LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 

「あー、ヴィンセントだーッ!」

 大声を上げたのは、一番末の子供、カダージュであった。

 裏道から表にまわったので、中庭の前を通過したのだ。干し物を取り込んでいたヤズーを手伝っていたらしい。

 ジェネシスは『どうぞ』というように、私の側の扉を自ら開いてくれた。

「あ、に、荷物……」

「ああ、先に降りて。今、とってあげるから」

「あ、ああ。あ、ありがとう」

 オドオドと私は礼を言った。ジェネシスのいうとおり、あっという間に家に着いてしまった。驚いたことに、私は少しがっかりしていた。本当にまっすぐ家に送られたことに。

 ……もうしばらく、彼の車に乗っていたかった、と。

 せっかく送ってくれたのに、このまま礼だけ告げて帰してしまうのはあまりにも……

 よければ……夕食くらい誘えれば……だが、迷惑だったら? い、いや、社交辞令だととられてもおかしくはないのだから、一言だけ訊ねてみようか?

 『よければ、夕食でも一緒に……』

 そう、このタイミングならば、ちっともおかしくはない。たまには私も勇気を出さなくては……

  

「ジェ、ジェネシス……あ、あの、こ、この後……」

 グズグズと誘いのかけ方に困惑していると、シャツの袖を戻しながら、ヤズーがこちらに歩いてきた。

「やぁ、ジェネシス、ごきげんよう。我が家のお姫様をどうも」

「幸運な偶然に感謝しているところさ。ヤズー」

 既知の中のように会話を交わすジェネシスとヤズー。このふたりはなんとなく似通っている。

 外見とかそういうことではなくて……人の気をそらさない、巧みな話術。それでいて相手の気持ちを思いやれるところ。それもただ呼吸をするのと同じように、ごく自然に。

 なんてうらやましい人たちなのだろうか!!

 

 

 

 

 

 

「……セント?」

「…………」

「ヴィンセント?」

「女神? どうかしたのかい?」

 ヤズーの呼びかけに、ジェネシスの声が重なって、私はふたたび正気づいた。どうも、青物市場から今までの出来事がめまぐるしくて、意識がなかなか付いてこない。

「え、あ、ああ、すまない惚けてしまって……」

「具合いが悪いんじゃないならいいんだけどさ。それより、なにかあったの、ヴィンセント?」

「……え……?」

「セフィロスと一緒に買い物じゃなかったの? ふたりで一緒に出て行ったじゃない?」

 打って変わって厳しい声音になるヤズー。だれにでも、やさしい人なのに、なぜかセフィロスにだけ当たりがキツイのだ。

「あ、ああ。あ、あの……お、置いて行かれてしまって……」

「なんだって!?」

 しまった!私としたことが、言葉を選ばずに、つい…… どうしても考え事をしていると、注意がおろそかになる。

「あ、ち、ちがうんだ、ヤズー。か、彼は悪くなくて……」

「悪くないって…… 悪いに決まってんでしょ!? だいたい、今日は俺が車で同行するって言ったのに、セフィロスがついていくって自分から言ったんじゃない!」

「え……あ……」

「どういうつもりだよ、あの人!こんな大荷物ヴィンセントひとりに持たせて!」

 いつの間にか運び出してきた食料品の大荷物を前に、ヤズーが厳しい声音で、セフィロスを非難した。

「あ、い、いや……あの……」

「まったく、あの人は!本当に自分勝手なんだから! たまたま上手くジェネシスが通りかかってくれたからよかったものの!」

「ヤ、ヤズー。そ、そんなに怒らないでくれ」

「そうだよ。綺麗な顔が台無しだよ」

 ひょいと顔をのぞかせて、おどけたようにジェネシスが言った。

「まぁね。どうもありがと!」

 ハン!と怒りの抜けきらないため息を吐くと、気を取り直して、ジェネシスに笑顔を向けるヤズー。

「……いや、それよりなによりヴィンセント送ってくれてありがとう、ジェネシス。時間があるなら上がって? 一緒に夕食をどう?」

 私が言いたくても言えなかったセリフを、ごく自然に口にするヤズー。

「……いいのかい?」

 と、ジェネシスは私の方を見た。慌てて私は頷いた。

「かまわないでしょ、ヴィンセント。食事担当は俺たちなんだから」

「も、も、もちろん。あ、あの、ジェネシス。私もそう言いたかったのだが、き、君が迷惑だったらと…… ヤ、ヤズーのように上手く誘えなくて……だから……」

「嬉しいよ、ありがとう」

 彼はそういうと、花が開くように笑った。

 セフィロスの幼なじみの彼は、本当に笑顔の素敵な人だった。