〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<35>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 何なのだ、この角の生えた獣は……!?

 どうして、ヴィンセントの倒れていた場所に……?

 ヴィンセントはいったいどこに行ってしまったのだ……?

 

 頭の中にクエスチョンマークが浮かんでは消える。

 今は呆けている場合でないと、むしろ身体の方が理解していて、剣を構えモンスター二頭と、油断なく距離をとった。

 

「クラウド……ッ!? クラウド、いったいどうしたの? さっきの声……」

「バカッ! 来るな!」

 俺は肩越しに怒鳴った。

 さきほどの騒動を聞きつけて、とうとうティファも我慢していられなくなったのだろう。

 俺の怒鳴り声に怯むこともなく、軽い足音が近づいてくる。

 だが、それも途中でハタと止んだ。俺たちはちょうど二等辺三角形を描くような形で対峙していたのだから。

 一番出入り口に近い場所に俺。そこから十歩程度の場所にミノタウロスにも似た火焔を纏ったモンスター。一番奥まった場所にムカデの化け物だ。

 いかに暗がりとはいえ、中に入ればそれぞれを見て取ることは可能だ。しかも今は、炎のせいで先だってよりも大分明るい。

 

「クラウド……! 大丈夫なの?」

「俺は問題ない!」

「ヴィ……ヴィンセントは……?」

 姿の見えないもうひとりのことをティファが訊ねてきた。彼女としてはもっともな問いかけなのだろうが、知りたいのは俺の方だ。

「ティファ。入り口の近くに女の人ふたり居ただろ。危ないから外に出してくれ」

「……で、でも……」

「いいから、早く!」

 叱りつけるようにそう言うと、彼女はタッと駆け出し、すぐに彼女たちを外に出して戻ってきた。

「戻ってくるなよ! 怪我人がいるだろ!」

「彼女たちは気を失っているだけよ。傷らしい傷は負ってないわ」

「だからって……」

「勝手なことばかり言わないで、クラウド。私だって仲間なんだよ。心配しながら外で待ってるなんてできない」

「…………」

「ねぇ、ちゃんと答えてよ、ヴィンセントはどこなの?」

 ティファは怒ったようにそう言ってきた。

「……わ、わかんないんだよ」

「わからないって……だって、ふたりでこの中に入ったんでしょ?」

「あのムカデ……セフィロス・コピーから、俺を庇って倒れたんだ。全然動かなくて……息もしてなくて……」

 背筋に震えが走り、俺はグッと剣を持つ手に力を込めた。

 

 ギシャアァァァァ!

 

 ムカデが新しく入ってきたティファを威嚇した。

 俺たちの会話など待っていられるかというように、攻撃の態勢を取り直す。俺から受けた一撃が、さらにヤツを興奮させているのだろう。

 ヤツは鎌首をもたげると、俺とティファに襲いかかろうと距離を縮めた。

 にらみ合った三角形が崩れたのだ。

 

「ティファ、話は後だ。気をつけろ! 甲羅の部分に攻撃は効かないぞ!」

「わ、わかったわッ!」

 グローブをグッと握りしめ、いつでも迎撃できる体勢をとる。彼女の手袋にはマテリアが仕込んである。

 直接的な打撃の効果よりも、マテリアを使った属性攻撃のほうが効果的だろう。よい判断だ。

 

 

 

 

 

 

 シャオォォォ!

 

 獲物を狩る爬虫類の速さで、ムカデが向かってきた。

 だが、次の瞬間、ヤツに飛びかかったのは、俺でもティファでもなく、角を持った怪物だったのだ。

 驍ニした上腕でガッシッとばかりに、ヤツの触手を掴み締める。

 角の獣も十分巨体とはいえようが、体躯では遙かに化けムカデのほうが勝っている。なんといっても、頭が天井に着くくらいの全長なのだから。

「ク、クラウド……どうなってるの?」

「……」

 俺にはなんとも答えようがない。

 ムカデはまさか横合いから、炎の獣が飛び出すとは思っていなかったのだろう。鋭敏な触手をわしづかみにされて、戸惑っているかのように見える。

「……なんで、あの角の猛獣が私たちを……?」

「わ、わからない……でも……」

 俺はティファを見ることもせずに、小さくつぶやいた。

「でも……俺たちを守ってくれたみたいだ」

「う、うん」

 

 ギリギリと化けムカデの触手が、人ならざる力で引っ張られる。

 ギエェェェェ!

 と、ひときわ高い声で、ムカデが鳴いた。声帯のある生物ではないが、悲鳴のように聞こえたのだ。

 バチバチとはじけるような音を立てて、獣が触手の一方を力任せにむしりとった。

 キチン質でできている表皮だ。とてもじゃないが、人間の力で引きちぎれるものではない。

「ヴオォォォォ!」

 と、一声咆吼すると、牙を剥いて獣が咆吼した。

 大きく開いた口腔から、炎のを吐き出す。

 それは、化けムカデの顔面にもろに吹き付けられたのだ。一方の触手は引きちぎられものの、もう一方は猛獣に捕らわれたままだったのだから、逃げようもない。

 ムカデ野郎は、急所の顔面から頭部に、もろに炎を喰らった。

 

 ギシャアァァァァァッ!

 

 ヤスリを摺り合わせたような音が、場内一杯に響き渡る。

 もはやムカデは、まともに苦痛を訴えることさえ出来なくなっていた。

 ミノタウロスの火炎は、完全にムカデの頭部を焼き尽くし、ヤツはその長い身体をよじって、断末魔のダンスを踊っていた。

 炭化した頭部が、長躯からもぎ取れる。まるで巨大な岩が、山のてっぺんから転げ落ちるように。

 

「グオォォォォォ!」

 勝ち誇ったように、ミノタウロスの化け物が吠えた。

 結果的に、俺たちは難敵を倒してもらった形になったのだ。

「ク、クラウド……」

 ティファが怯えたように、俺の側に身を寄せる。咆吼した獣が、今度はこちらに注意を向けてきたからだ。

 ……あの、クソデカイ化けムカデよりも、遥かに手強い相手……!

 剣を構え直し、注意深く距離を取った。ティファもただ隠れているような女ではない。同じように構えの体勢で対峙する。