Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「ああ、んもう、ヤズー! ヴィンセントにくっつきすぎーッ!」

 華奢な背中を支えるヤズーの手、甘えるように肩に頭を乗せた様子を見遣り、到底平静ではいられなくなった。もちろん、ヴィンセントはヤズーの為すがままで逆らわない。

 いや、恋人役として突入してもらったヤズーなのだから、流れとしては自然なのだが、頭では理解していても、大切なヴィンセントが他の野郎とくっついているのは、俺にとって耐え難い苦痛であったのだ。

「アホか。一応恋人役なら、くっつかにゃ不自然だろ」

 のんびりとセフィロスが返してくる。

 会話を聞き取るのも面倒になったのか、ヘッドフォンを外し、面倒くさそうにソファにもたれかかってモニターを眺めているだけだ。

 まったく!緊張感のないことこの上ない。

 末のカダージュだって、俺の隣で一生懸命画面を覗き込んでいるのに。

「だってもうヤズー登場の時点で勝負ありでしょ!何もそんなにベタつかなくたっていいのに!」

「作戦Bはおまえの立案なんだろ」

「そ、そりゃそーだけど……」

 むっつりと頬を膨らませた俺の傍らで

「うわぁ〜、やっぱしヤズーって綺麗だなァ」

 などと、無邪気な感想を述べるカダージュ。

 こいつらは兄弟ながら、そーゆー意味合いでもデキているのだが、こいつはヤキモチを妬かないのだろうか。もっとも、カダージュはヴィンセントにもとてもなついているから、ちょっと別格になるのかもしれないが。

「ねぇねぇ、兄さん。ヤズー、すごいよねぇ〜。もともとすんごく綺麗だけど、お化粧して女の人のカッコしても、全然違和感ないなんてさー」

「ヴィンセントにくっつきすぎだがな」

「しょうがないじゃん。あの女の子にあきらめさせないといけないんでしょ。仲良さそうにみせないと」

 ようやくモニターから顔をあげて、カダは俺を仰ぎ見た。

「フフン、そっちのガキのほうが道理をわきまえているな」

 と、すかさずセフィロスが口を挟む。

 それをキッとにらみ返すと、俺はもう一度、カダージュのとなりに腰を下ろした。

「な、カダ」

「んー、なーに、兄さん」

「……おまえ、けっこう物わかりいいな」

 セフィロスに聞こえると、きっとまた茶々を入れられるだろうから、顔を近づけて耳打ちする。

「そぅお? うーん、僕さァ、兄さんたちの家で生活するまでは、本当にヤズーがいないともうダメでさァ。ちょっと外出していないだけでも、なんか不満で落ち着かなくてね。すっごい迷惑掛けちゃったの」

 前を向いてモニターを眺めつつ、カダージュはつぶやいた。

 俺に答えているのだろうが、独り言のような静かな口調であった。

「ワガママ、いっぱいいっぱい言ってね。でも、ヤズー、僕に怒ったことないんだ。『カダはいい子だよ』っていつも…… きっと、僕、傷つけるような文句を言ったこともあると思う。でも、絶対、言い返したり、怒ったりしないんだ」

「…………」

「今は兄さんとか……みんながまわりに居て……ヤズーの側にもいっぱい人がいる。綺麗なヤズーがたちまち人気者になっちゃうっていうのは覚悟してた。だから、今度は僕がガマンするの。どれほど素敵な女の人や、カッコイイ男の人がヤズーの側に居ても、信じて待つの。そう決めたの」

「……カダージュ」

「だから、僕、平気」

 舌足らずの少し甘えたような声音で、そう告げられ、俺はやや自己嫌悪に陥ってしまった。

「ふーん、おまえもけっこういろいろ考えてんだな」

 きっと俺の口調がしみじみとしていたせいだろう。カダは色白の頬をポッと染めて、ちょっとだけ俺の方を向いた。

「ヤダなぁ、兄さん。照れちゃうよ」

「いいじゃん。ホメてんだからさ」

「へへへ」

 そんな俺たちのやり取りが耳に入らなかったはずはなかろうが、セフィロスは一言も口を挟むことなく、ソファで据え置きの雑誌を退屈そうに眺めていた。

 

「でもさ、兄さんが心配になるの、わかるよ?」

 話は終わりと思っていたのに、意外にもカダは言葉を続けた。

「なんで?」

「ヴィンセントって、すごく綺麗で思いやりがあって、素敵な人だけど……」

「だろう! おまえよくわかってるじゃんか」

 言葉途中でありながらも、カダージュの評価に賛同を示した。

「へへへ、だって、本当にそのとおりだと思うもん。でもね、ヴィンセントって、誰にでも同じように優しいでしょ?」

 気の毒そうに、俺を見上げてヤツはつぶやいた。

「やっぱ、不安になっちゃうよね。ヤズーも人当たりはいいけど、やっぱし、全然違うんだ。側について見てると、ちゃんと『愛してる』の優しさとフツーの優しさと二種類あんの」

 形の良い眉を寄せ、眉間に皺を刻んで、くそ真面目な声音でカダージュが続ける。

「でも、ヴィンセントはみんなに『愛してる』の優しさだよね。ああ、みんなっつっても、ウチの人たちにだけど」

「カダもそう感じるの?」

「う、うん…… 兄さんには悪いけど、そう感じる……ときもある。もちろん、兄さんにのことは、すごく大事に思っているのは伝わってくるけどね。たまに僕と話しているときでも……すごく愛おしそうに接してくれてるのがわかる。ホント、照れちゃうくらい」

 そこまで言ってカダージュはまたポッと頬を赤らめた。

「ヴィンセントってさ、本当に僕たちのこと大事に思ってくれてるよね。ちょっと不思議なくらい…… だって、ヴィンセントは兄弟じゃないし。兄さんとの縁は深いだろうけど、僕やヤズーはただの弟だし。それに弟って言ったって、本物の弟っていうんじゃ……」

「よせよ。確かに同じ親から生まれたわけじゃないけど、今はもう弟だろ。一緒に住んでるんだし、俺のこと『兄さん』って呼ぶんだから」

「うん……ありがと、兄さん」

 少し驚いたように顔をあげ、はにかんだ様子でそうつぶやいた。