LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 ヤズー
 

 

 

 

「キーッ! もうあったま来る!なんだっつーんだよ、あの人は!」

 ストレスを溜めまくっていた兄さんが早速爆発する。ソファの上に仁王立ちになって……まったく埃がたつって言っているのに。

「ク、クラウド……そんなに怒らなくても……」

 ヴィンセントが、きかん気の強い子供を宥めるように落ち着かせる。

「だって!もう!……だいたいアンタは被害者なんだぞ!? もっと怒れよ、ヴィンセント」

「そんな……」

 困惑したように首をかしげるヴィンセント。本当におっとりのんびりした人だ。

「あー、ほらほら兄さん。もう彼は帰ったんだからいいじゃない。ケーキ食べる?」

「もう、ヤズーも、のんきすぎッ! ヴィンセントのすぐ側に居たんだから気をつけてあげてよねッ! ……食べますッ!二個!」

「はいはい、どうぞ」

 やけくそのようにケーキをがっつく兄さんの横で、セフィロスが妙に神妙な面持ちをしていた。

「どうしたの、セフィロス? 貴方も食べる?」

「いや……ああ、茶だけおかわりをもらう」

 ヴィンセントがすぐに立ち上がろうとしたが、先回りして俺が動く。たぶん、セフィロスも兄さんもヴィンセントと話をしたいのだろうから。

 

「……ヴィンセント、さっきの話だが……」

 セフィロスにしては慎重な雰囲気で切り出す。

「あ、な、なんだろうか……?」

 オドオドとセフィロスを見つめるヴィンセント。白い頬が赤く染まる。ヴィンセントはセフィロスに話しかけられると、すぐに緊張してしまうのだ。

「ジェネシスが言っていただろう? 神羅屋敷の地下で……と」

「あ、ああ、そう……そうなんだ」

 ヴィンセントが頷く。

「ああ、いや、別に話せというわけでは……」

「い、いや、いいんだ。隠していたわけではないのだから。……彼の言ったとおり、私はあの場所の地下室で、眠りにつかされたらしい。あそこのすぐ側に宝条の実験室があったのだ」

「……ちょっと、セフィ!」

 口の周りを生クリームだらけにしながら、兄さんが低くセフィロスを止める。

 カダやロッズはともかく、今、家に居る者たちは、ヴィンセントの過去を大まかに知っている。

 それでもやはり、本人の口から語らせるのは気がとがめるのだろう。

「いや、かまわないんだ、クラウド。もう……昔のことなのだから」

 穏やかにそうつぶやいたヴィンセントを、兄さんが少し驚いたように見つめた。

「……ジェネシスの話だと、ずっと眠っていたと言っていたが……」

「ああ、そう……みたいだ」

「どうやって目覚めたんだ、おまえは?」

「よくぞ聞いてくれました!」

 ザシャッ!と音を立てて立ち上がったのは兄さんだ。片手に食べかけのケーキをのせたまま。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、クソガキ、鬱陶しい。ケーキを飲み込んでから話せ」

 クリームだらけの兄さんを一瞥すると、セフィロスはすぐにヴィンセントに注意を戻した。だが、兄さんはなおも胸を張って言い続けた。

「ちょっと、注目! 耳の穴かっぽじってよく聞け!」

「ク、クラウド……飲み込んでからにしなさい……」

「いいからッ! あのね、みんな! ヴィンセントを目覚めさせたのはこの俺なの! 神羅屋敷の地下でね、お姫様みたいに眠っていたヴィンセントを、俺が見つけたんだから! ねーッ! ヴィンセント!!」

「え……あ、ああ……」

「一生懸命金庫のパスワード探してさ〜。いったい何回神羅屋敷を歩き回ったことか」

「おまえひとりでじゃないだろ」

「ほとんど俺ががんばったんだもん。他のヤツ、役に立ってないもんね! ロストナンバー倒すのが大変だったから〜。手を貸してはもらったけど〜。でもおかげでヴィンセントに逢えたんだよ!」

「あ、ありがとう……」

 なぜかここで礼を述べるヴィンセントであった。

「でも、最初はすぐに一緒に行くって言ってくれなくてさ〜。なんて説得すればいいのかって、必死に考えたよ」

「あ〜あ〜、可哀想になァ、ヴィンセント。寝たふりでもしときゃよかったのによ」

 失礼な発言はセフィロスだ。

「ちょっとセフィ! よけいな口挟まないでよ! 今、過去の思い出を懐かしんでるんだから」

 兄さんは、ほぅ……とうっとりしたようなため息をつき、片手で新劇ばりに胸元を押さえて見せた。その仕草に、さらにヴィンセントが困惑したような面持ちになる。

「わ、私など……一緒に行っても邪魔になるだけかと思ったのだが……かえって迷惑かと……」

「んもぅ、何言ってんのぉ、ヴィンセント! そんなことあるわけないじゃん!」

 デレデレと相好を崩す兄さん。

「だから……最初は……ついていくのをやめようと思ったのだが……でも……」

 ヴィンセントが低い声で、一生懸命言葉をつづる。

「でも……君の名を聞いたから……」

「あん?」

 紅茶をがぶ飲みするセフィロスを、ちらりと盗み見るヴィンセント。

「『セフィロス』と……聞いたから……一緒に行けば、君に逢えるかもしれないと思って……」

「物好きねェ、ヴィンセント。どうしてそんなにもこの人のことを気にするかねェ?」

「黙っとけ、イロケムシ」

「ま、まぁ、それ、動機はどーでもいいんだよ。とにかくね、ヴィンセントは俺と一緒に来ることを選んでくれたの!」

 強引にまとめる兄さん。ヴィンセントのよけいな発言は黙殺したらしい。

「クラウド……」

「ま、それもこれも、今となってはいい思い出だよね〜、ヴィンセント!」

「あ、ああ、まぁ……」

 曖昧に頷くヴィンセントに、セフィロスが再び質問した。普段ならさらに突っ込んで、兄さんをさんざんからかう場面なのに、それより訊ね事のほうが優先らしい。

 ……なんとなく、セフィロスの様子がいつもと違うような……?

 俺の気のせいだろうか?