんだろう?

 なんだかひどく気が急いている様子だけど……

「わかった。なにかあったら携帯に連絡する。……行こう、兄さん」

 俺は先回りするような物言いで話を締めくくった。さっそくセフィロスは足早に遠ざかってゆく。……そっちは庭園じゃないんだけどな。他に何か気になることでも……?

 ああ、いや、そのあたりのことはすべてセフィロスに任せて、とりあえず俺たちはヴィンセントを見張っていなきゃ。

 ……いやな言い方だけどね。

「兄さん、ほら行くよ」

「ヴィンセント…… ヴィンセント……」

「ちょっ? 聞いてるの、兄さん!?」

「もう、なんだよ! この後、絵画展行って? まさか晩飯まで……」

「あー、もういいからいいから。さ、行くよ!」

 なんだかまったく使えないお荷物状態の兄さんを引き連れて、俺は庭園美術館のほうへまっすぐ向かった。

 ……もちろん、彼らに気づかれないように。