〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<33>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「う……あ…… うあぁぁぁぁッ!」

 ガッと剣を構え、俺は突進した。

 渾身の力で自分と同じ顔をした土塊を切り裂く。

 

 刃先に、重い粘土を絡ませたような鈍い感覚があり、続けざまに第二撃を放つ。

 だが、それもズブッと吸い込まれた。

 

「クラウド、ダメだ。ヤツが泥状になっている間は攻撃が効かない!」

 ヴィンセントの叫びが、俺を正気に引き戻す。

 嫌な汗がぶわりと吹き出し、首筋を伝わり、ノースリーブのネックに染み込んでいった。

「ハ……ハァハァ……!」

「クラウド! しっかりしろ!」

「き、気持ち悪い……! なんだよ、アイツは……!」

「クラウド、落ち着け。あれはセフィロスではない!」

「わ、わかってる…… わかってるけど…… これ、みんなセフィロスがやらせてることなのか? 怪我人や……死人だって、出てるだろ!? 子供や女の人も……」

 ふたたび吐き気がこみ上げてきて、俺は口を拭った。

「神羅カンパニーの人間相手なら……まだわかる。でも、みんな無関係の人たちばかりだ。何の力もない、たまたまこのパークに遊びに来合わせた……」

「セフィロスがそうさせたとは限らない。セフィロス・コピーの本能なのかもしれない……」

 ヴィンセントはきっと俺を慰めてくれているのだろう。仲間の中で、唯一俺とセフィロスの昔の関係を知っている人だから。

「……セフィロスは……セフィは、こんな人じゃなかった。こんなことをする人じゃ……」

「……クラウド」

「もう……本物の化け物なのかな。身も心も全部……昔のセフィじゃなくなっちゃったのかな……」

 敵を目の前にしながら、俺はおのれの悲嘆に暮れた。

 どこかで微かに残っていた期待のようなものが、容赦なく打ち砕かれ、暗い絶望に捕らわれた。

 だが、そんなことは、セフィロス・コピーのヤツにとっては、どうでもよいことであった。

 ヤツはあくまでもセフィロスの劣化コピーであり、ただの戦闘能力に長けただけのモンスターであったのだから。

 

 

 

 

 

 

 ヤツは俺の心の隙を見過ごさなかった。

 そして、それを傷み、心配してくれているヴィンセントの姿も。

 

 ゾゾゾゾと粘土状の土塊がうねり、厚い甲羅をもった怪物が生まれる。

 顔の部分だけが美しいセフィロスのまま、そいつは巨大なムカデのような化け物に変化した。

 

 ギシャアァァァ!

 

 と、耳障りな雄叫びを上げ、ぐぅんと身をもたげる。天井に頭が着きそうな大きさだ。

 

 シャアアァァァ!

 

「クラウド、危ないッ!」

 すぐさま迎撃の態勢をとれなかった俺を、ヴィンセントが突き飛ばす。

 間一髪、ヤツの鋭い爪はヴィンセントのマントをかすめた。

 

 ガゥンガゥン!

 

 間髪入れず、ヴィンセントの銃が咆吼する。

 だが、ヤツの腹の部分に命中した二発の弾丸は、高い音を立ててはじき返された。

「な、なんだ……鉄ででもできてるのか?」

「……キチン質か何かだろう。私にもよくわからない」

 ヴィンセントがつぶやいた。

 セフィロス・コピーに遭遇するのは初めてなのに、彼は冷静に対処している。

 俺が動揺していてどうするのだ、情けない!

「……ごめん、ヴィンセント。もう大丈夫だから」

 あらためて剣を構え直し、俺は精一杯力強くそう言った。

「もう……平気だからさ。あいつはただ能力の一部を移されただけのコピーだ。真実は……セフィロス本人の口から訊く!」

「クラウド……!」

「弱気になってる場合じゃないよな。今は俺たちふたりしかいないんだから」

「そのとおりだ。……腹の一部と背の甲羅はきっと弾丸や剣は通らない。狙うなら頭部か、関節の付け根……!」

 ヴィンセントが鋭く指摘した。

 

 ギシャアァァァァァァ!

 

  戦闘体勢に入った俺たちを、威嚇するようにヤツは巨体をうねらせた。

 錆びた鉄グズを、擦り合わせような音をさせる。

 正体を現すと共に声帯が退化したのか、それは舌を吐息で震わせた威嚇音であるらしかった。

 もとはセフィロスの顔をしていた頭部も、今は醜く崩れ去り、巨大な眼球と牙を持つ、昆虫と蛇を掛け合わせたような様になっていた。

 あの鋭い牙に引っかけられたら、人間の身体など、肉だけでなく骨ごと引き裂かれてしまうだろう。

 

「……いいさ。セフィロスの顔をされているより、ずっとマシだ」

 俺は小さくつぶやいた。