Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「あ、おはよぉ、ヴィンセント〜。なぁんだ、もっとゆっくり寝ててくれていいのにィ」

 ヤズーのイロケムシが温泉芸者のような物言いで、ヴィンセントに声を掛けた。

「おはよ、ヴィンセント! もう洗濯物干したよー」

「すぐ、ゴハンだって!」

 ロッズ、カダージュの順に、にこやかに口を開く。

 

 ……今日は何の変哲もない、平日であるのに……

 クエスチョンマークが浮かんでいそうなヴィンセントのツラ。もっとも、もともと無表情なヤツだから、あからさまに驚いたりはしないが、ヤズーはともかくガキどもが自分より先に起きていて、しかも家事まで済ませてくれているのに当惑した様子であった。

 さもあろう。

 ロッズはともかく低血圧の末のガキなど、体調の良くないときは、ヤズーが起こしに行ってようやく居間にやってくる始末なのだ。

「お、おはよう…… 皆、ずいぶんと早いのだな……」

「そぉ〜? ちょっと早く目が覚めただけだよ」

 とカダージュ。

「ヴィンセントは今日、お出かけでしょ? それなりに気疲れするだろうし、時間までのんびりしてなよ」

 すでに、皆の分の茶を淹れるだけになった食卓で、イロケムシがそれこそのんびりとそう言った。

「朝御飯は、和食にしたの。お腹にもたれないほうがいいと思って」

 ガキどもが「ごはんごはん!」と騒いで食卓に着く。

「ほら、カダ、こぼすなよ。熱いからゆっくり食べなさい」

「す、すまない、ヤズー……手伝いもせずに……」

「何言ってるの。いつもより俺の方が早かったんだから当然じゃない。セフィロス、冷めるよ! さっさと座って!」

 キツイ声でオレ様に呼びかけるヤズー。

 この女顔は、オレにだけ当たりがキツイのだ。ったく思念体の分際でかわいげのない。

「さ、ヴィンセントも。シャワーは済ませてきたんでしょ? そろそろお腹空いたんじゃない?」

 ……対オレ様と対ヴィンセント。ここまで差があるのは、イロケムシとアホチョコボの二匹だけだ。

「あ、ああ。では私はクラウドを起こしてくる」

 踵を返そうとするヴィンセントに、

「あのクソガキならもう出掛けたぞ」

 ラックに新聞を放り投げつつ、オレは声を掛けてやった。

「え……?」

「配達の仕事で、どうしても朝イチで届けなきゃならないところがあるんだって。ま、報酬もいいし、仕方ないって、兄さんが」

 つらつらと何の違和感もなく言葉を続けるヤズー。きっとコイツは詐欺師になれば大成功すること間違いなしだろう。

「朝一番……とは言っても……こんな時間に出るなど……」

「うーん、きっとこっからちょっと距離があるんじゃないのぉ? 大丈夫。兄さんにもちゃんと別に朝ご飯食べさせたから」

「……そ、そうか……何だかすまないことを……」

「やぁねぇ、ヴィンセントが気にするようなコトじゃないでしょ? いいからいいから、さ、座って」

 促されるまま、オレたちはテーブルに付き、いつもどおりの食事が始まった。

「ねェ、ヴィンセント。今日って確か、セントラルホテルで食事するんだよねェ?」

「あ、ああ。先方が個室を取っていると言っていた……ふたりきりではきっと食べた気がしないと思うが……」

 ぼそぼそと言葉を付け足すヴィンセント。

 その様を見て、よほど辟易しているのだなと察する。それならば、さっさと断っちまえばいいだろうと思うのだが、きっとそこがオレとヴィンセントの違いなのだろう。

 他人が傷つこうが泣こうが喚こうが、どうでもいいヤツならばオレは何とも思わない。勝手に泣いてろで済んでしまう。

 だがヴィンセントはそうはいかないのだろう。傷ついた相手の気持ちになって、一緒に苦しんでしまう。結果的に自分自身がつらい思いをするわけだから、最初から誰に対しても、必要以上にやわらかく接するのだろう。もちろんヤツの性格が大きく影響しているのはいうまでもない。

 もっとも、他人の資質をどうこうするつもりはないので、乞われなければ意見もしないのだが。

 

「……その……申し訳ない……」

 音を立てずに、ハシを茶碗に戻すと、低い声でヴィンセントが誰にともなく謝罪した。

「どうしたの? 唐突に……」

 とヤズー。

「……なんだか……私のせいで……皆に気を使わせているようで……」

「ヤだなァ、ヴィンセントがあやまることじゃないでしょ。ほらァ、ここの家の連中は、みんな、ヴィンセント大好きっ子ばっかりだからね。もちろん、俺も含めて。ついつい気にしちゃうんだよ〜。プライベートだってわかってはいるんだけどね〜」

「……そんな……でも……ありがとう」

 またもや俯いてボソボソつぶやいくと、ヤツはようやく食事を再開し始めた。

 とは言っても、メシの減ってゆく分量は微々たるモノだが。

「ヴィンセントってモテるよねー。兄さんでしょー、セフィロスでしょー、ヤズーでしょー、街の女の子たちに、今の話題の彼女でしょー。いいなぁ。かっこいいと特だなァ」

 突拍子もない発言は末のガキだ。言葉の内容は頷けるのだが(真実だ)、ヴィンセントが居る目の前でいうのだから、張本人はたまったものではなかったのだろう。これだからガキは恐ろしい。

 危うく味噌汁を吹き出しそうになり、ごほごほと咳き込む、ヴィンセント。

「あははは、ホント、カダの言うとおりだよねェ。ちょっと、大丈夫ゥ? ヴィンセント

「カ、カ、カ、カダージュ! ごほっごほっ」

「どぉしたの、ヴィンセント?」

「『どうしたの』ではない。馬鹿なことを言ってはいけない。そ、その、クラウドや手紙の女性はともかく、他の人たちは、決して私のことなど……」

 必死に反論する姿が可笑しい。適当にいなしてふんぞり返ってりゃいいのに。まぁ、こういうところが、この男の面白いところであり、オレの気に入っている部分でもあるのだが。