LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 コスタ・デル・ソルの青物市場。

 暖かな……いや、まだ暑いくらいの夕方の時間……濃い影を地面に刻み、ゆっくりと歩く。

 何かを気にする素振りのセフィロスに、なんとなく居心地の悪い気分で、私は過去の物思いにとらわれる。

 

 死にかけたこの身体をよみがえらせたのは、マッドサイエンティストの宝条だ。

 そう……悪魔のような試みを施すことによって。

 ああ、いや……そのことを嘆いているわけではない。そう、嘆きの時は、とうに過ぎ去ったのだ。もちろん、私がこの肉体を愛すべき対象とできるまでに、気持ちが変わったわけではない。

 未だに、忌むべき存在であり…… 他人に知られたくないと思っている。

 だが、今現在、生活を共にしている者たち……クラウドを始め、セフィロス、そして三人の兄弟たち、彼らのうち誰一人として、私を忌避したりはしなかった。

 セフィロスに至っては、命をかけた闘いの最終章まで、私と共にあることを選んでくれた。

 ……だから、私はこうして生きている。

 これらの事柄を経て、ほんの少し……そう、少しずつ、私は自らを許容できるようになってきていた。

 

「あ、あの…… セフィロス?」

 小さな声で呼びかける。いつも「もっとハッキリ口をきけ!」と叱られるが、なんだか大きな声で彼の名を呼ぶのは、不躾な気がするのだ。

「あ、あの……」

「…………」

「セフィロス?」

「ん……?あ、何だ?」

 周囲を見るともなしに眺めていたセフィロスが、再び私の呼びかけで目線を前に戻した。

「あ、あの……どうかしたのだろうか? 何か気になることが……?」

「……あ? いや……別に。ああ、そうだ、クラウドに頼まれただろ。万一おまえに面倒ごとがあると、クソガキに泣かれるからな」

 いつものように、彼は皮肉な笑みを浮かべたが、そのセリフはまるで、とってつけたかのようで……いや、なぜそう思うのかと問われても答えができないのだが、ふとそんな気がしたのだ。

「オラ、よそ見をするな。ちゃんと前を見て歩け。おまえは平らな道でもすっころぶ間抜け野郎なんだからな」

「あ……ああ。ええと……その……」

「なんだ。言いたいことがあるならさっさと言え」

「……あ、あの……せ、せっかく一緒に来てくれているのだから……そ、その…… は、話をしながら歩いてもいいだろうか……?」

 私は精一杯の勇気を総動員して、彼にそう申し出た。セフィロスはキョトンとした面持ちで、不思議な動物でも見るように私を眺めると、愉快そうに喉の奥で、クッと笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……あの……」

 弁解の言葉を探している私に、セフィロスはさも愉快そうに声を掛けた。

「そうだな、そうしよう。人慣れしない黒猫も、半年も居りゃァ、なついてくるか」

「え、え、く、黒猫……?」

「いや、なんでもない。おまえから言い出したことだ。さっさと話題を提供しろ」

 セフィロスらしい物言いに、今更とまどう私……そう、話をしたいと言ったのは私なのだが、心ここにあらずのようなセフィロスの様子が気になっただけなので、具体的にどうこうというつもりはなかった。

 彼と二人で出歩くときは、たいていセフィロスのほうから話を振ってきてくれるから……口べたな私も、それなりに受け答えが出来ていたのだが。

「何を困ったツラしてやがる」

 人の悪い微笑でからかうセフィロス。私よりもずっと年下の青年なのだが、とてもそんな風には感じられない。……子供の頃からかしこい少年ではあったのだが。

「え……ええと……その……な、ならば、ジェネシスさんのことを!」

「ああん?」 

 あからさまに眉間にしわを寄せるセフィロス。不快に思われてしまったのだろうか?

「あ、い、いや、そんなつもりではなくて…… ただ彼は君と同期のソルジャークラス1stと聞いたから…… クラウドには水を向けにくいし」

「クラス1stは言ってもな、オレのほうが強いからな」

 子供のような物言いに、私は頬がゆるむのを感じた。

「あ、ああ、も、もちろん。それはよくわかっている。君より強い人などいないだろう。……だ、だが、昔の君の友人に興味があるだけなのだ……」

 セフィロスの存在を中心に、話を促してみる。すると、ようやくひそめられた眉が解かれ、フンと鼻を鳴らすと口を開いてくれた。

「友人っつーか、ただの同僚だ。あいつはむかつく変態詩人だからな。オレと一緒にはするなよ」

「そ、それはもう……」

「まぁ、おまえが昔のオレに興味があるというのは悪い傾向ではない」

 ククッと、少し意地悪く笑うと、今度は私が口を挟む前に、言葉を続けた。