LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 ヤズー
 

 

 

 

「ジェネシスがニブルへイムに行ったと言っていただろう? そのときに、神羅屋敷の地下室でおまえを見つけたと」

 セフィロスが、さきほどのジェネシスの話を確認した。

「あ、ああ……そう……らしいな」

「そのとき……ジェネシスとオレ……そしてザックスという2ndのソルジャーが一緒だったんだ」

「そ、そうだったのか……君も……ニブルヘイムに……」

「ああ。残念ながらオレは地下室へは足を運ばなかったが……チッ、まぁ、今更、そいつをグダグダ考えても始まらん」

「…………?」

 言葉の意味が理解できないらしいヴィンセントが、間が持てぬのか再び少し困惑した表情で首をかしげた。

「……おまえ、そのとき何もされなかったのか?」

「え……?」

「いや、だから……」

 めずらしくも言いよどむセフィロス。

「あ、あの……何を……?」

「おまえがその時、逢ったのは、ジェネシスだけだったのか?」

「え…… い、いや、それは……わからないのだが……」

「その後もたぶん、あいつは何度かおまえに会いにその場所へ行ったことだろう。……なにも記憶にないか?」

 一生懸命記憶を探ろうとしているのだろう。ヴィンセントは考え事をするときの無意識の仕草で、口元に指を当て物思いに沈む様子であった。

「ちょっと、セフィロス。いくらなんでも無茶でしょ。ヴィンセントはずっと眠らされていたって言うんだから」

 俺は新しいお茶を配り直しつつ、困り顔のヴィンセントをフォローした。

「だが、後にクラウドに目覚めさせられたわけだろう? 仮死状態じゃなかったのなら、強い刺激を受ければ気づくんじゃないのか?」

「そ、そう言われてしまうと……だが、本当にジェネシスのことは記憶にないのだ。なぜかクラウドに声を掛けられ、身を揺すられたときは目覚められたのだが……」

「そりゃもう、俺がヴィンセントの運命の相手だからだよ〜。神の思し召しっつーか、運命のなせる技っていうかァ〜」

 ヴィンセントのとなりの椅子に移動し、馴れ馴れしげに彼の肩口に頬を寄せる兄さん。本当に甘えっ子だ。

「ね〜ッ! ヴィンセント?」

「え……あ、ああ」

「アホチョコボは黙ってろ。それで、ヴィンセント。クラウドには声を掛けられ、身体を揺すられただけなんだな? それで目覚めたと……」

「あ……ああ、それは間違いない」

「そうか……」

「あ、な、ならば、ジェネシスは私に声を掛けてくれたらしいが、それだけだったのではないか? だから目を覚ますことができなかったのだと……」

「ありえねェ」

「ありえないよねェ」

 奇しくもセフィロス、俺の順番に同じセリフを口にする。

「え……あ、あの……ふたりとも?」

 戸惑い声のヴィンセント。

「だってさァ、あのジェネシスがだよ? あなたのことを『女神』って呼ぶ、ジェネシスがさ。声を掛けただけであきらめると思う?」

「……え……だ、だが……」

「死体じゃないってわかったなら、俺だって声掛けるだけであきらめたりはしないよ」

 俺は冷ややかにそう言ってやった。

「…………」

「相手はあのジェネシスの野郎だ。変態詩人がベタぼれしたおまえに何もせずに済ませたとは到底……まぁ、その程度のことならまだいいが……」

 セフィロスの低い声が、嫌な沈黙を呼び起こす。みるみる顔色が悪くなる兄さん。

 

 

 

 

 

 

「ちょ……ちょっと、セフィ! その程度って……何なんだよ、変なこと言い出さないでよ!」

「じゃあさ、兄さんだったらどうする? 声掛けただけであきらめるの?」

「そ、そりゃ……俺は……」

「でしょう? それはジェネシスだって同じだと思うよ? ううん、彼は一目惚れって言ってたくらいなんだから、兄さん以上に執着が……」

「ちょっ……ちょっと、セフィッ! アンタ、ジェネシスと一緒に神羅屋敷に行ったって言ってたよね? そのときのこと覚えてないの!? ジェネシスのヤツ、なんか言ってなかったの!?」

「クラウド……セフィロスに怒っても……」

「ヴィンセントは黙ってて!大事なことなんだから!」

「だ、だが……」

「ジェネシスとザックスとオレと……三人居たんだが……あのとき、地下に潜ったのはジェネシスだけだったな」

 苦々しげなセフィロスのセリフ。

「翌日はザックスと一緒に行ったらしいが、最初におまえを見つけたときは、野郎はひとりだったはずだ。……少なくとも、オレとザックスは一緒じゃなかった」

「この役立たず! エラソーなことばっか言って、肝心なときにヴィンセントの側にいないで!」

 ギーッ!と歯ぎしりして怒りを爆発させる兄さん。セフィロスへのひどい暴言に、ヴィンセントが腰を浮かせる。

「よ、よしなさい、クラウド!セフィロスは関係ないだろう? 別に、実害はなかったのだし、過去のことで彼を責めるなどお門違いだ……」

「実害がないってどうしてわかんの!? ヴィンセントが寝ているとき、変なことされたのかもよ!?」

「な、なにを言い出すのだ、おまえは…… ジェネシスは何も言っていなかったではないか? それにあの気持ちの悪い場所で、棺桶なんぞに入っていた私相手に……」

「ああん、もう!どうしてそう悠長なんだよ、アンタは! あんだけベタ惚れで『好き』って言われてるくせにすっとぼけたこと言ってないでよ!」

 今にも泣き出しそうな兄さんを、セフィロスが呆れ顔で見遣った。つくづく辟易とした面持ちで。

「……おまえはつくづくアホチョコボだな」

 セフィロスの物言いは、あまりにも煩わしげで、鬱陶しげで、脱力していた。

 俺は思わずセフィロスの顔をのぞき見た。そうとは悟られぬよう、感情をあからさまにしてはいないが、兄さんの心配事とセフィロスの心配事は、あきらかに異なっているのだと感じた。

 兄さんの心配と怒りは単純だ。大切な恋人であるヴィンセントに、ジェネシスが『変なこと』をしたんじゃないかという、くだらない焼き餅だ。

 

 だがセフィロスの憂慮は……?

 さっき、セフィロスは『その程度のことならいいが』と言っていたではないか。その程度のこと……でなければ何だというんだ? 彼はいったい何を心配しているのだろう。

 

 セフィロスが憂慮しているのは、兄さんが気にしているようなこと……そんなものじゃないのだ……たぶん。

 じゃあ、何なのだ?と訊ねられても、当事者でもなく、そのときは存在すらしなかった思念体の俺にはわかりゃしない。ただ、人より多少敏感な俺は気にせざるを得ない。

 ……そう、セフィロスの隠していることを。彼には何かヴィンセントのことで重要な気がかりがあるのだ。敢えてそれを口に出してはいない。

 ……おそらく、ヴィンセント本人への配慮で。

 

「あ、あの……セフィロス……?」

「ん……あ、ああ、いや、まァ、減るモンじゃねーしな。女じゃないんだから気にすんな」

「セ、セフィロス……ッ! き、き、君まで何をいきなりとんでもないことをッ!」

「あー、ハイハイ、泣くな、泣くな。いくらあの変態野郎でも、何の反応もないおまえに最後まではやんねーだろうよ」

「セ、セセセセセフィロス!!」

 さきほどまでとは異なる軽い調子で、そう言ってのけるセフィロス。案の定、ヴィンセントは真っ赤になって人事不省に陥ってしまう。

「セフィ、ヴィンセントにエロイこというな! あー、もう!やっぱ、ソルジャー1stってサイテー! ほら、ヴィンセント、あっち行こう!」

「え……あ……」

「うふふふ、そうね、顔、洗ってきたほうがいいよ、ヴィンセント」

 俺がそう言ってやると、ヴィンセントは火照った頬を押さえつつ、兄さんに付き添われながら居間を出て行った。

 ヴィンセントが姿を消すと、セフィロスは深い息を吐き出した。本当に深い深い吐息をついたのだ……