LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「やーれやれ。なんだか初デートってタイトルが付きそうなワンシーンだったねェ」

 居間の小窓から外を覗いていた俺は、ようやくそいつを閉め、セフィロスのほうに向き直った。

 するとセフィロスは、さきほどとは打って代わった厳しい表情で外出の準備をしていた。

「おい、イロケムシ。仕度しろ。車のキーを出しておけ」

「え? 何なの?」

 唐突に告げられて、らしくもない意味を持たない言葉を返してしまった。

「尾行する。……一応銃も持っていけ」

「え……ちょっ……ちょっと待ってよ! いくらなんでもそれはまずいでしょう? プライバシーの侵害だし、それに……」

「その程度のことで済みゃいいんだがな。……銃は念のためだ。早くしろ」

 いったいなんだというのだ?だが、彼の様子を見れば、尋常の出来事でないのは一目瞭然だ。説明を求めたいが、どうやらその時間も意志もないらしい。

 セフィロスは、自ら「話す」と決めたこと以外は、完全に無視してくれる。そういう厄介な輩だ。

 だが、彼の重苦しい表情は、間違いなくコトの重大さを示唆していた。ただ単に、興味本位やジェネシスへの嫉妬などではないのだ。

 ……きっと理由がある。

 なにかを感じ取っているのだ。

 ……そして嫌なことほど、カンが良く当たるのだと本人が言っていた。

 

 ……そういえば、ここ数日、セフィロスの様子がおかしかった。いや『おかしい』というほどあからさまではなかったが、どことなくいつもと違う様子だった。

 たぶん、兄さんやカダたちは気付いていないだろう。人の内面にばかり探りを入れてしまう、俺のようなキャラクターだからこそ気付いたのだとも言える。

 それほどまでにセフィロスは用心深かったし、平静を保つ努力をしていたのだ。

「……わかったよ。理由聞いても教えてくれなさそうだし、ま、俺もヴィンセントのデートには興味あるしね」

「早くしろ」

「ハイハイ。いつでも出られるよ」

 武器の手入れは戦士の身だしなみ……じゃないけど、俺のベルベットナイトメアは気むずかし屋で、いつでも手入れをしてやらないと具合が悪くなる。

 ここのところあまり出番の無かった『彼女』を部屋から引っぱり出し、使うことがなければいいと思った。

 ……おかしなものだ。

 この家の人間たちと出逢う前は『使うのが当たり前』だったのに。

 

 

 

 

 

 

 先んじて運転席に座るセフィロス。

 俺も助手席に腰を下ろす。無言のまま、彼は車を発進させた。

「……尾行って、どうするつもり? 絵画展に行くっていうのはわかっているわけだけど、そのまま直行するのかどうかはわからないよ?」

 前を見たままセフィロスに声を掛けた。何かしゃべってきたほうが気詰まりではなかった。

「こいつを見ろ」

 いつものカーナビに見たことのないマークが浮き出ている。眉を顰めた俺に、

「ヴィンセントに発信器をつけた。こいつを追っていけば見失うことはない」

「あっきれた〜。さっき服直してあげたとき?」

「まぁな。あいつは自分の身の回りのことには案外鈍感だからな。……無駄なことで済めばいいが……」

「ずいぶん大げさな物言いだね。気がかりがあるなら話して欲しいんだけど」

 聞いても無駄だとは思いつつも、そんなふうに水を向けた。だが、セフィロスは、

「……いや、オレの気にし過ぎかもしれない。そうであればいいのだが…… 口に出しちまうと、本当にそうなりそうで嫌な気分になる。……言霊ってェのはあるらしくてな」

 と、低く答えた。

 『言霊』なんて、古めかしい単語が、となりに座る男の口からこぼれ落ちるのが何ともアンバランスで…… ひどく珍妙な気分になった。

「……ふむ。どうやら、まっすぐセントラル美術館へ向かっているな」

 ハンドルを切りながら、セフィロスがつぶやいた。

「でも、あそこってオープンレストランやアミューズメントエリアとかも併設されているじゃない? ショッピングエリアなんて人混みがすごいし」

「ジェネシスのことだ。あのヴィンセント相手に、ごちゃごちゃした人波をかいくぐろうなんざ考えもしないだろう」

「あー、まぁね。聡明な人みたいだもんね」

「あいつはタラシの天才だからな。ヴィンセントにぴったりのシチュエーションを組むなんざ、朝飯前だろう。……おい、スピードあげるぞ」

 湾岸通りに出るなり、セフィロスは一気にアクセルを踏んだ。