Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「……そう…… ごめん。もう謝るしかなさそうだね」

 ほぅ……と溜め息を吐いて、ヤズーがつぶやいた。もう観念せざるを得ないと悟ったのだろう。俺も画面のこちら側で息を飲む。

「……ヤズー様」

「ごめんなさいね、お嬢さん。君を騙すような真似をして。……本当に申し訳ない」

 ヤズーは男の声に戻って、真摯に謝罪した。きちんと頭を深く下げて、だ。女の子がアーモンド型の瞳を瞠る。

 ヤズーのシビアで深い声は、俺までちょっと驚いてしまうくらい真剣であった。

「ヤズー様……どういう……こと……」

 彼女が言い終わらぬうちに、その問いかけをヴィンセントが遮った。

 

「すまなかった……!」

 なんとヴィンセントは、ガバリと跪くと、彼女の足元に土下座して頭を下げた。

「申し訳ないッ! 私がいけないのだッ ずっと年長であるにも関わらず、君をこんな形で傷つけてしまって……! ヤズーやカダージュは悪くないんだッ」

「ヴィンセント様…… あ、あの、やめてくださいませ!そんな……早く、立って!」

 突然の土下座に……それも最愛の人物の猛烈な謝罪に、彼女のほうも動揺しているのだろう。慌てて、ヴィンセントと同じ目線に跪くと、彼の腕を取った。

 ヤズーもカダージュも唐突な展開に唖然としたまま、ヴィンセントを見つめているだけだった。

「ヴィンセント様ッ ……そんな……おやめください。服が汚れてしまいますわ」

「…………」

「わたくし、あなた様にそんなふうに謝罪して欲しいわけではないのです」

 彼女は項垂れたヴィンセントの腕をしっかと取ると、今度こそ勢いよく立ち上がった。当然、掴まれたままのヴィンセントも引っ張り上げられる形になる。

「ヴィンセント様、お掛けになって……」

 そんなふうに椅子まで勧めてくれるのは、なかなかの胆力と言えよう。ここに来て、俺は少しだけこの女を見直していた。横恋慕女にもかかわらずだ。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント様、さぁ……」

 彼女はやさしげな声で促すが、頑固にもヴィンセントは固辞した。

「すまなかった。私のせいなのだ。貴女は最初から誠実に率直に私に相対してくれた。君のような若い女性がきちんと思いを言葉にしてくれたのに…… ……それなのに、私は……」

 いや、それは違うだろう、ヴィンセント。                 

 アンタは最初から「想いには応えられない」って言ってたじゃないか。それをちゃんと告げたのなら、了承しなかったのは彼女のほうだ。

「……貴女を傷つけたくなかった」

 顔を伏せたまま、絞り出すようにヴィンセントがつぶやいた。

「……ヴィンセント様……それは……」

「いや、そうではないんだ……結局、私は……自分が傷つきたくなかっただけだ……」

「…………」

「すまない……きちんと貴女の気持ちに向き合う勇気がなかった。ヤズーたちは、そんな情けない私のことを良く知っているから……だから、こんな風に……」

 口出しはしないものの、後ろのヤズーが苦笑するような面もちで唇をひん曲げている。どこまでも、善意的に解釈するヴィンセントに申し訳なさを感じているのだろう。

「すまない。失礼なことをして……! 貴女の好意は痛み入る。だが、やはり私は君と特別な付き合いをするわけにはいかない。恋人として愛せるわけでもないのに、そんな不実なことはできない」

「ヴィンセント様……すぐでなくてもいいんです。わたくしをお嫌いではないのなら……」

 なおも食い下がる彼女に、ヴィンセントは緩慢に首を振った。

 顔を見るのがつらかったのだろう。目は伏せたままだ。

「無理なのだ……私にはもう何より大切な者たちが居て……それはもう恋人であるとか、そういうところを通り越して、私の中で重大なもので…… これからさき、どれほど時を重ねようと、今ある彼らとの生活が何よりも大切なのだ。失うことなど……絶対に考えられない」

 ヴィンセントの言葉は、ひとつひとつが不器用で……でも、だからこそ、本当に重くて。 俺にとっても、家の者たちは、皆大事だけど、ヴィンセントがあそこまで思い詰めるほどに、今ある環境を愛しているのだとは考えなかった。

 微かなヤキモチと、腹の奥の方が暖かくなるような嬉しさを押し込めて、俺はモニターに見入っていた。

 

「……ごめんね、レディ」

 ふたたび、口を開いたのはヤズーであった。カダージュのほうは、石像のように固まったまま、ヤズーのドレスにしがみついていた。

「ウチの人間たちにとってもね、ヴィンセントはかけがえのない人なんだよ。わがままな言い方をするなら、どこへも行って欲しくないし、ずっとウチに居て欲しい。みんな、そう願ってるの」

「ヤズー様……」

「あと三人ほどいるんだけどさ。みんな、ヴィンセントのこと大好きで、愛してて…… きっと今だって、ここでの成り行きを心配して、『ホテルのラウンジ』で待機していると思う」

 セフィロスが、そのその言葉にニヤリと笑った。

 うわ〜……さすがヤズー。

 この最悪の状況の中、そんな虚言がさらりと出るなんて。もちろん、隠しモニターで見守っていましたなんて、口が裂けても言えないわけだけど。

「そろそろ待ちくたびれて、状況を伺いに来るんじゃないかな。もう、ホントね、貴女から見たら、こんな家族愛なんて異常極まりないって思うかもしれないけど、俺たちみんな真剣なんだよ」

「…………」

「事情があってさ。みんなで一緒に生活し始めたのって、ここの一年くらいの話でさァ。いや、まだ一年にもなっていないか…… ともかく、俺たちにとっては、『家族みんなで居ること』は、何者にも代え難いんだよ」

「……ヤズー様のおっしゃることは……わかります…… でも、本来、家族愛と、恋人を愛する心とは異なるものでしょう?」

 そうだな。フツーはそうだ。

 俺だってやっぱり、ヴィンセントへの想いと他の家族への感情は異なる。ヤズーやカダたちに対する家族愛と、ヴィンセントへの『恋愛』。

 ぼんやりとそんなことを考えている俺を、となりのセフィロスがつついた。