Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「おい、行くぞ、クラウド」

 と、セフィロス。

 彼は視線をモニター内に留めたまま、俺に声を掛けてきたのだ。

「え、な、何? どこへ?」

「アホか。決まってんだろ。となりだ」

 至極当然というように、セフィロスが言った。

「う、うそ! ちょっ……冗談でしょッ? い、今すぐ?」

「いいからオレの言うとおりにしろ」

「ええっ、でッ、でも、セフィ……」

「黙ってついてこい。おまえの出番があるはずだ」

「セ、セフィ?」

「あの娘はなかなか肝の据わった女だ。イロケムシのやり方に任せた方がすんなり行くだろうよ」

「……???」

 残念ながら、俺はセフィロスほど頭の回転が速くはない。

 セフィにはこれからの展開と、ヤズーのシナリオが頭に入っているのだろうが、俺にはまったくどうするつもりなのか見当もつかなかったのだ。

 だが、セフィロスはいつもの強引さで、戸惑う俺の腕をグイと引っ張りあげたのだった。

  

 よし……もうこうなったら……!

 どうせ、のぞき見してたのがバレるんなら、はっきり言ってる!

 ヴィンセントは俺の大切な人だと!誰にも渡さないと!

 ああ、でも、同性愛者ってことで、ヴィンセントが後ろ指つつかれるようなことがあったらどうしよう? 俺よりも遙かにヴィンセントのほうが、地元密着型の生活を送っている。

 ヤズーくらいしぶといヤツならどうってことはなかろうが、ヴィンセントとなると……

 ならば、やはり、ここはセフィに任せて、誤解されないよう立ち回った方が利口なのだろうか……

 そのほうがヴィンセントのためかも……

 でも、やっぱり……

 

 俺がうだうだと考えを巡らせている間にも、セフィロスは何の躊躇もなく隣室の扉に手をかけようとしていた。


 

 


 
 

 

 ……トントン

 

 軽いノックをした後、セフィロスはいらえがある前にさっさとドアを開けてしまった。

 俺は頬がカッと熱くなるのを感じた。きっと紅く染まっているのだと思う。

 盗み見をしていたという罪悪感が、今になって怒濤のように押し寄せてきたのだ。さらに眼前で展開されている状況を見るのがつらく、思わず目を瞑りたくなってしまう。

「……ク、クラウド? セフィロス……?」

 という掠れた低い声は、ヴィンセントのものだったと思われる。

「……気になってな。話が終わる頃かと思って覗いてみた」

 この上なく偉そうに宣うのはセフィロスだ。こいつは良心の呵責とかそーいう感情は持ち合わせないのだろうか。広い背中の後ろを俺はギッとにらみつけた。

「この人たちもウチの人たちなの。セフィロスにクラウド兄さんだよ」

 ヤズーが彼女に紹介してくれた。

 こんな状況であるにも関わらず、だ。もちろん、ヤズーとヴィンセント以外は、彼女にとって初対面だろう。バカンスの間しかコスタ・デル・ソルに滞在していないのなら、良家の子女風の彼女と、どこかで出逢った確率は少ない。

 ヴィンセントと驚きと怯えの入り交じったような眼差しで、ビクビクとセフィロスを見つめている。それはそうだろう。彼にとって一番の脅威はセフィロスなのだ。家の中でも、誰よりもセフィに対して気を使っている。

「話は済んだのか、ヴィンセント」

 居丈高に、セフィロスが言い放った。

 いや、セフィロス的には尊大ぶっているわけではないのだろうが、この男はデフォルトで偉そうなのだ。

 弾かれたようにヴィンセントが背を震わせる。ほとんど条件反射だ。

 俺的には、セフィ相手に一言文句を言ってやりたくなるが、今はさすがに状況が状況だ。これ以上、現場を混ぜっ返さないように、沈黙を守った。

 口出しをするタイミングを計るんだ。

 いざとなったら、俺がヴィンセントの恋人だと言ってやる!それでもまだしつこいようなら、「俺のヴィンセントに手を出すな」って言うんだ!女の子相手に大人げないかもしれないけど、ヴィンセントのことなんだから。譲るわけにはいかないのだ。

 

「あ、あの…… す、すまない、き、君にまで……こんな……心配を…… わ、私のせいで……」

 ヴィンセントはビクビクと震える声音でセフィロスに謝罪した。自分はちっとも悪くないのにだ。

「おまえに心配を掛けられるのは慣れている。それで?」

「あ、ああ、彼女に謝罪を…… 本当にこんな形で恥をかかせるようなことになってしまって……」

 ふたたびヴィンセントは彼女を見遣った。今にも泣き出しそうな面もちで。

「ヴィンセント様。わたくしはちっとも、恥をかかされたなどと思ってはおりませんわ」

 小気味がいいほどきっぱりと彼女は言った。俺は思わず顔をあげて、スカーレット・オハラのイメージと言われた彼女の顔を見た。

「例え、結果がどうであれ、自分の気持ちにウソはございませんもの」

「そうか」

 応えたのはセフィロスであった。

 ひとつ頷くと、セフィはツカツカと彼女の方へ歩みを進めた。

「すまんな。うちの者が迷惑をかけたようだ」

「いいえ」

 彼女は一瞬も目を反らさず、セフィロスを見返した。相手は、男でも威圧される神羅の英雄だ。その人物と相対しても一歩も引かない気丈さに、俺は感嘆した。

 ふたたび、セフィロスが口を開こうとしたときだった。

 先を制して、言葉を発したのは、彼女のオレンジ色の口唇であった。

「……わかりましたわ。本当にわたくしの独り相撲だったようですわね」

 小さな溜め息と共に、彼女はそう宣った。潔い物言いに涙のにおいは感じなかった。むしろ、にっこりと笑って見せたのには驚嘆した。