Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 モニターに写る、決死の覚悟をしたカダージュの姿。

 頬はやや上気してピンク色になっている。

 対して、ヤズーとヴィンセントは蒼白だ。疑いを吹くんだ、挑むような彼女の眼差し。

 

「……おいおい、ここからどうするつもりなんだ、あのチビガキは」

 低く耳元でセフィロスがささやく。

 ホントだよ、どうするつもりなんだよ、カダ。

 俺はじりじりと背中を焼かれるような焦燥に、ギリリと歯がみした。

 モニターの中の、思い詰めた小さな顔を見つめ、心の中で問いかける。

 おい……まさか本当にやるつもりなのか? それでごまかせると思ってんのか?

 いや……まだ一応、あの女も疑惑を持っている段階なのだ。上手くひっくり返せれば…… いやいや、それはあまりにも希望的観測……

 俺がうだうだと悩んでいる間に、最年少の弟は実力行使に出た。

 禁断の作戦Cだ。ネタともいう。

 

『ママ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!』

 可愛らしく整った顔をぐしゃりと歪め、泣きながらカダージュは走った。もちろん、嘘泣きである。

 ようやく当初の衝撃の去ったヤズーのふところへ、そのまま飛び込もうと……

 その瞬間、俺は自分の目を疑った。

 勢いよくカダージュが抱きついたのは、ヤズーでなくて、ヴィンセントの方だったのだ。

 

 ……ってゆーか、どうして、そこでヴィンセントに抱きつくの、カダ!!

 

 俺は下顎が外れそうなほど、ガクーンと口を開いた。となりのセフィロスも呆気にとられた様子で惚けている。

  

 あろうことか……ただでさえ、作戦Cはキビシイというか、ネタ紙一重なのに……抱きつく相手を誤るとはッ!!!

 もちろん、女装をしているヤズーに抱きついてもらって、「連れ子なの」って言ってもらおうかと話をしていたのだ。ヤズー女装までは、少なくとも俺は一応本気で考えていたのだが、さすがにカダージュ連れ子作戦はやりすぎだろうと思っていた。

 笑いながらヤズーが、

『「ヴィンセントは、この子の父親になってくれるんです!」って追い打ち掛けようか』

 などと言っていたが……それにしても……この場面で、ヴィンセントに抱きついたら、もう場の収容の方法もなくなってしまうではないか。

 あの女も一言も発することなく、ラッコのように抱きつくカダージュを穴が空くほど凝視している。

「おいおいおい……目も当てられないぞ……」

 脱力したセフィロスの台詞。

 俺は思わず天を仰いで、両手で顔を覆った。

 

 どうしよう、どうしよう!!

 

 きっとカダージュは、緊張のあまり、『いつもママ』だと認識しているヴィンセントへ抱きついてしまったのだ。

 ヤズーも女顔でよく気のつくやさしい人だが、やはりあの家で『ママ』といったらヴィンセントだろう。

 それがそのまま行動に出てしまったらしい。

『あ、あれ、ぼ、僕、間違えちゃった…… ど、どうしよ…… に、兄さん……?』

 おずおずとモニターのほうを見やるカダージュ。

 アホかーッ!カメラ目線はよせッ! この上、隠しカメラで盗撮なんてことがバレたら警察沙汰になってしまう。

 ああ、でも、この状況を……どうすれば……

 

 

『……ヤズー様。コスタ・デル・ソルの女の子であなたを知らない女の子なんていませんわ』

 水を打ったごとき静寂の中、最初に口を開いたのは彼女であった。

『昨年、○○家のサロンにお呼ばれいたしましたでしょう。わたくしもお誘いを受けて、同席させていただきましたのよ。覚えておられません?』

 彼女はここコスタ・デル・ソルの名士と言われる人物の名を口にした。

 ちょっ……ヤズ〜〜〜〜〜っ!

 なんだよ、この女と面識あったの!? 覚えてないのかよ! 気付よ、コノヤロー!

 

「……あいつはイロケムシだからな。交際のある女も多いんだろうよ」

「名前に気付かなくても、モニターで見てわからなかったのかなぁ…… もう、ヤバイよ、セフィ……終わりだよ……」

「……どうしようもなさそうだな」

 きっと、○○家とやらにも、年頃の娘が居て、茶会か何かを開いたのだろう。ヤズーは女友だちが多い。よく誘われて出掛けて行くのを知っていたのに……注意しなかった俺もうかつだった。

「う、うん…… ね、セフィ、俺たちも向こう行ったほうがいいと思う? 発案者ってほとんど俺だし、ちゃんと謝って……」

「……まぁ、待て。いきなりぞろぞろ出ていったら、それこそ盗見してたのがバレるぞ」

「でも……」

 セフィロスとそんなやり取りをしている時、画面の向こうでヤズーがしゃべり出した。

「もう少し、上手く繋いでくれりゃいいんだが……」

 きっとセフィロスが期待しているのは、ヤズーの機転にだろう。確かに今すぐ、俺たちがぞろぞろ部屋に入っていっても、なんら事態は好転しない。

「おい、クラウド。頃合いを見計らって、向こうに行った方がいいかもしれんぞ。心の準備だけはしておけ」

「わ、わかってるよ、そんなの! 俺、堂々と、ヴィンセントの恋人っていうもん! あの女なんかに割り込ませてたまるかよ!」

「逸るな。状況をよく見ておけよ」

 セフィロスがつぶやいた。目線はモニターから動かさないままだ。

 久々に見る、わりと真面目な面もちのセフィロスは、俺から見てもけっこう格好良かった。