LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 ジェネシスという不思議な青年に出会ってから……私の買い物には護衛が付いてしまった。最初はクラウドの冗談かと思ったのだが、強力にそれを提案する彼は本気そのものであったのだ。

 あまりのくだらぬ発言に、即時異論を唱えたが、こういった類のことになると、クラウドは私の言葉を聞き入れようとしなくなる。

 同席していたセフィロスが、すぐさま反論してくれると思っていたのだが、しばらく黙ったままだった。いや、クラウドの言葉がどうのというよりも、話を聞いていなかったようだ。

 クラウドに、

『セフィも協力してよね!』

 と怒鳴りつけられて、何の話だという風に面倒くさそうに顔を上げたのだった。

 そしてクラウドの提案を聞いた後、意外にも、彼の口から出た言葉は、

『仕方ねェな』

 という素っ気ない一言であった。絶対にくだらないと笑い飛ばしてくれると思っていたのに。

 

 結局、仕事が休みの時は決まってクラウド、また平日にはヤズーやセフィロスがお供をしてくれることになった。

 まぁ、ヤズーは普段からよく一緒に買い出しに行く相手だから、互いに問題はないのだが…… あまり食事や家事に明るくないクラウドは、荷物運びをしてもらうくらいしか頼めることはないし、それだとて車で出掛けたときは無用になってしまう。

 むしろ、目に付いた食べ物をあっちこっち歩き回って持ってきてしまうから、かえって面倒なことになるのだ。

 

 ……そして、セフィロス。

 彼は、もう……なんといえばいいか…… いや、頼まれの身とはいえ、こんな私に付き添ってくれるのは本当にありがたいと感じる。クラウドのように、好き勝手にものを選ぶこともないし、いきなり走り出して見失うこともない。

 だが、どうにもこうにも、私の方が緊張してしまって…… 

 家では他にも家人が居るせいか、いつもと変わらぬ様子に感じられるのだが、ふたりきりになると、どうにもダメなのだ。もともとセフィロスはおしゃべりな人ではない。

 そんな彼と、不器用な私とでは、到底話が弾むはずがない。

 家の近くを無目的にブラブラと歩くような、いつもの散歩ならばよいのだが、「食料品の買い出しにセントラルへ赴く」といったパートナーとしては、非常に気疲れしてしまう。

 セフィロス自身も、そんな気持ちを抱く私に気付いているのだろう。

「ただでさえ、神経が細いくせに、いちいちオレに気を使うな」

 と言われるのだが…… 私が勝手にセフィロスを意識してしまうだけなので、彼に罪はないのだ。

 今日もわざわざ買い物に同行してくれている。しかも青物市場だから、炎天下を歩かなければならないし、暑がりの彼には煩わしかろう。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……セフィロス」

「…………」

「セフィロス……?」

「……ん、ああ、なんだ?」

 背後から低い声が返ってきた。私の後ろをゆっくりと歩いているのだ。

 いつもなら、ザクザクと前を歩いていって、鈍い私など小走りにならないとついていけないのに……

「あ……い、いや、すまない、考え事の邪魔をして……」

「別にそんなんじゃねェ」

 という無愛想な返事。

「あ、いや、あの、市場に着いたから……君はどこかの店で待っていてくれれば…… 買うものは決まっているから、そんなに時間はかからないし……」

「…………」

「セフィロス……?」

「いや、付いていく。……荷物が多くなるだろう」

 私のほうをまともに見ることもなく、心此処に在らずという面もちで彼は答えた。

「あ、ありが……とう」

「いちいち礼などいうな。ホレ、さっさとしろ」

「あ、ああ」

 ……どうしたのだろう、彼は。

 クラウドではないが、やはりジェネシスの存在を意識してのことなのだろうか?

 まさか……彼までも、私がジェネシスになにかされるのではないかと考えているのだろうか? クラウドならばともかく、セフィロスまでが……

 あのセフィロスが、私の身を案じてくれて……? あ、ああ、いや、ジェネシスがどうとかそういったことではなく…… とにかくセフィロスが……私のことを……?

 

「……おい、何をいきなり赤面してやがる?」

「え、あ?……あッ、い、いや、違うんだ、まさかそんな……」

「落ち着かねーか、ヴィンセント。挙動不審になってるぞ」

 フッと鼻で笑われて、さらに頬が上気していくのを感じた。

「あ、あ、いや、あの…… で、では、い、行こうか!」

 もはやまともに顔を合わせていられなくなり、私は目的の店に早足で歩き出した。ふりかえらずとも、セフィロスが後ろからついてきてくれているのがわかる。

 すれ違う女性たち……いや、男性でさえも、私の後ろの人に視線を寄越さずにはいられないから。

 セフィロスに気付かれぬよう、大きく息を吐く。同様と緊張をやわらげるため、考えごとをすることにした。

 

 そう……やはりジェネシスのことだ。

 クラウドは本当に物好きな子だと思っていたが…… 彼と同じ様な感情を私に抱く者が他にも居るとは……

 最初は人違いだと単純にそう思った。

 そうではなく、本当に私と認識した上での発言であり行為だとわかった後でも、トップソルジャーの戯れ言程度だと考えていたのに……

 本気で私を想い続けていたという、彼の言葉はもはや疑いようもない真実で…… この身が神羅屋敷の地下に安置されていた遙か昔に、私を見つけてくれたというのだ。

 しかも、言葉を掛け、目覚めさせようとしてくれた。残念ながら、私はまったく彼の存在に気付くことすらできなかったのだが……

 私は青物市場を歩きつつも、静かにおのれの思いの淵に沈んでいった。