Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「……お家の一大事でござるぞ! おのおの方!」

 クラウドのガキは、いつまで経っても子どもっぽい顔を、しかめつらしく引きしめてそう宣った。まさに『宣言した』と言わんばかりの重々しさで。

 「お家」は「おうち」ではなく「おイエ」と読ませるらしい。

 どこぞの戦国武将を真似てみたのか、ひどく重々しく声音でオレたちを見回してそう言ったのだ。

「ねぇねぇ、ヤズー、僕、お茶のお代わり」

「あ、俺も! あ、でも、今飲むと夜トイレ行きたくなるしな〜」

「ロッズはどうせもう寝るんだろ。飲まないでさっさとベッド入ったら?」

「喉かわいて眠れなかったイヤだしな」

「そうか、じゃ、ロッズ、マグカップに淹れてやるから。ベッドに入って飲んだらどうだ。砂糖は入れないし、暖かくしてれば大丈夫だろ」

「うん、そうする、ヤズー」

 

「ちょっ……おまえら、コルアァァァ! 状況わかってんのかッ! 大事なヴィンセントのことなんだぞ、コノヤロー!」

 チョコボ野郎はトサカにきたようで、いきなりすっくと立ち上がり、バンとテーブルを叩いた。

「わかってるよ、兄さん。じゃな、ロッズ、おやすみ」

「でも、兄さんの話、俺も気になるよ……」

 デカブツは、眠くて霞んできた目をゴシゴシと拭い、そうつぶやいた。泣き虫で人の良いこの男も、ヴィンセントにはたいそう懐いているのだ。

「いいから、ちゃんと明日にでも俺が説明するから」

「うん……ヤズーがそう言うなら」

 ぼそぼそとつぶやくと、ハーブティの入ったカップを持って、ロッズは奥に戻っていった。

「カダも休んだらどうだ? もうそろそろ休む時間だろう」

「ヤダ、僕は話し聞く! ヴィンセントのことだもんね!」

 ロバのように頑固な末のガキがそう言った。

 ヤズーの奴は、それでもなお言葉を加えようとしたが、小さく吐息すると、クラウドに目線を戻した。いかにヴィンセントのこととはいえ、一番可愛がっている末の弟が、他人のために必死になるのは面白くなかったのかもしれない。

 そんな予測を立て、オレは意地悪く口唇をひん曲げた。

 

「おらぁぁ!注目ッ!」

 クラウドが再度テーブルを叩いて注意を引きつけた。

「ちょっとォ、兄さん。大きな音立てないでよ。ヴィンセントが起きちゃうでしょ」

「おまえら、ちゃんと気合い入れて考えろよッ!」

「もちろん、わかってるよ、大切なヴィンセントのことだもの」

 本音でそう言っているだろうが、ヤズーはいつもと変わらぬ調子で、のんびりと茶を啜った。

「落ち着かんか、クソガキ。鬱陶しい。もう少し余裕を持てんのか、おまえは」

「持てません〜! ヴィンセントのことだからね! もう、だいたい今日の報告だって何だよ、アレ、ヤズー!」

 イライラとクラウドが声を上げた。次の瞬間、ちらりとヴィンセントの部屋の方へ目線を動かし、しまったというように、口を閉じる。

「何だよって、なぁに? ヴィンセントに聞いたこと、そのまま話しただけだけど?」

「そーじゃなくて! ほら! とりあえず昼間、俺は仕事でいないんだからね、コレ!? 家に居るアンタらがしっかり頑張ってもらわないとさァ〜!」

「だってェ、頑張るって言ってもねェ〜。約束の場所に一緒に行くわけにいかなし。気落ちしているヴィンセント、慰めるくらいしか出来ることないもの、ねぇ、セフィロス?」

「まぁ、そんなところだな」

 どうでも良さそうに相づちを打ったオレの態度が気に入らなかったのだろう。クラウドはキッとばかりにこちらを睨み付け、憎々しげな口調で言いはなった。

「なんだよ、セフィってば! 普段は俺が止めてもヴィンセント、ヴィンセントって、近寄ってかまっているくせに! 本当に困っているときは無視なの? ヴィンセントはやさし過ぎるほどやさしい人なんだよ。自分から進んで他人を傷つけるなんて考えもしない人なんだからな! そんくらいわかってるんなら、もうちょっと何とか……」

「アホか、いい年した男に、恋愛のアドバイスなんざ出来るか。あいつだって、迷惑だと思えば、この次にきっちり断るだろうよ」

「迷惑でも断れないのがヴィンセントだろ!」

「そりゃ、どんな理由であれ、あいつがその女を受け入れるんなら仕方ないだろが」

「好きでもないのにHするわけないじゃん!」

 このクソガキは「受け入れる」をどう勘違いしたのか、一足飛びにそっちまで持っていった。

「バーカ。好きじゃなくても好みのタイプなら、フツーはできるだろ」

「セフィとヴィンセント一緒にしないで! ヴィンセントはアンタみたいな節操なしじゃないから。エロエロじゃないからね、コレ!」

「さてなァ……ま、アレも一応男だからな。おまえの相手をしているより、たまには若い女の身体が欲しいっつっても不思議はねーだろ。『抱いて下さい』とか言われたら、ヤルんじゃねーの?」

 ズケズケとオレは言ってやった。やや売り言葉に買い言葉であったとも思う。

 正直、自分でしゃべっていても、『それはまず無いな』と感じていたくらいだ。

「ちょっとォ、セフィロス。カダもいるんだから、言葉選んでよね」

「ケッ」

「兄さん、今のはいつものセフィロスのイジワルだからね。気にする必要ないよ」

 あっさりとそう言ってのけると、イロケムシは女顔負けに綺麗に整ったツラをにっこりとほころばせた。

「ヴィンセントの場合は、もうなんていうか、女性っていう生き物全般に対する愛護精神っていうか……フェミニストの一種なのかなァ。単に拒絶して傷つけるのが怖いだけで、兄さんや家族よりも女の人のほうがいいってことじゃ全然ないから」

「そんなこともわからんのか、ボケが」

 さきほどの発言もどこ吹く風の態で、オレは迷える子羊……もとい子チョコボに言ってやった。

 イロケムシも「家族」という言葉を加えているところに、奴の自信が見て取れる。

「そうだろ? 俺だってそう思ってんだよ、ヤズー!」

「わかってるならいいじゃない。ヴィンセントはその女の人より、兄さんのほうが大切なんだから」

「でもッ!」

 と、勢い込んで声を上げるクラウド。

「でもッ! 必ずしも、一番大切な人と絶対居るって言い切れないかもよ!? 一番じゃなくても……ヴィンセントの場合、相手に寄っては、なし崩し的に言われるがままになる可能性がある」

「どうして、兄さん? ヴィンセントのこと信じていないの?」

 カップに口を付けたまま、末の小僧が不愉快そうにそう言った。

「そ、そうじゃなくて…… ヴィンセントって……なんていうか、こう思い詰めすぎて……思いこんだら一筋みたいなところがあるじゃん。正しいとか間違いとかよりも、思い込みで行動するっていうか。……それに、恋愛至上主義ってわけでもなさそうだし。あ、俺はヴィンセント至上主義だから」

 アホか、クソガキ。デレデレしやがって!

「そうかなァ? 表面的にはああでも、中身はけっこう熱い人だと思うけど?」

「そうじゃなくてさ、ヤズー! ……例えば……ほら、セフィロスが一緒に『約束の地に連れて行く』って言っても、イヤそうじゃないじゃん。『君がそうしたいのなら……』とか答えてたしィ」

「うーん……だから、それは……」

「ヴィンセント、一番好きなのは俺のはずでしょ? そんなのに、セフィロスにそう言われて素直に従おうとするんだよ? それってヘンじゃん? そりゃ、セフィロスはヴィンセントにとって……その特別みたいだけど、俺みたいに恋愛関係ってわけじゃないんだし」

 不満そうに小鼻を膨らませて、奴は文句を言った。イロケムシがちらりと俺を盗み見て、何の表情も読み取れないのを確認してから、目線を兄さんに戻した。

「まぁ、そぉねェ、もちろん、兄さんのことは大事なんだろうけど、ヴィンセントにとって家族は特別みたいだからね」

 そんなふうにフォローしてくれる。

「だから……その……あの……ヴィンセントを信用してないってわけじゃないけど……安心して成り行きを見ていられないっつーか……ヴィンセントが自分で断り切れないなら、やっぱここは恋人の俺の出番じゃん? コレ」

「やだなァ、それって、信用してないって言ってるようなモンだよ、兄さん」

「ち、ちがっ! おい、ヴィンセントに変なこと言うなよ? 誤解されると厄介なんだから」

「わかってるよォ。まぁ、確かにね。万が一にでも、ヴィンセントがおかしな同情心を出さないとも限らないしね」

「ヴィンセントが俺以外を選ぶっつーのか、コルアァァ!」

「もう、どっちなのよ、兄さん」

 呆れたように、ため息を吐き出した後、イロケムシはあらためて口を開いた。

「ヴィンセントが一番大切なのは恋人の兄さん。ハイハイ、それはよくわかってますよ。それから、この家に住む俺たちにも最大限の愛情を示してくれるよねェ。でも……」

「そうそう! セフィみたいに、クソ意地悪い大魔王にもね」

「なんだと、この野郎!」

「ああ、もう、脱線させないで。だからこそさァ、今回はファミリー総出で、ヴィンセントの窮地を救おうよ。なんといっても、ヴィンセントは一応、『気持ちには答えられない』って断ってんだから。その上で尚、付き合いたいって言ってくるんだから、俺たちが手出ししても、それほどアンフェアってことはないじゃない」

「フェアとか、アンフェアとかそんなのはどーでもいい!」

 と、騒ぐ、クラウドのガキは放っておいて、俺は退屈しのぎのネタができたことにほくそ笑んだ。

「そんじゃ、おのおの方、ヴィンセント救出作戦の決行を!」

「うん、OK、兄さん。次の約束の場所、聞いてあるし。いざとなったら、直接対決もありの方向でね」

「おし! 俺はやるぜ〜!」

「戦場のミッションじゃないんだから」

「……よし、それで? どんな手はずでいく?」

 訊ねたオレ様に、金と銀の髪のガキどもは「楽しそう……」と、責めるような口調で、低くつぶやいたのであった。

 おのれを棚に上げ、よくもまぁ他人のことを言えるガキどもである。