LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 ……なにか話さなくちゃ。

 

 洒落た車の助手席で、私は一生懸命愚考をこらしていた。

 大荷物を抱えたまま、トボトボと歩いていた私を、ジェネシスが拾ってくれたのだ。青物市場から我が家までは遠くはないが、それなりの距離はある。

 夜ならばともかく、この時刻だとまだまだ暑い。南国コスタ・デル・ソルならではの気候で、太陽が出ている時刻と夜間では、寒暖の差が激しいのだ。

 セフィロスは車を呼ぶか、家の者に迎えに来させろと言っていたが、たかが食料品の買い物に、それより値の張るタクシーなんぞ使う気にはなれなかったし、ましてや家の者を煩わせることなどできはしなかった。

 

「どうしたの、難しい顔をして?」

 宥めるようなやさしい声で、私はハッと顔を上げた。まただ。また自らの思いの淵に沈み込んでいたらしい。

「あ、す、すまない。つ、つい……」

「いや、なんでもないならかまわないんだ。気にしないで。気分が悪いんじゃないかと心配になったんだよ」

 巧みに運転しながらも、そんな言葉で私を思いやってくれる。

 ……最初の時は……あんな形での出会いだったから……彼の人と為りを知る余裕もなかったのだが、彼はとても気持ちのやさしい青年らしい。

 人当たりがやわらかく、そして『大人』だ。

 うつけのように、荷物を抱えて、ひとりトボトボと道を歩いていた私に、もっと尋ねたいことはあるだろう。だが、もはやそれ以上は言葉を重ねなかった。

 きっと私は泣き出しそうな面持ちをしていたはずだから。私の気持ちを思いやってくれているのだ。

「ジェネシスさんは……」

「ジェネシスだってば、女神」

「あ、ああ、その、ジェ、ジェネシスは……やさしいのだな」

 我ながらなんという間抜けた発言なのだろうか。なにか話題をと考えてはいたけど、思ったことがそのまま口からこぼれ落ちてしまった。

「アハハハ。そうかい? 誰に対しても、それなりに気は遣うけど、でも君のことはまた特別だよ」

「え……あ……」

「でも、まだ君に『やさしい』と言わせるほどのことはしていないと思うけど?」

「だ、だが……今もこうして車で拾ってくれて……」

「君を『拾えるなら』、どこへでも駆けつけるさ」

 歯の浮くような甘いセリフに、優しい微笑み……

 こ、これは……もしかして、俗に言うところの、く、口説き文句なのだろうか……?

 あ、そ、そうか、彼は私を好きだと告げてくれたのだった。友情というよりも、クラウドが言うような意味合いで。

「あ、あの……ええと、その……」

「ん? なんだい、女神?」

 彼はひどく嬉しそうに、臨席の私を見た。この前のように『女神』と呼びかけて。

「あ、あの、ジェネシス。その……女神というのはちょっと…… 私は男性なのだし、いささか気恥ずかしく思う」

「そうかい? 君にはぴったりだと思うけど」

 いかにも心外そうな口調で語尾を上げるジェネシス。

「い、いや…… 女神とは……『神様』なのだし。私のような罪深い人間とは最も乖離した場所に生わす方だと思う」

「罪深い?君がかい? 青物市場で蟻んこでも踏みつぶしてしまったのかな?」

「……え……あ……あの……」

「いや、失敬。あまりジョークが得意な人ではなかったね。君が罪深い人なら、俺なんて生きている価値が無いどころじゃないよ。それこそ神様に罰せられて地獄に堕ちているところだ」

 そんなふうにいうと、彼は薄く微笑った。

 『苦笑する』というよりも、なんだか少し違うようで……わずかだが本当に『苦しそうに』見えたのだ。

「……ジェネシス……?」

「ああ、ほら、もう君の家が見えてくるよ。短いドライブだったなぁ」

 また、彼は笑った。今度はごく普通に。