LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<21>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 あっという間に……そうまさしくあっと言う間に、ノースエリアの目的地に到着した。

 繁華街から奥に入った場所は、それなりに人通りはあるが、『人混みで具合が悪くなる』というほどではない。

 

「着いたよ、セフィロス。車フツーに駐車場に停めておくの?」

「ああ、別にかまわんだろう。出しやすい場所がいいな。おい、ジェネシスの車はあるか?」

「えー、けっこう混んでるからなァ……あ、あったあった。あの車目立つからね」

 俺はわりと奥まった位置に駐車してあるスポーツカーを指さした。きっと、施設から車までヴィンセントを歩かせないようにという配慮だろう。

 昼下がりのコスタ・デル・ソルは本当に暑いのだ。

「おい、グズグズするな。行くぞ、イロケムシ」

「あ、ちょっと待ってよ」

 さっさと歩き出すセフィロスの後を追う。携帯を眺めながらということは、きっとそいつで、ヴィンセントの所在がわかるように細工してあるのだろう。

 駐車場近くの石畳を早足で移動し、庭園に向かう。

 ここは一般の公園と博物館の庭園が地続きになっているのだが、モラルある住民たちのおかげで、どちらも等しく美しく清潔に整えられている。

 庭園の逆向こうには美術館。そしてこちら側はオープンカフェに続く道だ。奥の方にはもっとかしこまったレストランなどがある。

 携帯を眺めているセフィロスに声を掛けた。

「セフィロス、ヴィンセントたち、最初はお食事みたいだね。こっちはカフェやレストランのあるエリアだよ」

「……くそ、カフェはけっこう空いているな。気づかれずに入れればいいんだが……」

 ブツブツとつぶやくセフィロス。

「そこのオープンカフェ?」

「ああ、そうらしい。この日差しだ。おもての席ではないだろうが、中庭にも席がある。なるべく側の席がいいが……気づかれては元も子もなくなる」

「……女友達、働いているけど?」

 小難しい顔つきのセフィロスにそう言ってやった。

 セフィロスには何か考えがあるのだろう。ここは極力彼に協力するのが吉だと踏んだからだ。

 知り合いがここでウェイトレスをしている。その偶然も俺たちに味方しているようだった。

「よし! 腐ってもイロケムシだな。その女に話をつけてこい」

「ハイハイ。彼らの姿が確認できて、且つ向こうからは見えない二人席ね」

「察しがいいのと、ツラだけは貴様のとりえだな」

 憎まれ口を聞くセフィロスには取り合わず、善は急げとオープンカフェに赴く。

 だが、腕をグッと掴まれ、反射的に後ずさりしてしまった。

「ヤズ〜……三人席〜」

 ゾンビのうめき声のように訴えたのは、いったい何時から張っていたんだ!?と聞きたくなるようほど、汗びっしょりの兄さんだった……

 

 

 

 

 

 

「ゲッ……」

 とセフィロス。思わず俺も

「うッ……」

 と息を詰めてしまった。

「こんのアホチョコボがァ!てめェ、こんなところで何してやがる!」

 呆れ果て、声のひっくり返ったセフィロスが、兄さんを頭から叱りつける。

「セフィたちこそ、どういうつもりだよ!? ヴィンセントの後、追っかけてきたの? まさか、カダたちまで居るんじゃないだろうな!」

「い、いや、兄さん、落ち着いて……」

 宥めようとしたところ、セフィロスがブチリと切れて、苛立ちをぶつけた。

「アホか! ガキ共は朝から遊びに出掛けてるだろ! それよりテメーは仕事じゃなかったのか、コラ! 午後の分の配達だってあんだろ、貧乏人!」

「うっさい!居候のくせにエラソーな言い方すんな! 配達はちゃんと済ませたもん。フル回転で午後の分も全部午前に回ったの!」

 ……まぁ、田舎町コスタ・デル・ソルの配達便は、店舗配送以外の時間指定は受け付けていないのだが。

「……兄さんが気にするのもわかるけど……でも、何もそこまでして……」

「ヤズーやセフィだって気になってんでしょ!? だから着いてきたんでしょ!? だいたいね、俺、ジェネシス信用してないから。ヴィンセントに変なことしようとするかもしれないじゃん!」

「いや……俺たちはそういうんじゃなくて……」

 気付かれないようセフィロスの様子を窺うが、やはり彼は黙したまま仏頂面をしているだけだ。

「ええと……違うんだよ。俺がノースエリアに用事があっただけ。セフィロスは暇だってんで付き合って一緒に来てくれたんだよ」

「じゃあ、なんでヴィンセントの後を……」

「だから、そうじゃないってば。あー、その、たまたま美術館の側を通ったからさ。ふたりが楽しそうにしてるかな〜って……そう、ただの好奇心」

 言い訳としてはかなり苦しいが、単純な兄さんは一応言葉通りに受け取ってくれたらしい。

「あっそ。あんまし楽しそうにされてたら、俺的には超気になるわけだけどね」

「もう、兄さん。この前も言ったでしょ。ヴィンセントにだって友だちは必要なんだよ」

「友だちならかまいませんよ、コレ。友だちならね。あ、ヴィンセント、信頼してないっていうんじゃないから。でも、ジェネシスのほうは油断ならないよね。『女神』とか言っちゃってるわけだから」

 ツンと顎を持ち上げて口答えする兄さん。まぁ、確かにジェネシスがヴィンセントにご執心なのは、第三者でもわかるところなのだが。

「ここでグダグダもめるな。イロケムシ、さっさと話をつけてこい!」

 そうセフィロスに急かされて、俺はとりあえず三人分の『盗聴席』を確保するために走った。